ITOI
ダーリンコラム

<こっちの場所に移動だな>

◆実は、読めばわかるとおり、
「postman@1101.comから」のために書き始めたのですが、
内容的に、この「ダーリンコラム」の場所のほうが
ふさわしいような気がしてきたので、
こっちの場所に掲載しますね。

いつも勝手なdarlingさん、あ、俺か?!

予定にはなかったけれど、
急に「postman@1101.comから」を作りたくなったので、
「箱根駅伝」の実況音声聞きながら、つくります。

要するに、Y2K問題です。
いろんな人がいろんなことを書きました。
例えばぼくは、12月29日、以下のように書きました。


わーわーわーわーっ!
今年の「今日のダーリン」も、これを含めて3回だけ。
なにか気の利いたことを書こうとか、
思い出に残る文章を書きたいとか、がらにもなく思ったり。
しかし、そういう時には書けないものなのよ。
つまんないことしか思いつかない。
特に「2000円問題」もとい「2000年問題」について
なんて、わざわざここで触れたからって何になる?
まったくわからないときに、
「わからないからあらゆる可能性を考えて対策を練る」人と
「わからないから、ごろりと寝る」人と、
「わからないなりに気休め程度のことをして、寝る」人とが
いるような気がします。
ぼ、ぼ、ぼくらはたぶん2番目の人たちです。
だって、何をすればいいのよ、いまから?
あ、いまからってのは嘘だね。
前々から知っていたもの。
でも、飛行機にも乗らないし、
どうせ山ん中で穴掘ったりしているんだし、
じたばたしたってしょうがないでしょう。



どたばたした時期に書いているものだけれど、
これを書いた頃の「買いだめブーム」や、
「プレ・パニック症候群」が、気持ち悪かったのです。
つまり、ひとりひとりの普通の人が、
何かをすることなどできない問題を、
顔色蒼くして騒ぎ立てることが、イヤだったんです。
地震の噂がある時も同じなんですけれど、
どこどこに逃げるとか、食料確保だとか、
金持ちはシェルター持っているんだとか、
悪あがき的なヒステリー現象が起こるんですよね、いつも。
いや、いいんですよ。
自分を生かすための最低限の準備をしておくのは。
公共機関があてにならないということは、
いろんな過去のケースで身にしみているんだしね。
だけど、ミサイルが飛んでくるだの、
交通機関は使えなくなるだの、
市民レベルで考えても、どうにもならない問題と、
3日分の飲料水を買っておくということが、
セットで語られるのが、気味悪いわけです、ぼくには。
で、つい、ちゃかしたくなっちゃうわけ。

そして、「あのくさ こればい」のコーナーで、
鳥越俊太郎さんも、以下のようなことを書いていました。


1月1日のニュースから

Y2K問題はなーんにも起きませんでしたね。
いろいろと買いこんでた人はどうするんですかね。
私の印象ではちょっと騒ぎすぎだったんじゃ
ないでしょうか。

小渕首相が記者会見で国民も各自対応したほうがいい
みたいなことを言ったあたりから、少し雰囲気が
変わりましたね。
不安感。
これはいったん抱え込むときりがないんです。

あれもこれも、と結構
買いこんだ人が多いんじゃないでしょうか。
ま、自己責任ですから、
何もなきゃそれはそれでいいんでしょうが。
私の家では夫婦ともにノンキナ方なので
風呂に水を張っただけで何もしませんでした。

しかし、原発などでマイナーな誤作動トラブルが
報告されているところをみると、
問題はやっぱりあったんですね。
現場の人たちの必至の努力で大事故は
避けられたとみるのが妥当なんでしょう。


ああ、ぼくと似たようなスタンスで、
Y2K問題を見ているんだなぁと思いながら読んだのでした。
そうそう、
『不安感。
これはいったん抱え込むときりがないんです』。

そう思っていたら、
一通のメールが飛び込んできました。
Y2K問題の解決に直に関わった方からのものです。


鳥越さま、
いつも楽しく読ませていただいております。
「おいら」とともに毎日読んでおります。

本日の鳥越さんの文章の中で気になったので、
少し書かせてくださいませ。
2000年問題に関して
「ちょっと騒ぎすぎの印象」のところですが、
たいした問題もなく2000年を迎えることができた
安堵感で「やっぱり何も起きなかったじゃん」と
多くの人が思ったとは思いますが、
それが文章になってしまうと、
この2年以上もの間2000年問題のために
ものすごいプレッシャーの下で尽力くしてきた
(そしてそれはまだ続いている)人々に対して、
少しなんだか思いやりに欠けるというか、
「そりゃそうだけどさ、
じゃ ミサイルでも飛んできた方がよかったの?」と
ちょっと面白くないなという感じがするのです。
(実は私も少し前まで担当していたので。)

私が経験した2000年対策の仕事では、
社内のシステムの対応確認から、社員の啓蒙、
果ては取引先の対応確認などを課せられていました。
社内のコンピュータシステムの見直しは、
私がいた会社ではたいした量ではなかったのですが、
社員への啓蒙や取引先への確認作業などは
比較的早い時期に開始したため、
かなり煙たがられていました。
自分自身もここまでやる必要があるのかと
疑問に思いながらいやいややっていました。
2000年対策は誰もがやりたがらない仕事
(コンピュータに関しては、
やってもあまり自分のスキルアップにはならないため)で、
かつ誰かがやらなければならない仕事だったと思います。
2000年担当者になったために、
上司からは「失敗したらいっしょにクビだね」
などと言われ、
社内では「電気がとまったりした時のことまで
僕たちが考えるの」なんて笑われたりしました。
おまけに営業からは
「取引先に確認したりするといやがられて売上落ちるよ」
なんて言われたことも。
多くの2000年担当者が
このようなプレッシャーや無理解の中で、
なんとかやってきたと思います。

