ほぼ日刊イトイ新聞

妻 と 夫 。 02 保坂俊彦さん+乙幡啓子さんご夫妻 友だちでも、両親でも、ご近所さんでも、 「妻と夫」を見ていると、 なにかとふしぎで、おもしろいものです。 ケンカばっかりしているようで、 ここぞの場面でピッタリ息が合ってたり。 何でも知っているようで、 今さら「え!」なんて発見があったり。 いつの間にやら、顔まで似てたり‥‥。 いろんな「妻と夫」に、 決して平凡じゃない「ふたりの物語」を、 聞かせていただきます。 不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

02
保坂俊彦さん+乙幡啓子さん
ご夫妻
夫・保坂さんは、巨大で美しい砂像をつくる
砂の彫刻家、サンド・アーティスト。
プロとして活動しているのは、
日本でも、たったの数名という珍しいご職業。
たいする妻・乙幡さんは「妄想工作所」主宰。
ハト型のハイヒール「ハトヒール」や、
ホッケ型のペンケース「ほっケース」など、
おかしなものを、次々、世に問う。
担当の奥野はじめ「ほぼ日」の何人かが、
以前より妻の乙幡さんと知り合いだったため、
今回のご出演と相成りました。

目次

第1回
巨大な砂像をつくる夫。

──
おふたりの場合、
お互いにつくってらっしゃるものが
あるわけですけど、
それが、ものすごく対照的だなあと、
つねづね拝見しておりました。
保坂
ぜんぜんちがいますね。
──
サイズ感から、何から。
乙幡
でも、それがおもしろいかなあって、
自分たちでは思ってます。
──
はい、見てるぼくらもそう思います。

旦那さまは「巨大な砂のアート作品」を、
奥さまは「奇妙な妄想工作物」を。
乙幡
いかにも。
──
まず、旦那さまである保坂さんですが‥‥、
写真で見ても息を呑むほどの、
巨大で美しい「砂像」を手がけていますね。
保坂
こんなことを
もう20年くらい続けています。
写真提供:保坂俊彦
──
よく「砂のお城」って言いますけど‥‥、
保坂さんの「砂のお城」を見たら、
今まで自分が
ビーチでつくってきた「砂のお城」、
あれは、いったい何の子どもだましかと。
写真提供:保坂俊彦
保坂
いやいや。
──
自分はまだ、保坂さんの砂像を
自分自身の目で見たことがないんですが、
実際見たら、ため息が出そう。

なんか、もう、イメージ的には
「建立(こんりゅう)」じゃないですか。
乙幡
やっぱり、精巧なだけではなくて
現物は「大きい」ので、
はじめての人は、
脳が受け入れを拒否するみたいな感じが、
あるかもしれません。

「え、砂で彫刻? で、このデカさ?」
みたいな。
──
この作品なども「ほんとかよ」ですよね。

髪の毛をはじめ、
まわりのウネウネしている表現なんかも、
「これが砂ですか」と。
写真提供:保坂俊彦
保坂
砂像の場合、
人のかたちを出すのが、やはり難しいです。

彫刻としてみたらもっと削りたいんだけど、
何せ砂なんで、削りすぎたら、
簡単に、下にドサッと、落ちちゃうんです。
──
そのあたりのノウハウというのは‥‥。
保坂
場所が違うと砂の状態も違いますから、
毎回、手探りでやってます。
──
砂像というのは「固い」のでしょうか?
何といいますか、ある程度は。
保坂
そうですね、基本的には、
水で砂をギュッと固めているだけなので、
固いと言えば固いけど、
少し押したら崩れるくらいの固さです。
──
ようするに
「彫刻」としてはぜんぜん「もろい」と。

ふつうイメージする砂のオブジェよりは、
固いのかもしれないけど。
保坂
ええ。ただし、作品が完成したあとには、
雨や風から守るために、
霧吹きで定着剤を吹きかけているんです。

そうやってコーティングしてあげると、
2カ月くらいの屋外展示も可能なんです。
──
ああ、そうか。天気、重要ですよね。
保坂
重要です。たとえば
制作期間を一週間いただいてたとしても、
そのうち3日が雨降りなら、
残りの4日で何とかしなきゃならないし。
──
なるほど。
保坂
毎日、天気予報とにらめっこして、
「明日は雨が降りそうだぞ」となったら、
その日は「粗彫り」だけにして
細工はやめておこうとか、
そういった対策を練る必要がありますね。

もう雨で3日もつぶれちゃってるから、
当初のデザインから
路線変更しなきゃ無理だなこれ、とか。
──
時間との戦いでもあると。
保坂
ああ、そうですね、そうなります。
天候イコール時間ってことですね。
写真提供:保坂俊彦
──
砂像の「高さ」が、大きいもので
「5メートル」とか書いてありますけど、
それって、やぐらを組んだりして?
保坂
最初に木の板で四角い枠をつくります。

