ITOI
ダーリンコラム

<効くには効くっていうか、効く>

格闘技のファンは知っていると思うけれど、
マットの上で、相手に馬乗りになって、
顔面を中心に殴りつける場面がよくある。

ぼくらは格闘技の選手ではないので、
あんな拳を一発でも二発でももらったら、
すっかり意気消沈して
戦闘意欲もなにもなくしてしまうだろうと思う。
大工さんが金づちで釘を打っているような姿勢で、
ボカボカボカボカ殴り続けているのに、
そういう場面で試合が終わったことは、まずない。

試合経験も多いし、試合の解説のうまい高阪剛選手に、
あの「馬乗りでボカボカ」というのは、
どういうものなのか、訊ねたことがある。

「あれは、あんまり効かないんです。
相当腕力のあるやつのパンチだったら、
痛いことは痛いし、うれしくないですけど、
腰を浮かせて立ちの位置からでないと、
腰が入らないですから、効かないんです」
殴られた目が腫れていようが、出血しようが、
根本的に効いてないのだという。
「じゃ、なんなの?」
「いやがらせというか、そういう効果はありますよ。
 それをよけている時に、
 瞬間的にどこかのガードが空くこともあるし、
 効かないなりに、数もらっているとストレスですから」
つまり必殺というか、致命的な攻撃にはならないけれど、
やる意味はあるということだ。
そりゃそうだ、効かないと言っている高阪選手だって、
「馬乗りでボカボカ」はやっているものな。

そういえば、ボクシングなんかでも、
まれにはあるかもしれないけれど、
ジャブで倒れる選手は基本的にはいない。
では、ジャブに意味がないかというと、
決してそんなことはないわけで、
試合のなかでいちばん数多く繰り出されるのはジャブだ。

ほんとうに効果的な、必殺技みたいなものは、
そんなにたくさんあるものではないし、
そういう技を出せるチャンスそのものが、
あんまりないものなのだ。
野球でいえば、ウイニングショットというやつだ。
全投球をウイニングショットにします、
なんてことはありえないし、あったらそれは
ウイニングショットではなくなってしまう。
ウイニングショットでない球が、ほとんどなわけだ。

絶体に盗塁しない走者よりも、
たとえ足が遅くても、盗塁するかもしれないぞと、
嫌みな距離でリードを見せるランナーのほうが、
敵の投手にあたえるストレスは稼げる。

麻雀なんかでも、「ツモのみ」なんて、
他のメンツから顰蹙かいまくりみたいな手でも、
他の人に勝たせなかったという意味で、
また少しでも敵にダメージを与えたという意味で、
やっぱりダサいけれど効果がないわけじゃない。

ぼくは性格的には、そういうふうな攻撃は好きじゃない。
できることなら、敵も味方もうならせるような
クリーンヒットで試合を決めたいものだねぇ、などと
お気楽なことを言い続けてきた人間のひとりだ。

しかし、実際には「馬乗りでボカボカ」みたいな
相手にストレスを溜めさせていくような手は、
やっぱり効かないわけじゃないということも知っている。

いわゆるイヤな意味で大人な世界で、
怪文書だとか、悪い噂を流すとかいうような、
そういう戦術がとられることがある。
インターネットのなかでも、
決定的なダメージを与えられなくても、
じくじくじくじく攻撃対象の悪口を大量に書いていく、
というような攻撃がある。
こういうものは、身に覚えのない人には効かない、
という言い方で慰められたりもするのだけれど、
実際には効かなくもないのだ。
「誰かが、悪意をもって自分を見ている」とか、
「複数の人間が、自分を攻撃している」と知るだけで、
自由な発言や行動はかなり制約されてしまうことになる。
自分の言うこと、やることに、
「落ち度はないか」を確かめながら生きるだけで、
その人の「思いきり」だとか「勢い」というようなものは、
相当にそがれることになる。
「効かないパンチ」も、やっぱり効果はあるのだ。

インターネットが、いまでもなんだか警戒されているのは、
「いやがらせ」の連打、というような手が、
けっこう効果を持ってしまうという理由もありそうだ。
ほんとうにたくさんのサイトが、
疲れたという理由で閉鎖されたのを見てきた。
決定的な、必殺技によって倒されたというのではなく、
たぶん、たいていのサイトの管理人さんは、
ストレスに負けて、続ける動機を失っていったのだろう。

ま、もちろん、インターネットは、
現実の世の中の鏡みたいなところもあるし、
現実がいやがらせだらけの世界なのかもしれないけれど、
「きれいな手」であがる麻雀が感心されるみたいな、
クリーンヒットが大きな拍手をもらうみたいな、
きれいに入ったカウンターパンチが感動を得られるような、
‥‥そんな「きれい」さへの意思みたいなものを、
持ち続けたいものだよなぁ、と、
「ほぼ日」7周年を前にして思うのだ。

よく、「ほぼ日は、おだやかでいいですねぇ」なんて
言われたりするのだけれど、
それなりにストレスはありますとも、ですよ。
痛がったり、弱ったり、我慢したりもしながらでないと、
こんなに長い期間、毎日更新しながらなんて
やってこられるものじゃありませんって。
「ほぼ日」を読んでくれている人のなかには、
自分のサイトを持っていたり、
ブログで自分の考えを発表している人もたくさんいる。
そういう人たち、がんばろうね!

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2005-05-30-MON

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