ITOI
ダーリンコラム

<おなつかしや、シリコン。>

「ああ、そういえば!」と、唐突に思い出した。
シリコン・バレーだとかいう言葉を何度聞いてても、
結びつかなかったんだけれど、
急につながったのだった。

何を言ってるのかわかんない?
わかんないよなぁ、これじゃ。

ぼくはですね、実は、このシリコンという言葉を、
たまたま10歳くらいのときに知っていたのだ。
『小学4年生』というような学年誌だったのだけれど、
そういうところに、シリコンの記事があったのだ。
もちろん詳しくは憶えてないのだけれど、
たしか、シリコンというものが
謎の物質のように紹介されていたのだった。
電気を通したり通さなかったりする、だとか、
ゴムのようにも使えるのではないかとか、
そんなふうなことが書いてあったと思う。
「まだまだ使い道は、はっきりしてないけれど、
可能性のある物質である」
という科学ニュースだった。
当時は、人工衛星だとかが世の中の話題で、
男の子供は、半分くらいが
将来は科学者になりたいと言っていたような時代だった。
きっと学年誌も、そういう風潮のなかで
科学ニュースを記事にしていたのだろう。

この記事が、ぼくの記憶のなかに妙に残っていたのだ。
なぜ、そんなによく憶えているか、理由を知っている。
その記事の結びに、
「このシリコンを、どんなふうに利用できるのか、
読者の皆さんも、ぜひ考えてみてくださいね」
という意味のことが書いてあったからだ。
そう呼びかけられて、10歳くらいのぼくは、
なにもわからないままに「いちおう考えた」のだった。
「よし、俺が考えてやる」と、根拠なく意気込んだのだった。
その時、そう思っただけでなく、
たまにはシリコンのことを思い浮かべ、
「どうしたもんかなぁ?」と、たまに考えたのだった。

やがて、シリコンは、当時小学生だったぼくが
考えるのをやめた後も、
大人の科学者や技術者などが研究し続けていたために、
その可能性をすっかり花開かせていった。
おっぱいの整形手術に用いられたりするのもそうだけど、
半導体としての分野で、シリコンは大出世しちまっていた!

「シリコンバレー」のシリコンって、
思えば、あの小学生用の学年誌に載っていた科学ニュースの
あの、無限の可能性を秘めた物質シリコン様だったのだ。
インテルだのマイクロソフトだのも、
シリコンのおかげで成り立っている会社ずらよ。
IT産業ばかりでなく、ITに関わっているすべての産業は、
シリコン様のおかげをこうむっているんじゃなかとかね。
すげぇっぺよ!
あの「可能性の物質」が、現代を支えてるだよ。

というようなことが、いまさら、今日、つながったのだ。
別に教訓じみた話にしようとは思わないのだけれど、
小学生のぼくは、すっかり「シリコンの利用法」について
考えることをやめてしまったのだけれど、
ずっと長い間考え続けていた人々がいたおかげで、
こういう現実がやってきたんだよなぁと、
ちょっとした感慨があった。

それと、もうひとつ、小さいことなのだけれど、
学年誌の担当編集者が、小学生に向かって
「読者の皆さんも考えてみてくださいね」みたいなことを
ちょっと書いたことが、ぼくみたいなお調子者に
「よし、考えてみよう」と思わせたんだなぁ、ということ。
小学生に考えられるもんか、と
普通だったら思うのだろうが、
原稿の分量が足りなかったからか、本気で思ったからか、
「考えてみてくださいね」と書いたおかげで、
何も変わりゃしなかったのだけれど、
なんか、ぼくにはとてもいい経験ができたと思う。

きっとインターネットみたいなシステムの使い方についても、
まだ、とんでもなくいろいろな可能性があるのだと思うのだ。
「読者の皆さんも、考えてみてくださいね」。
まだまだ、ぜんぜん、芯をくってないような気がするんだ。

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2002-12-23-MON

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