| 谷川 |
覚さんの詩には、
からだという言葉がたくさん出てくるよね。
それは、詩を書きはじめたころから？
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| 覚 |
そうですね、昔から多かったと思いますが、
だんだんと自分でからだを意識するようになって
さらに増えました。
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| 谷川 |
僕がちょっと考えただけでも
“いつか消える身体なら、
目を閉じて覚えていて”
というのが、まず
「流星」という詩にありますね。
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| 覚 |
はい。
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| 谷川 |
“いつか消えるからだなら”なんて、
あんまり普通の人は言わない。
こういう言い方は、しないと思う。
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| 覚 |
うーん、そうかなあ‥‥。
私の詩には、
からだという言葉そのものも出てきますが、
からだの部分名称がやたらと
たくさん出てくるんですよ。
「いつも何度でも」のＢ面になった、
「いのちの名前」という詩があるんですが。
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| 谷川 |
うん 。
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| 覚 |
青空に線を引く
ひこうき雲の白さは
ずっとどこまでも ずっと続いてく
明日を知ってたみたい
胸で浅く息をしてた
熱い頬 さました風も おぼえてる
未来の前にすくむ手足は
静かな声にほどかれて
叫びたいほど なつかしいのは
ひとつのいのち
真夏の光
あなたの肩に 揺れてた木漏れ日
覚和歌子 ー「いのちの名前」より抜粋 |
「胸」「頬」がまずありますね。
「息」で呼吸も出てくる。
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| ── |
「手」「足」「声」「肩」もありますね。
８行のうち６つも、
からだ関係の言葉が！
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| 覚 |
で、この「ほどかれる」というのも
私としてはとっても身体的な言葉なんです。
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| 谷川 |
僕が30代のころに書いてたもので、
「からだの中に」という詩があります。
これはタイトルにからだが入ってるけど、
からだを書いてるというかんじは
しないんだよなあ。
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| 覚 |
そうなんですよ、この詩は
ちょっと違うんですよね。
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| 谷川 |
ね？ 理性や意味より、
もうちょっと下にある
心のなかのものを書いてるんだけど。
でも、それを
からだのなかに捉えているところが、
この時期の僕としてはわりとめずらしいんです。
からだの中に
深いさけびがあり
口はそれ故につぐまれる
からだの中に
明けることのない夜があり
眼はそれ故にみはられる
からだの中に
ころがってゆく石があり
足はそれ故に立ちどまる
ー谷川俊太郎 「からだの中に」より抜粋ー |
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| ── |
覚さんが朗読なさったのを
聴いたことがあるんですが、
まさに、「からだ」というタイトルの
詩がありますよね？
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| 覚 |
はじめて私がからだに意識を向けたときに、
からだというものは
なんと豊かでいとおしいものなんだろうと
思った気持ちを作品にしたものです。ははは。
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| 谷川 |
ふふふふ。
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| 覚 |
うたを歌うための声だろう
演説をするための声でなく
歌にすませるための耳だろう
何もかもを 聞き逃さないための耳ではなく
いとしい耳たぶをそっとなぞるための指だろう
おいつめるためにさす指ではなく
ただ ダンスのための手足だろう
何かにしがみつくための
ナイフを握るための手ではなく
かかえこむための膝ではなく
踏みつけるためのかかとでなく
空に立てた指に 風を感じるための皮膚だろう
花びらをうけとめるための両肩だろう
キスするためのくちびるだろう
キスされるための頬だろう
ー覚和歌子「からだ」より抜粋ー |
「からだは小宇宙だ」とよく言われるけれど、
からだを見ていると、ほんとに、
宇宙の構造がわかるような気がすることがあります。
からだは、一枚の皮膚で
ぜんぶがつながっていますよね。
指は指として切り離したものではなくて、
からだのなかの一部分としての指がある。
地球と月は離れているけれども、
ちゃんとつながって関係しているんだ、
というようなことを、
からだを通して学んでしまったわけです。
それがこの詩になりました。
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| ── |
それぞれの器官は
切り離されることなくそれぞれ機能して、
からだ全体でここにいて、生かされている。
覚さんのこの詩の朗読を聴くと
無意識にからだが反応してしまいます。
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| 谷川 |
覚さんの詩のいちばんの特徴は、
詩を書いて目で読むよりも、
声に出して読むことのほうを
最初から先行させていたということだね。
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| 覚 |
作詞という仕事をしていることとも
関係があると思うんですけれども、
声を出して読むことを前提に、
そのためのテキストを書くという構造なんですよ。
机の上で文字として読む言葉は、正直言って、
あんまり信用してないんです。
その人のからだを通って言葉が出てきたときに
どんな響きを持つかとか、
おんなじ言葉でも
違う人が同じことを言ったときに、
ぜんぜん別のものが伝わってくるとか、
そういうことについて、興味があるんです。
現場感覚ということですね。
やっぱり現場と関わるのは、からだなんですよ。
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| 谷川 |
そうだね。それが、
ごくごく自然に歌うことにつながってますよね。
私はカラオケで歌うまでに、
けっこう紆余曲折したというのに（笑）。
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| ── |
カラオケで？ 歌うんですか。
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| 谷川 |
歌いますよ。
それまでいっさい歌はダメだったのに
ある日を境に
「あ、歌わなきゃ」って思ったんです。
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| 覚 |
ぜひ、くわしくお願いします。
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| 谷川 |
ある日のこと、運転しながら聴いていたラジオから
いい曲が流れてきたんですよ。
それは、谷村新司作詞作曲で
森進一の歌う
「悲しみの器」という歌だったんです。
これは歌いたいと思った。
歌詞の２、３行に痺れたんですよ。
そのとき自分が置かれてるシチュエーションに
ぴったりの２、３行だったわけ。
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| 覚 |
すごい！
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| 谷川 |
だから、作詞って大事な商売だと思ったよ。
僕は行動が早いから、
それからすぐにカラオケセットを買いました。
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| ── |
家に？ ドーンと買ったんですか？ |
| 谷川 |
はい。
家に据えて、マイクも２本用意して、
ほんとのカラオケに行く前に、
自分ちでリハーサルを重ねた（笑）。
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| 覚 |
ハハハ。 |
| 谷川 |
そうするうちに、舞台でも歌うようになって。
なにしろ、息子がピアニストですからね、
伴奏しろって言うと、してくれるんです。
だんだん欲が出てきて、
踊れないか？と思うようになってんですよ、今。 |
| ── |
ええええ？
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| 谷川 |
ピアノの横で、おじいさんが
ディスコっぽくやってたら、
けっこうおもしろいんじゃない？
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| 覚 |
でも、そっちに目が奪われるよね。
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| ── |
奪われますかなり奪われます。
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| 谷川 |
やっぱり。覚さんに相談したら、
そう言われたんですよ。
息子のピアノを
お客さんがちゃんと聴かなくなるから、
それは控えたほうがいいと。
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| ── |
いやしかしここはひとつディスコセットを買って
ご自宅で練習をはじめましょう。
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| 覚 |
ミラーボールとか。
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| ── |
サングラスとか。
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| 谷川 |
いっちょやるか（笑）。
でも、からだを意識しだしたら、
やっぱり自然と、歌や踊りに
いくんだな、ということがわかった。
それがいちばんの、からだのもとなんです。
昔の人たちにとって、歌と踊りというのはもう、
生きるよろこびの最たるものとして
そこにあったわけでしょう。
だから、だんだん自分が
生きることの源に近づいてるんじゃないかな、
と思って、うれしいんですけどね。
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