そのなかに、土建屋さんが、重機で、
砂と水をガンガン入れて、
バッシンバッシン叩いて、圧縮して、
固めてるんです。
──
はー。
保坂
それができたら、その上に
もうひと回りちいさい木の枠を組んで、
また砂と水を入れて、叩いて‥‥
その繰り返しで、
最終的には、
圧縮された砂のピラミッドができます。
──
それ、砂の量は、どれくらい‥‥。
保坂
ものにもよりますが、
30トン、50トンくらいのものから
大きいと「数百トン」とか。
──
そんなに!
保坂
そうやって、巨大な砂山が完成したら、
頂上によじ登り、
てっぺんから削りながら降りてきます。
乙幡
自分の旦那ながらすごいなと思うのは、
砂でつくる彫刻って、
「絶対にやり直しが効かない」ところ。
──
あ、削りすぎたら「足せない」んだ。
保坂
そうなんです。

削りすぎて足せないのもそうですし、
顔とか上半身を大きくつくりすぎたら、
足まで入らなくなったりします。
──
入らない?
保坂
ようするに、
上が大きくなりすぎてしまったために、
足をつくるだけの余裕がなくなり、
しかたないから、
みんなで地面を掘ったこともあります。
──
つまり「下を伸ばした」と(笑)。
乙幡
いい話ですよね。
保坂
あとは、
像によじ登ったら崩れちゃいますから、
手の届く範囲を、
すべて終わらせてから降りないとダメ。
──
あとから
仕上げ忘れちゃった箇所を見つけても、
どうにもならない‥‥。
保坂
そうなんです。
──
てことは、事前に綿密な計画というか、
精密な設計図を引くんですか?
保坂
いや、それがね、難しいんですよ。

絶対に設計図通りにはいかないので、
簡単な図面だけ引いて、
あとは現場の砂の状態とも相談しながら、
アドリブで進めることも多いです。
乙幡
図面、いい加減すぎてビックリしますよ。
こんなんですから。
──
なんか‥‥非常にザックリしてます。
寸法的な数値なども書いてませんし。
保坂
で、実際にできあがったのが、これです。

ガネーシャといって、
ヒンドゥー教の神さまなんですけど。
写真提供:保坂俊彦
──
うわー、すごい。
これで、どれくらいの大きさですか?
保坂
高さ3メートルくらいだったかなあ。
──
ほとんど「小さい山」ですね。
乙幡
単に大きさだけで言ったら、
これなんか、えらくデカいんですよ。
写真提供:保坂俊彦
──
人間のサイズと比較すると、
ちょっとした「平屋」くらいの感じです。
保坂
このときの恐竜は、たしか、
幅が12メートル、高さが5メートルでした。

砂も「425トン」くらい使ってます。
──
そんなサイズ感の物体を
ものすごいザックリとした脳内イメージと、
現場のアドリブとで。
乙幡
自分もいちおう、モノのをつくる人間として、
夫の頭の中を疑っています。

いったい、どんなことになってるのか‥‥と。
保坂
まあ、それは、俺も同じことを思ってますが。
──
奥さまの‥‥頭の中を。
保坂
よくもまあ、あんなおかしなもの次々と、と。

<つづきます>

2017-08-14-MON

夫・保坂さんの
「進撃の巨人」、江の島で公開中。
妻・乙幡さんは
片桐仁さんとトークイベントなど。

2017年8月24日(木)まで、
夫・保坂さんの「進撃の巨人」のサンドアートを
江の島・片瀬東浜海水浴場にて公開中です。
砂の巨像で、進撃の巨人を‥‥これは見てみたい。
詳細は特設サイト
http://shingeki.net/sandart/
でご確認ください。
(写真は2013年8月制作の作品です)

また、妻の乙幡さんは
9月1日(金)~3日(日)にイベントで関西ツアー。
1日(金)は、ロフトプラスワンWESTにて、
「おバカ創作研究所」初の関西開催。
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/date/2017/09/01

2日(土)は、大阪芸短で
ラーメンズ片桐仁さんとの大好評トークイベント
「また、つまらぬ物を作ってしまった」を。
http://osaka-geitan.jp/geitanland/index.html

3日(日)には、乙幡さん原案、
伝統の民芸品たちがバトルするカードゲーム
「民芸スタジアム」の大阪大会も!
https://kingkongbrody1977.wixsite.com/familie

その他、最新情報などは、
ご夫妻それぞれのウェブサイトでチェックを。

保坂俊彦さんHP
http://www.t-hosaka.com/
乙幡啓子さんHP
https://mousou-kousaku.com/