ITOI
ダーリンコラム

スカイパーフェクトTV!と、うちの鼠穴の事務所を、
ISDN回線でつないで、
「ワールドカップだけの500時間」
という番組に顔をだしてきたけれど、その放送も、
とうとう終了した。
この番組のおかげで、
1日の24時間をフルにつかう生活が、
あたりまえのようになってしまった。

不平を言うのでなく、
ほんとにタイヘンな毎日だったとは思う。
しかし、不思議なことに、いざ終わってみると、
「やれやれ、肩の荷が下りた」という気持ちよりも、
祭りの後のさみしさのほうが先に感じられている。
サッカーなんて、特に好きなわけじゃなかったのに。

サッカーに詳しくない人間だから、知ったかぶりをしたり、
とおりいっぺんの解説もどきの発言をしないように、
気を付けていたつもりだ。

でも、そんな素人でも、
「わかる!」と身を乗り出したくなるような、
発見をすることがあって、
そういうときは「深夜に起きててよかった」と
つくづく思ったものだ。

最終日の放送でも、それはあった。
決勝戦をむかえるフランスのファンが、
「今日、優勝すれば2002年に、シードで日本に行ける。
しかし、負けると予選から、
また勝ち抜いていかなければならない。
そうなったら、また、ブルガリアあたりに負けて、
日本(韓国)のワールドカップに
出場できなくなる可能性もある」
と、なにげなく言ったのだ。
世界一の、優勝を前にしたフランスの応援団が、
そう言っているのだ。

ワールドカップの、底知れぬ深さに、
一瞬、気が遠くなる思いがした。
こんな、発言を、「発見」できたのも、
この仕事があって、眠いのを我慢しながら、
番組に参加していたからだ。
こういう発見を、
みんなが眠ってるはずの夜中に「拾える」ことが、
あの番組に関わっていた人たちの
よろこびだったのではないだろうか。

「ほぼ日刊イトイ新聞」の読者が、とても少ないように、
スカパーのサッカー番組の視聴者も
とても少なかったろうと思う。
でも、その「とても少ない人たち」だけが
「拾ったもの」は、
あの放送がなければ落ちてなかった「たからもの」だ。

ちょいとマジなことを言いますが、
「ほぼ日」も、いろんな「なにげないたからもの」を、
ぽろぽろ落としながら深夜を走るボロ車でありたいです。
拾って、磨いて、役に立ててもらえたら、
あたしらの肩こりも報われます。

1998-07-20-MON

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