ITOI
ダーリンコラム

<バブル崩壊からヘアデザイナー・ブームへ>

ヘアデザイナーがブームなんだ。
なんだそうだ、と書こうと思ったんだけど、
「そうだ」はやめた。
ほんとにブームだってことはわかるもんね。
男子高校生のなりたい職業第1位だって話も聞いたなぁ。
深夜のテレビで、「ヘアデザイナー対決」の番組も
始まっているしね。これはこれでおもしろいんだな。
武道館でイベントって話も聞くし、
人気のヘアデザイナーは何ヶ月も予約がいっぱいで、
日本中から飛行機でお客がやってくるとか、ね。

2〜3年前から、どうもこの周辺に
何かが起こっているって気がしていたんですよ。
バブル崩壊ってコトバも聞き飽きたころね、
青山近辺に「建つだけ建ったけどテナントが入らない」
というような苦しくもご立派なビルが
いっぱいあったわけなんですよ。
そういう時代なんだよなぁ、といつも横目で見ていたわけ。
ところが、いいところから順に、
ちゃーんとテナントで埋まっていくんですね。
で、そのテナントっていうのが、
みーんな美容室だったわけだ。
「おいおい、なんなんだよ、美容室って?!」
この不況の時代に、いくらでも増えているじゃないか?
「ほぼ日」はじめる前だったんだけど、
事務所のサイトーさんに「なんで?」と聞いたわけさ。
答えは、こうだった。
お客さんの一人あたり単価が高くて、
原料費がほとんどなくて、
人件費もかからないから、
「いい感じ」の店を演出するために
家賃に高いコストをかけてもいい。
・・・というわけだ。
なるほどねぇ、と思ったよ。
しかし、ものすごい数の美容室なんだよ。
縮尺50万分の1の地図に、美容室だけ赤鉛筆で
しるしをつけていったら、真っ赤になっちゃうね。
あんまりいい喩えじゃなかったか。

小さな面積に、たくさんの同業者が集まるってことは、
地元の顧客を当てにしてない、ということでもあるし、
競争が激しくなるだろうなということも想像できた。

どうなるんだろう?
と、ちょっと無責任にたのしみにしていたわけだ。
どんどんできた美容室が、
どんどん倒れていくのか?
それとも、どこもそれぞれ繁栄していくのか?

それから、だからつまり2〜3年経ったわけですよ。
急に「ヘアデザイナー・ブーム」として、
その時の問題への答えが見えてきたのは。

競争が、それぞれの店や人に、
新しい次元へのブレークスルーを要求したのだ。

1.この店に「売り物」はあるのか?
  他の店とちがった個性がなければ、生き残れない。
  いわば、徹底した差異化だ。
2.お客さんは、東京中、いや関東各県、
  それどころか、全国にいるはずだ。
  その広大な商圏にアピールする方法が必要になる。
  いわば、ローカルな国際化だ。
3.同業者どうしは、競争相手でもあるが、
  他の業種に対しては「仲間」である。
  共同して、美容業界を売り出せないか?
  いわば、リンクである。

誰かがプランニングしたカタチで進行していったのか、
自然発生的に動いていったのかはわからないが、
美容業界は、いま、
ヘアデザイナー・ブームを生みだすに至った。

時代の流れは、この変化に追い風になっている。
「美容」は、女性の最大とも言っていい関心事だ。
美しいことが武器でもあり、自信のみなもとなのだから、
そこに投資をすることにやぶさかでないはずだ。
そして、その女性たちの「美の精神科医」のような、
「美の選挙参謀」のような役割をする
ヘアデザイナーという職業に、
若者たちが成りたくないはずはない。
「いまどき、オンナが言うことを聞いてくれる」
そんな職業が、ホストと美容師以外にあるか?!

町の美容院の息子が、美容室に就職する
世襲制の時代は、もう完全に終わった。
既得権益は失われ、自由化の時代に入ったのだ。

バブルが崩壊して、ヘアデザイナー・ブームが来た。
これを、風が吹いたら桶屋が儲かった話ととらえるか?
それとも、他に、まだ、
こういう業界はあるんじゃないだろうか、と、
考えてみるか?
さらに、ブームの後の美容業界はどうなるか?
まことにおもしろい、いまの時代ではありまする。

1999-05-17-MON

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