ITOI
ダーリンコラム

<送りバントのことが気になっていて>

今年の横浜ベイスターズ。
「権藤さん」こと権藤監督は、
送りバントを極端に減らしたゲームをつくっていった。
横浜が優勝したせいで、
この「冒険的」ともいわれそうな戦法は、
おおきな問題提起になった、はずなのに、
日本シリーズの優勝が決まってしまったら、
論争も起こらずに「ま、また考えましょうや」といった感じに
なってしまったようだ。

横浜というチームは、
9回の1イニングを絶対的なストッパーがおさえるという、
「守り逃げ」のゲームを得意としているチームである。
佐々木大魔神は、
「必ず敵の最後の攻撃を0点におさえる」
ということになっている。
つまり、1点というものの重みを中心に戦略が
組み立てられているチームなのだ。

さらに、1点をもぎとるための戦術として、
1塁ランナーを得点圏に送り込む「犠牲バント」は、
きわめて有効なものであるといわれている。
いわれていると、断定できないのは、ぼくにデータがないからだ。

横浜とすれば、相手より先に1点でも取っておいて、
最後に佐々木をだして「守り逃げ」するのが、
順当な戦略だったはずである。
それが、「自然」な考え方だったと思う。

しかし、その「自然さ」に、権藤さんは抗ったわけだ。
とてもヘンなことをしていると、
他チームの監督や評論家は、もっとうるさく言うかと思ったが、
そういう指摘はあまり聞こえて来なかった。
ベイスターズが優勝戦線から脱落していたら、
もっと小姑のように合唱していたのかもしれないが、
あいにく、優勝までしてしまったので、
権藤さんの「不自然」な戦法についての批判は
ネタにならないで終わったわけだ。

ぼくは、この問題について、強い興味をもっている。
とても難しい、しかも新しい「コンセプト」が、
権藤さんのなかにあるにちがいないと思っている。

おそらくそれは、
野球というゲームの試合時間を「川の流れ」として喩えたとき、
上流・中流・下流と、
流れにしたがってプレイの意味が変化していく、
というようなことではないかと推測している。
わからない。
うまく言えない。
ぼくには、うまく言えないのだ。
しかし、もっとそのへんのことをうまく言えるコトバが、
あるにちがいないのである。

「せっかくのチャンスに、
アウトをひとつタダでやるようなこと」
と、権藤さんは、バントを語る。
しかし、それだけで、
あれだけの確信犯的な徹底した戦法はとれないはずだ。

1、アウトひとつを生け贄にささげて
2、得点圏に走者をすすめて
3、3分の1の確率(打者の打率)で1点を奪い取る
という戦法をとるときに、3分の2の確率で0点に終わる。

その3分の2の確率で感じられる「痛み」は、
若いチームの自信をつみ取ってしまうだろう。
だとしたら、三番打者の3割の確率と
四番打者の3割の可能性と、
2度の「確率3分の1のくじ」をひいたほうが、
(脚力のあるチームなら)1点とれる確率はアップする。
しかも、犠牲者(犠打)をだしてないから、
得点できなかったときの「痛み」も少ない。

というような考えが、あるのかもしれない。
しかし、それだけでは足りない気がするんだよなぁ。
これに、試合の流れの理論を組み合わせないと、
「守り逃げ」のチームの戦法として確信をもてないと、
ぼくは思うんですね。

横浜のツウなファンの方で、そのへんのことについての
「権藤メソッド」を知ってる方がおられましたら、
教えてください。
この話が、今年の「野球評論家」の宿題だと、
ぼくは思うんだけどなぁ・・・。

1998-11-13-MON

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