ITOI
ダーリンコラム

<ていねいなことば>

ヨンさまのあのドラマを、ぼくも、全巻観ている。
しばらく前に、半信半疑で観はじめたら
やめられなくなってしまって、とうとう最後まで観た。
観はじめたらやめられない、
というふれこみのドラマとして、
同じような時期に『24(トウェンティフォー)』があった。
こちらも第1シーズンは全巻観た。
第2シーズンも予約したので持っているけれど、
そっちは箱に入ったまま、封も開けていない。
観出したら、次から次と続きが観たいのだけれど、
それがあんまりいい気持ちじゃないのだ。
おもちゃに遊ばれている、というような
後味の悪さが、ぼくには残ってしまうのだった。

『冬のソナタ』のほうは、
すばらしいとは言いにくいのだけれど、
物語にひっぱられていることにけっこう快感があった。

観る前と観た後のいちばん大きなちがいは、
ヨンさまのことを、嫌いじゃなくなっていたことだった。
観る前は、「いけ好かないオトコ」くらいに
思っていたのだ。
会ったこともないのにずいぶん失礼な話だ。
すいません。
しかし、ドラマを見終わった後のぼくは、
他の人たちがヨンさまについて
苦々しいというような感想を述べているときにも、
決して同調することなく静かに微笑んでいる。
「いや、ヨンさまはそんなんじゃない!」
とか反対意見を述べるまでのことはしない。
顔が好きだの嫌いだのということについて、
反対してもしょうがない。

ただ、とにかく、『冬のソナタ』を、
ぼくはヨンさまに感情移入しつつ観ていたのだった。
ヨンさま演じる主人公が幸せになればいいのに、
彼の恋が成就すればいいのに、という気持ちで、
一話ごとに一喜一憂していたのだった。
おかしい?
おかしいと言われてもしょうがないような気がする。

ただ、ぼくは『冬のソナタ』のヨンさまには
感情移入したのだけれど、
彼のファンになったということでもないようだ。
ひととおり全巻見終わったら、
それ以上の興味は持続しなかったようで、
けっこうクールに芸能ニュースのヨンさまなどを見ている。

なんであのドラマのなかでのヨンさまには、
あんなにしっかりと思い入れられたのだろうか?

ここからが、もともと書きたかったテーマなのだ。
これまでのヨンさま話は、前フリなのです。

「ていねいなことば」でしゃべる人を、
人は好むものなのだ。
そういうことが言いたかったのだ。
『冬のソナタ』を、ぼくは日本語版で観た。
実際のヨンさまは、大きな身体で、
それに合わせてけっこうふとい声らしいが、
日本語版の吹き替えは、萩原聖人さんだった。
ドラマのなかでの日本語のヨンさまは、
どんな相手に対しても、どんな状況にあっても、
いつでも「ていねいなことば」で話していた。

もちろん、ぼくも、
「ていねいでないことば」の魅力も知っているつもりだ。
しかし、やっぱり「ていねいなことば」を
いつもしっかりしゃべる人に対しては、
自然と好感を持ってしまうようだ。

先日、ひさびさに川勝平太さんにお会いしたのだが、
「ていねいなことばづかいの人を、人は好きです」と、
川勝さんも、まるで何かの法則を語るように
おっしゃっていた。
川勝さん、ヨンさまについてはどう言うかなぁ。

「ていねいなことば」をしゃべる人は、
そのことで相手に「安全で安心な人」と思われやすい。
話せばわかってくれる、
急に噛みついたりしない人であるということが、
自然に表現されている。
ぼくが、『冬のソナタ』日本語版にヨンさまに、
しだいに好感をもつようになった理由とは、
おそらくこういうことだった。

そういえば、なのだけれど、
テレビの画面のなかで活躍する人のなかに、
「ふるまいはハミダシているのに、ことばはていねい」
という人気者の系譜がある。
このところでいうと、篠原ともえという人がそうだった。
そのポジションに、いまは「カバちゃん」がいると思う。
「ていねいなことば」は、どんなにおしゃれな服よりも、
身につけている人をよく見せてくれる。

このことについて書こうと決めて、
度忘れしていた「萩原聖人」さんの名前を検索してたら、
『冬のソナタ』の字幕で、
ヨンさまが自分のことを
「オレ」と言っていることについての記事があった。
そりゃぁ、まずいですよ、
「オレは‥‥」とか言ってるヨンさまでは、
恋敵を殴りそうです。

ま、とにかくですね、
オレ自身も、もっと「ていねいなことば」を使うように、
気をつけようと思ってます。
あなたも、ぜひ、そうしてください。

あ、いま急に思い出したのだけれど、
『新選組!』に登場する伊東甲子太郎の場合、
「ていねいなことば」が、ワナを感じさせますなぁ。

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2004-10-25-MON

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