ITOI
ダーリンコラム

<新しい時代の、村中でいちばん>

じゃ、はじめにクイズね。
今回のこの「村中でいちばん」という原稿は、
どんなニュースに刺激されて
書きたくなったものでしょうか。
答えは、文末にあるよ。

えーっと、今回のイタコ文体ですが‥‥。
らくに「近所のおじさん」で書くことにします。

ずうっと世界中の人口が、
どんどん増えてるわけでさ、
昔に比べたら、
ごく一般の人間が相手にしてる世界がさ、
とんでもなく広くなっちゃってるんだよね。
「わが輩は村中でいちばん モボだと言われた男」
ってさ、
絵の件が歌ってたんだよ、
おっと変換が
「絵の件」になっちゃってるけどさ、
「エノケン」が正解だよ。
「キムタク」みたいなもんだ、
榎本健一の省略形ね。
モボってのは、モダンボーイだよ。

村中で一番モダンなボーイってことはさ、
いわば、井の中の蛙っていうことだわな。
そういうこと言ってる歌だよね。
村のなかだけで、
価値が安定していた時代があってさ。
ところが、村から都会に出て行く人が増えると、
村の価値観と都会の価値観と
ぶつかるわけだよなぁ。
そういうことを歌にした時代があったわけだけど、
いまは、村の価値観だとか、
それぞれの地域の文化だとかが、
薄く薄くしか残ってないからさ。
「全国統一の価値観」みたいなものを、
だいたいの人たちもわかっちゃってるんだよねー。

村でいちばん、というものが、
全国で通用するのかしないのか、
群馬県のライブハウスでウケていたバンドは、
日本中の人たちにもウケるのか
‥‥そんなふうなことがね、
気になるようになったわけだよね。
考えようによってはさ、
「井の中の蛙たち」にも、
それぞれの「井の中の蛙文化」というのが
あるはずなんだと思うんだけどね。
例えばね、民謡だとかさ、方言だとかね、
そこらへんのことについての味は、
全国で通じさせようと思うと難しいから、
消えちゃったりするもんなんだよなー。

で、こういう現象がよ、
「おらが村と日本全国」ってところで、
とどまらなくなってるんだよな。
国際社会ってやつだよな。
「おらが国と国際世界」に
なってきちゃってるんだよな。
無理だよなぁ、そんなの。
世界のことなんか、知りようがないもんな。
どんなに知ったって、限度があるよ。
村の人たちとの交流みたいなことはできないよ。

で、どうなるかっていえば、
なるべくその国際だかなんだかの価値の基準を、
簡単にしてくれって話になるわな。
北アメリカも、南アメリカも、ユーラシア大陸も、
アフリカもインドも中近東も‥‥どこもかしこも、
ほんとはみんな価値観ちがうんだよ。
全部に合わせるなんてことは、できねーよなぁ。
こういうときには、大将やってる国の価値観が、
いちばん合わせやすいってことになるんだよ。

ということで、
「アメリカ イズ 国際」っていうふうに
ざっくりまとめあげちゃったほうが、
勝ちに行くにも効率がいいってことだよな。
とにもかくにも、世界とはアメリカだ、
という考えだ。
「他にもいろいろあるだろうけどさ、
 圧倒的なトップがアメリカでしょ。
 映画だって、アメリカで当たらなきゃ
 世界的な大ヒットにならないでしょう」
ってね。
いろんな例外はあるんだけどさ、サッカーとかね。
例を映画にしてていれば、
アメリカが圧倒的に
でかい市場だってことになるわけだ。
戦争とかでも、
「他に誰がこんなことできる?」という
「強さ的なもの」をアピールしてるからね。

もうひとつの、価値観のまとめ方が、
マネーってものだよな。
「それ、買える?」って、大金を積めば、
ほんとにものすごくたくさんのものが
買えるもんな。
ここでも、買えないという例外、
買えてもしょうがないという例外、
いっぱいあるんだけどさ。
買えるものの圧倒的な量があるから、
「いろんな価値観があることはわかります。
 ですから、そのいろんな
 価値観も買わせてください」
というくらいのな、プレゼンテーションでさ、
価値の一本化をはかるんだよなぁ。
これも、強いさ、もちろん。

アメリカとマネーという価値の両巨頭が強いと、
「わが輩は村中でいちばん」なんていう誤解さえも、
根絶やしにされちゃうんだよな。
「国際(アメリカ)」と「マネー」という
ふたつの価値のモノサシを基にして、
世界中が順位付けをされているみたいなもんだよ。
なんつーの、順位付けの会社まであるんだろ?
んで、何位以上はよし、何位以下はダメってさ、
その順番のなかの線引きで、
人間の価値やらさ、
人間のやってることの価値が決まる。
そういう風潮だよな、いまって。

前提として、このふたつのモノサシだけでは、
計れるもんじゃないってことだよな。
いやいや、
計る必要さえないことばっかりだよ、ほんとは。

そういう気持ちが、焚き火の消し残りみたいに、
もくもくもくもく燻ってるね。
オタクとかってのも、「村づくり」だよね。
アメリカでもマネーでもない、
村独自の価値観のなかで生きていくってことかね。
やたらと細かいことに
ものすごく詳しくなってる人たちがいるじゃないか。
その、細かいことってのが
「村の文化」というものなんだよな。

世界的な大ヒットだとか、
数字が読めないほどの大金だとかじゃなくて、
「メガネがかわいい!」っていう価値観の村が、
地域としての村じゃなく、あるだろ。
そういう村が、
人工的な空間にどんどん増えてきちゃってるよな。

いいのわるいの言うつもりはないんだよ、
ただ、人間って生きものは、
一色にされちゃうと、生きていけないんだよな。
そういう意味じゃ、国際とマネーだけの価値観で、
先行有利の試合を続けようとしている
やつらにとっちゃ、
迷惑なやつらだろうね「へんな村」の人たちは。
アホか、と言いたいだろうな。
負け犬どもめ、と言うのかな。
どっちでもいいか。
あんまり何も思ってないかもしれないな。
でもさ、いっぱい村があって、
その村がいろんな文化を育てていて、
人々がたのしく元気で暮らそうとしていることが、
「市場」の活気を醸し出すんだからさ、
バカにしちゃぁ痛い目を見ると思うんだけどなー。

では、はじめのクイズの答えです。
「フィンランドで開かれた
 第11回エアギター世界大会で、
 日本のお笑いコンビ
 『ダイノジ』の大地洋介さんが、
 優勝した」
というニュースに、触発されたのでした。
このようにしょうもないことで、沸きおこる興奮、
国際大会の意味を無にするような虚しい競技、
開催地がフィンランドというナイスな加減の地、
優勝者がエアギター練習しはじめて、まだ8ヶ月
というイージーな内容‥‥現在という時代の
ユーモアと悲痛が、
まるごと入ってるよなと思ったわけ。
まったく別の角度から、少しだけまじめに
この競技に光を当てるとしたら、
「エアギターの大会とは、ダンスの新しい種目だ」
ということになると思いました。

その後、相方のダイノジの大谷さんから、
「始めて2日で日本チャンピオンに、
 2週間で世界チャンピオンになった」
という訂正のメールがありました。
そのように訂正させていただきます。
(2006-09-12:追記)

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2006-09-11-MON
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