ITOI
ダーリンコラム

<鳥越さんは、電気釜である?>

時間は人類全員に平等に配られた富である。
とはいうのものの、
その時間を節約する機械として
洗濯機やら炊飯器やらが発明され、
販売され、受け入れられたわけですよね。

それで節約された「時間の貯金」をあてにして、
映画やテレビや本や雑誌や、
情報エンターテインメントという商品市場が生まれてきた。
そういう考え方もできるわけだ。

そして、情報という「時間食い」の商品があふれてくると、
再び、時間が不足してきたというわけです。
なんだか、今日は、字面がむつかしそうですけどね。へへ。

こうなると、この次にはまた、
時間を節約する商品(システム)が売れるに決まってる。
そういう考え方が成立するのではないかと、
ぼくは思っているわけですよ。

最大の根拠は、じぶんに時間がないからじゃ!

前にも書いたかもしれないけれど、
現在の消費者のご意見というものは、
「消費する時間をたっぷり持っている」
比較的ひまな人々からの発信に偏っている。

極端な例が、音楽市場ですよ。
知らないもん、普通に生活してたら。
CD一枚聴くだけだって、1時間はかかるんですよ。
それをいつも流していられる人なんて、
社会人には、あんまりいない。
となると、好きな曲を発見するために、
いろんなアルバムのなかから選ぶなんてこと、
できやしないはずなんですよね。
いまの音楽チャートを賑わしている人たちが、
どんな曲をやっているか知るためだけでも、
けっこうな時間コストがかかります。

だから、時間を音楽のために使える人たちや、
チャートの上位の曲を選ぶことで
「時代の匂い」を感じたい人たちが、
ベストヒットチャートというものをつくりだして、
時間に不自由している人たちが、
その情報(だけ)を、拾って、
「いまの歌ってこんなもの」という感じをつかむわけだ。

他の商品についても、おなじような構造になっている。
「売れてます!!」という商品コピーが、
いまはいちばん強力である。
売れているということは、なにかいいことがあるんだろう。
と考える人たちが、時間を節約して、
「売れてます」情報を鵜呑みにしてくれるからこそ、
いまの市場管理は成立しているわけだ。

しかし、このカタチを壊してしまうかもしれないのが、
ぼくは、インターネットだと思っているのだ。
消費のために時間コストを支払えない人々、
つまり働き盛りの忙しい人たちや、
「売れているから」という理由で買うことに、
疑問を感じている人々は、
つまりは、自分の価値観を、
世間の価値観とちがうところに持っている人々である。

しかし、こういう人たちは、
世間の価値観でつくられていくベストセラー商品以外を、
じっくり選んでいるような時間がないのだ。
『モーニング娘。』は要らないと言っても、
じゃ、他の新しい曲はどこにあるの?
それを探すには、忙しすぎるし、他にやることがある。
だから、「新しいCDなんか買わなくていいんだ!」と、
開き直ってしまうわけだ。

映画やゲームの「2もの」「3もの」といった
シリーズ企画が当たる構造もそういう時代の特徴だ。

しかし、インターネットというやつは、
ほんの少しの自分の空き時間を、
忙しい毎日のなかに探しさえすれば、
ベストテン的でない、チャート上位でない情報を、
自分で探せる可能性があるのだ。

例えば、鳥越俊太郎さんの、
「3分間で、最近のニュースを知る」という企画は、
こういった背景から考えたものだ。
鳥越さんは、新聞の一面からいままでの価値体系で
上位になるニュースを、なるべく拾わないで原稿を書く。
しかも、一日分の原稿で紹介できるニュースは、
せいぜい多くて3つしかない。
ニュースの全部を知ることなんて、誰にだって無理だ。
そうかといって、重要な順番を人気投票的に
決められるものではない。
ある信用、ある信頼感をもとにして、鳥越俊太郎、
その人を、読者は「雇った」ということになる。

なんのためか?
時間コストを削減しながら、
自分の価値観を持ち続けたいと思うからだ。

おおぜいの読者や視聴者を前提にする、
(しかもひとりもその読者を逃してはならない)
マスメディアでは、この方法はとりにくい。
インターネットだから、
これが可能になったのだと、ぼくは思っている。

つまり、ぷふっ(笑うな)鳥越俊太郎は、
情報という「忙しさのもと」に払う時間コストを、
3分間に短縮してくれる電気釜の役割を果たしてくれる。
そういうことなのだ。

むろん、
『鳥越が3分に短縮するのはいいけれど、
森本毅郎にはまかせられない』、
とか、その逆とか、人の意見はまちまちであろう。
しかし、インターネットには、そういう
まちまちな場が、これからどんどん増えていくのだ。

今回は、よその大きな(しかも間違った)サイトが、
まねしたらトクをするような親切な短文を書いた。
ぼくが、いままで、「ソフトこそが必要なんだ」とか、
「クリエイティブだけが、重要になるんだ」とか、
強く言っていたことの、内容の一部を、
種明かしのように語ったつもりである。

ただ、ここまでわかっても、
「ほぼ日」の「あれくさこればい」のようにはならない。
そこが、日常不断の企業努力とか個性とかに関わる、
さらに大事な「インターネット観」があるはずなのだ。

今回は、やや生意気な深夜を過ごさせていただきました。
これを書けるのは、実は、
うちの読者のすごさのおかげです。

2000-03-27-MON

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