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イナカモン外伝、逆襲のサガ。
都会の正体とはなんだろう?

<手術はヒッパレ>

入院2日目。朝6時に起床を余儀なくされました。
「サガコさーん、おはようございまーす。
 お熱測ってくださーい」
「・・・うぁい・・・」
いつも寝る時間に起きるというのが
これほどしんどいとは思いませんで、
ほとんど徹夜状態。
自宅と病院、同じ新宿区内の移動ごときで
時差にやられまくりって、んなアホな。
いかに自分の日常が「まっとうな生活」から
かけ離れていたかを、改めて実感。

起きたらすぐ、座薬をもらってお通じを促す。
直腸を空っぽにして手術に望むっちゅうわけです。
患者として、執刀医の先生への最低礼儀と思えば、
納得の行為であります。
だんだん「痔主」としての身のわきまえ方が
理解できてきた気がして、
改めて肛門科の先生の皆様へ敬意を示しつつ、
私はトイレへ駆け込みました。
「手術していただくにあたり、
 あたしゃ便など欠片も見せませんですぜぇ!」
おそらく、そういう問題じゃあない。

朝九時。友人がデジカメを持って病室に来訪。
なかなかの苦笑いっぷりです。
「ご、ごめんねぇ、こんなこと頼んで・・・」
「いや、頼むアナタが素敵だと思いますよ・・・
 尊敬しますよ・・・」
緊張しながら、自分のベッドで名前が呼ばれるのを待つ。
友人は、ぱしぱしと私の姿をカメラで撮っちゃあ、
苦笑い、また苦笑い。
「これ、ほぼ日に載せるんですか?」
「さぁ、どうやろ?」
「ギリギリですよ」
「笑える?」
「・・・ギリギリ」
撮っては確認し、撮っては確認して、私たちは苦笑う。
「うーん・・・婦女子がここまで身体はらんでも、
 という気がしないでもない写真になっちまってるねぇ」
「もっとネイルサロンとか、
 そういう取材は無かったんですか?」
「ほら、ワタシ、
 なんとなく恥さらし部門担当だから・・・」
「切ないですね・・・」
おちゃらけて笑ったり、ポーズを取ったりするものの、
手の内側にびっしょりと汗。
緊張するさね、そりゃあ。

さて、九時半。いよいよ名前が呼ばれました。
てくてく歩いて、手術部ヘ病棟を移動。
入り口では、担当の看護婦さんが
緑色の例のスタイルでお出迎え。
「名前、確認します。フルネームおっしゃってください」
「高田馬場サガコです」
「はい、では参りましょう」
手術担当の看護婦さんに連れられ、
青い術着に着替えて更に奥の手術室へ。
簡単なベストに、腰巻きだけという
ウルルン滞在記みたいな格好になって、
誰もいない廊下を看護婦さんと歩く。
「腰巻き落ちないようにしてくださいねー。
 見えちゃいますよー」
って、これからケツをさらすのに、
今更「見えちゃいます」って言われても。
「緊張してますかー」
「してますねぇ」
「痛くないですよー」
見え透いた嘘なのか、真実なのか、更にドキドキ。
さあ、いよいよ到着。手術室の扉が開かれました。
ドラマで見たような色合いの景色が、
ずあっと目の前に広がり、
体中に冷たい汗が噴き出してきました。
「高田馬場サガコさん、入られまーす」
「よ、よろしくお願いします」
ぺこりと、とりあえず一例。
しかし次の瞬間、私は聴覚に気を取られて、
ふと動きを止めたのです。
「・・・って、あのぅ・・・」
「はい?」
「看護婦さん、あのぅ、えーと、その・・・。
 ・・・この、スピーカーから流れてくるのは・・・?」
「そうですよー、今日は『あゆ』ですよー」
なんと手術室のBGMは、
浜崎あゆみのベストアルバムだったのです!
「その日の気分で私たちが選んでるんですよ〜。
 奥田先生もいいんじゃない、っておっしゃってますしー」

・・・いや、いいんですけども。

気分でも何でも、一向に構いやしないんですけども。
なんちゅーか、ファンでもなけりゃ、
嫌いでもないので、別にいいんですけれども。
「先生によってはラジオを
 BGMになさる方も居られますよ〜」
まぁ確かに、競馬中継とか、
大相撲ラジオとかよりはいいかな、とは思う。
(落語もイヤだし、演歌も泣きそうではある。ていうか泣く)
だけどそれにしても、あゆ・・・あゆっすか。。。
痔あゆ。。。
the.with.あゆ?
「・・・でも、これ今流れてるの、
 CDの(収録曲の)ラストの方ですよね。
 このままリピートするんですか?」
すると看護婦さん、マスクの向こう側でにっこり笑顔。
「うふふー、それはヒ・ミ・ツ。
 手術中のお楽しみですよぅー。
 さぁ、こっち寝てください」
ヒミツだと!
次のアーティストはお楽しみだとおっしゃるんですか!
しかも、ケツの穴、ばっさり開かれてる
真っ最中のお楽しみ、とな!

素敵でポップな手術室。
響き渡る高音階をバックに、
さあさあ、腰椎麻酔を始めますよっ。
(って、わたしはベッド横に立ち尽くしてるそれだけで、
かなり汗びっちょりの緊張しまくりなのでありました。)

<つづく>

2001-04-29-SUN
TANUKI
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