ITOI
ダーリンコラム

<大流行直前の法則>


モノゴトが、大々的に勢力を拡大していくときというのは、
なんか、法則があるような気がする。

中国の「インターネットカフェ」で、火事があって、
24人だかの若い人が命を落としたのだそうだ。
5月にも、同様のインターネットカフェの火災事故があり、
2人が亡くなっているらしい。

まったく不幸な出来事なのだけれど、
これは間違いなく、
中国のインターネットが爆発しつつあるということだ。

なにか、新しい勢力が力を持つ過程では、
かならず、それまでの社会の仕組みとの関係が
うまくとれない状況が起こって、
事故や事件が起こってしまう。
そして、その不幸な事故や事件は、
不幸で、新しくて珍しいニュースであるがゆえに、
大々的に報道され、人々の興味を強く惹きつける。
そして、好奇心に満ち満ちた人々が、
さらに、事件のみなもとへの旅人となり、
新しい勢力は、加速度的に大きく拡がっていく。

おそらく、中国のインターネット事情は、
いままでにないくらいの速度で拡大していくだろう。
「インターネットカフェ」での、続けての火災事故は、
「事故の起こる可能性のあるくらいの
 急ごしらえの場所」に、
大挙して人が訪れていた、ということの結果だ。
つまり、急ごしらえで「ネット商売」を始めても
おおいに儲かるだけの状況が、
もうすでに中国には存在するということが、
この火事のニュースでハッキリしたというわけだ。

ぼくが、まだ小学生だったころ、
ある新興宗教の団体が集会をやって、
その会場になっていた民家の二階の床が抜けて、
おおぜいのけが人が出るという事故があった。
「そんなにすごいのか」と、小学生のぼくでさえ思った。
集まる場所を時間をかけて用意するよりも、
ずっと早い速度で、集会に参加したい人々が増えていたのだ。
床の抜けるような民家に、
そういう人々が、たくさん集まったから、
事故が起こったということだ。

一時、お年よりの間で大流行していた
「ゲートボール」も、似たようなことがあった。
競技が加熱して、殺人事件にまでいたったという
ニュースが新聞にでた。
殺人にいたるほど「熱狂」するゲームが、
ゲートボールなのだということが、この報道でわかる。
その後、流行がさらに拡大したのは言うまでもない。
ただ、いまいかにも下火になっている印象があるのは、
きっと団体や組織の運営がうまくいかなかったんだろうなぁ。

ファッショナブルでプロ的なスニーカーが流行したら、
「そいつを履いている足ごと盗む犯罪者」のことが
報じられたっけ。
「ニューヨークでそんな靴履いていたら、
 足ごと切られて盗まれちゃうぜ」という
冗談とも本気ともつかない蘊蓄が、
あちこちで語られ、そのスニーカーのブランド価値は、
とんでもなくアップしていった。

なにかが爆発的に拡大していくときには、
たいてい、新聞の社会面的な事件があるように思う。
小流行から中流行に至るときには、
それは必ずしも必要ないようにも思うけれど、
中から大に至る道のりでは、
ほとんど必須に近い条件になるのではないだろうか。

これが、だいたいは明るくにこやかな事件なんかじゃなく、
不幸や悲劇をともなったニュースというかたちで、
世間に知らされるのが、たまらないのだけれどね。

いまのワールドカップの熱狂にしても、
悪名高いフーリガンの存在が「大きな影」をつくって、
人々の注目する眩しいほどの輝きを強めているのだと思う。
いいとか悪いとかの問題じゃなく、
どうも、大衆社会の流行の法則ってものは、
そんなふうに、あるような気がしてならない。

え?「ほぼ日」ですか?
社会的な事件は、ちょいと遠慮しておきたいです。

2002-06-17-MON

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