ITOI
ダーリンコラム

ながいことやってないなぁ、ということ。
これを思い出すというのは、かなり大事なことのように思う。

だいたい、ながいことやってないくらいなのだから、
「なにをやってないんだっけ?」と、
思い出すことさえできないはずだ。

いつも会っている人と、いつものように話してると、
なかなかでてこないが、
いつもとちがう人と、ゆったり雑談なんかしていると、
あぁ、そういえば、と思い出す。

ぼくが、ながいことやってないのは、
「動物園へ行くこと」だ。
もともと、そんなに動物園に通ってたわけではないが、
たまには出かけていたように思う。
それを思い出すキッカケになったのは、
ときどき行く寿司やさんのご夫婦だった。

ばくは、この夫妻をほんとうに大好きだ。
ご主人が、40歳ちょっとくらいかなぁ?
奥さんが、同じくらいの年齢かな。
おおはずれかもしれない。
年齢は知らないんだ。
でも、ぼくは、この夫婦が、ふたりだけで仲良く
ほんとうに誠実な商売をしていることと、
余計ないくつかのことを知っている。

ひとつは、ご主人が、
高倉健さんの大ファンだということ。
エジプトの遺跡や歴史が大好きで、
いずれエジプト発掘隊の調理係として、
発掘に参加したいと思っていること。
奥さんが、どっかの企業の秘書だったとかいうこと。
そして、ふたりは、
忙しい店のあれこれにちょっとした時間ができたりすると、
「動物園に行く」ということを。

動物園に行く。
なんて素敵なことばの響きなんだ。
ぼくは、何年か前、ベルリンの動物園に
ともだちの家族と行ったことを、
記憶の隅っこからひっぱりだした。
その前は、まだ子どもが幼いときに、上野に行ったきりだ。
動物園に、行くことを、ぼくはしていない。
そのまま、しぬまでいかなくても、なんにも困らないけれど、
なんだか、ぼくは、もう一度や二度くらいは、
動物園に行っておかなくちゃと思った。

ずっとながいこと、ぼくは、動物園に行ってない。

(ところで、この大好きなお寿司やさんのことは、
いずれまた書きますね)

1998-07-27-MON

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