ITOI
ダーリンコラム

<じゃまものを、捕らえてみれば自分なり。>

くちびるの両端を指で左右にひっぱって、
口を無理やりに長い一文字に開く。
そして、「机の上の文庫」を言う。
そんなアホな遊びを、こどものころにやりましたよね。
要するに、他人に「図らずも雲古と言」わせるわけです。
くだらないよねぇ。
でも、何度もやったような気がする。

こないだ聞いた新しい遊びなのだけれど、
上くちびると下くちびるを、絶対に接触させないで
「どっこいしょ」と言ってごらん、というのがあった。
みごとにひっかかった場合には、
「おっこいほ」みたいな発音になっちゃう。
しかし、よく考えてみたら、
もともと「どっこいしょ」と発音するときには、
上と下のくちびるはくっついてなかったのだ。
「上下のくちびるをつけないで」という約束事には、
「舌を動かさない」という条件は含まれていない。
なのに、上下のくちびるを絶対に接触させない、と、
強く意識すると、舌の動きまで止めてしまうのだ。
なんにも考えずに、「どっこいしょ」と言えば、
問題にすらならないのにねぇ。

自分が、勝手に、自分のじゃまをしていたのだ。
またもや、と、ぼくは思った。

自分のじゃまをするやつとは、たいてい自分なのだ。
どうも、そうらしい。
そんな気がする。

なにかをやりたいと強く思う、それも自分だ。
しかし、その自分のやりたいことのじゃまをすることにも、
誰より熱心なのが、自分なのだ。
たいていのぼくらは、
アクセルを踏み込みながらブレーキも踏んでいる。

最初に、ああやっぱりそうか、と思い当たったのは、
「おしりぺったん」とか呼ばれる体操だった。
「まっすぐ立った姿勢で、足の踵(かかと)を、
おしりのほっぺたの部分につけることができますか?」
という質問だった。
どれだけ身体のやわらかい人でも、
おそらくそれは難しい。
踵をおしりに近づけていくことはできても、
つくまでにはならない。
もう、ほんのちょっとから先が、無理になってしまう。

ところが、簡単にできる方法があるのだ。
立ったまま、片足立ちし、
しりに触れるべき踵のほうの足を、
ぶらんぶらんと揺すって、勢いをつけてはね上げる。
ばかばかしいほど簡単に、踵はしりにつくはずだ。
もともと、簡単につくはずだったのだ。
それを、つけさせないように働く筋肉が、
じゃまをしていたので、つかなかったのだ。

(ぜひ、実際にやってみてくださいませ)

なんだか、たいていのことが、
このパターンにはまるように思うのだ。

だってさ、たとえば、ね、
「早起きして、朝型の生活にするぞ」なんて決意する。
これを実現するのに、誰がじゃまをする?
自分以外の誰が、朝に「起きるな起きるな」と働く?
自分が、「起きたくない起きたくない」と、
勝手にじゃまをしているだけだろう。

英会話の勉強をしよう、と決めたあなたに対して、
「勉強したらただじゃおかないぞ」と
脅かす悪党が、どこにいる?
なにかと理由をつけてサボって上達のじゃまをするのは、
他でもない、あなた自身ではないか。

たいていのことは、誰かのせいにできるのだけれど、
その前に、ほんとうの犯人は、自分なんだよねぇ。

いつも、そういうところあるんだけれど、
今週も、主に、自分に向けて言ってみました。
どっこいしょ!

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2004-05-10-MON

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