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ダーリンコラム

<けっこう売れる!>

小さくて高価なクルマというのは、
昔はありえなかった。
よくよく考えたら、
いまも、そういうクルマはなさそうだ。
ほんとうは、あったほうがいいと思う。
値段の高いクルマが、
大きいサイズ、
大きなエンジンのものばかりというのは、
古すぎる。

たぶん、「小さい高級車」というのは、
大量に売れるものではないのだろう。
でも、大量に売れないとしても、
「けっこう売れる」と思うのだ。

不便な場所にある繁盛店、というのも、
かつてはなかったものだった。
しかし、これだけ交通網の発達した時代に、
「不便な場所」の概念は変わっているはずだ。
不便な場所というのは、
「にぎやかすぎない場所」というだけだったりする。
隠れ家風のレストランとか、住宅の料理店とか、
マンション3階のブティックとか、
実際に流行すると、
「不便だから売れたんだろう」と、
おなじようなことをやろうとする人が出てくる。
でも、不便な場所よりも、便利な場所のほうが、
商売はやりやすいに決まっている。
不便な場所で店を開いても、
「けっこう売れる」というだけだ。

いろんなものがあって、
だいたいのものが買えるという店に、
たくさんの人が訪れる。
一種類のものしかなくても、
その一種類がいいものだったら、
そこそこの数のお客さんが集まる。
そして、決して大量には売れないけれど、
「けっこう売れる」ということはよくある。

営業上の秘密にしたいくらいのことなのだけれど、
あらためてビックリしたことがあったので、
教えちゃおうと思う。
先日、たった38点の手づくりのバッグを、
「ほぼ日」で販売した。
制作者自身が付けた価格設定は、
正直言って無茶苦茶だと思った。
稼ぎのことだけを考えたら、
バッグをつくっているよりも、
時給1000円のアルバイトをしていたほうがいい。
このバッグを気に入って、買ってくれた人にとっては、
これはとてもオトクな買い物だったということになる。
格安だったから売れた、わけではないと思うけれど、
購入希望者は、とにかくとても多かった。
もし、すべての人が買えたとしたら、なんと、
数千万円の売上げになったという計算にもなる。
事実上は、どう数えたって38点しかないのだから、
数十万円以上にはならないのだけれど、
ポテンシャルとしては、
その100倍あったというわけだ。
これも、大量とは言えないけれど、
「けっこう売れる」ものの愉快な物語だ。

いま流行しているらしい
「ロングテール」という考え方も、
「けっこう売れる」の、ひとつの道すじだ。

ぼくには、この「けっこう売れる」が
おもしろくてしょうがない。
ピアノの先生をやって、
会社員よりちょっと少ない収入を得るのも、
「けっこう売れる」だと思う。
テレビにでてないけれど、なんとかなってる
バンドとか歌手とかも、たくさんいるという。
これも「けっこう売れる」生活をしているわけだ。

いっぱいとか、山ほどとか、
笑いがとまらないほどとかじゃなくて、
「けっこう売れる」というのは、
とても当たり前で健康的な、
今も昔も変わらない商売のあり方のように思うのだ。
「あんまり売れない」のなら、
やめてしまうか、なにか工夫したほうがいい。
「大量に売れる」をあてにするほどには、
だいたいのつくり手は、お金もしくみも持っていない。
しかし「けっこう売れる」ならありうるし、
事実、ほんとうにたくさんの
「けっこう売れる」商品やビジネスが存在している。

前に、ぼくは「夢が小さい」ということについて、
肯定的なことを書いたような憶えがある。
例えばの話、サッカーをしている少年が、
「ぼくワールドカップで優勝するんだ」
と言っているのは、
夢が大きくていいのかもしれないけれど、
それは応援しようもない大きさなのだ。
逆に、「明日の試合で1得点でもあげたい」
というなら、
それは「小さい夢」かもしれないけれど、
つかめるし、ウソにならない面白味がある。
その感じと、
「けっこう売れる」は近いように思えるのだ。

大会社の人たちには、「けっこう売れる」じゃ
商売にならないと言われちゃうかもしれないけれど、
ほんとうにみんなが欲しいモノって、
誰もが買わざるを得ないような
大量に売れる商品じゃなく、
欲しい人は欲しがる「けっこう売れる」ものなんだと、
ぼくは思っているのです。

500万円の小型車なんて、必ず、そのうち
「けっこう売れる」クルマとして登場すると思うよー。

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2006-07-24-MON

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