「そんなに騒ぎ立てなくてもよかった」のではなく
「ここまで騒いだからこそ」みんなが
やっと重い腰を上げて、
世界中が足並みを揃えてやれたと私は思っています。
このような「脅し」的な社会不安を煽るようなことが
いいことだとは思いませんが、
この2000年問題に関しては
「誰もはっきりとしたことが言えなかった」ため、
極端に聞こえるようなことまで
視野に入れなくてはならなかったのです。
この問題をきっかけにして、
企業の危機管理などを考えることができ
(阪神大震災でもそうでしたが)たし、
おまけに何もなかったということであれば
それはそれで「もうけもん」だという発想を
皆さんがしてくれたらいいなと思います。
「煽るだけ煽って、何もなかったじゃないか」なんて
責めるようなことだけは言ってもらいたくはありません。

とはいえ、これから多くの企業が
年またぎの間電源を落としていたコンピュータなどを
立ち上げていくはずなので、
まだまだ担当者は油断できないのです。
それに「うるう年問題」(今年は特殊なうるう年ですので)
というのもありますし。

長々と、実はこの仕事(2000年対策)で
心に溜まっていたことを
ここで書いてしまったようなものですが、
ともかく2000年が無事に迎えられてよかった
という気持ちはいっしょです。
そして、2000年担当の同士の皆様方に
「本当におつかれさまでした」と言いたいです。

長文失礼しました。




鳥越さんあてではあるけれど、
自分も真剣に読みました。
本当は、鳥越さんの文章での「騒ぎすぎ」の部分は、
事そのものに対してではなく、
それをめぐる「不安の増幅」に対しての発言だったとは
思うのですが、
おかげで、Hさんのメールを読むことができて、
よかったという気持ちです。
みんな、ニュースのなかに出てくる自衛隊の人たちが、
命がけで災害現場にいるのを見ていても、
「当たり前だ」くらいにしか思わなくなっているもんなぁ。
ぼく自身は、そういう「現場」で必死で働く自衛隊の人と
話をしたことがあったので、
『あの人たちは生身の人間だ』ということが、
ずいぶん感じられるようになった覚えがあります。
(相撲の力士は寒くない、と思っている人もいるしねぇ)

このメールを読んで、正月休みにもう一仕事したくなって、
この、予定外の「postman@1101.comから」を、
書こうと思い立ったのです。

で、さらにぼくはもっとしつこくやります。
同じ、Y2K問題を、「おいら。」では、
天海さんが、こんなふうに書いています。


ミレニアム ミレニアム」って うるさいほどだったのに、
いざ 明けてみると そーそー 大した事が無く
おいらてきには、残念。

大変な方々を 敵に回しそうで 怖いのだが、
もー少し なんつーの 混乱っつーの?
なにか ハプニングが あったら
「わー 凄い。こんな事に なっちゃうのか。
さすが ミレニアムだ」
と、感心したかも。

2000年問題に ぴりぴりしてた 皆様
勝手な事言って ごめんなさいね。

それでも、なんだか 携帯の
「しばらく お待ちください」
って 文字には、ちょっと 心躍った。

おお これは もしや 2000年 問題の一部なのか!
と・・・

が、実は かかり過ぎで 電話線が
パンク状態なだけだったとは・・・なんか お粗末だった。

わくわくする ミレニアム問題は、ないのかーっ。

って、まあ。
家で ごろごろ食っちゃ寝生活してる奴は、
何とでも 言えるが。
そんな奴には、言われたくないよね。



ぼくは、この視点も、みんな持っているのだと思うのです。
台風のニュースを見ていて、
胸まで水につかりながら歩く会社員を見たり、
強風で飛んでいく看板を見たりしながらわくわくする自分。
リオのサンバカーニバルで死者がでるとか、
大阪のだんじり祭りで電信柱がぼきぼき折れるとか、
そういう「祭り」のを楽しみにする視線も、
人間は持っているもんなんだと、
怒られそうだけど、やっぱり意識していたいのです。
ぼくの周囲でも、大勢の人たちが、
「電話がかからないよー」と、口を尖らせながら
怒ったようにうれしそうに報告しあっていました。
そういう立場って、ぜんぜん正義じゃないけれど、
「あり」なんだと思うのです。
Hさんのメールが、ぼくらの心に届いたのは、
「正義が斬る!」みたいな立場で書いてなかったことで、
ほんとうに「2000年問題の戦友たち」のためにも、
理解を得たいという気持ちが感じられたからでしょう。

自分も知らない戦時中の、
『パーマネントはやめませう』という
国防婦人会かなんかのスローガンに対しては、
つい、『パーマネントはやめません』と
言いたくなるワタシですが、
ひとりひとりの兵隊さんの痛みがわかるのも事実です。
もちろん、矛盾です。

つまり、「両方」なんです。
時間軸と、場面が異なれば、
まったくちがったことを、同じ人が言うのです。
どっちも本気でね。

こうしたさまざまな意見が、
相手に勝ってやろうというようなことでなく、
それぞれに正直に出し合える場としての「ほぼ日」を、
ぼくは誇りたい気持ちです。
Hさん、鳥越さん、天海さん、
ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。

2000-01-10-MON

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