COOK
調理場という戦場。「コート・ドール」の斉須政雄さんの仕事論。
最新の記事 2006/04/27
 
第16回 言葉は、脳天に突き刺さる

言葉を介して、人に出会えます。
職業意識が、思いがけず、
世界のあちこちの日本人に
乱反射して言葉を媒介に伝わる……。

かつてぼくが書いた
『調理場という戦場』(幻冬舎文庫)を読んで、
コート・ドールにきてくださる人たちがいます。

「起爆剤になりました」

「背中を押してくれました」

「この本を読んだあと、
 自分はこんなことをして、
 こんな結果になりました」

元気をもらうのはこちらです。

「腹が減ると肉体は精神になり、
 腹がふくれると精神は肉体になる」

『調理場という戦場』の
冒頭に記したことわざです。

視覚だけなら上滑りで溶けてゆく思いも、
言葉で読むことで楔となり
精神の壁深く打ちこまれて肉体化します。

まさに、
お腹がふくれる言葉があれば、
精神が肉体になるのです。

ぼくが言葉を真剣に渇望したのは、
フランスにいってから、のことでした。

「マサオ、日本人ってなんだ?」
わかりませんでは通用しません。
ゆらぐことのない
生きかたや考えかたや個性や姿勢を
日常で見せていなければ、
自立した人間として認めてくれないのだと、
よくわかりました。

そのとき、
はじめて、「言葉」がほしくなりました。

試行錯誤のなかでわかったのですが、
どうやら、見かけだけでは、
ものごとの核心を
とらえることができないのです。
ものごとは言葉にして
咀嚼しなければわからないのです。

言葉は、脳天に突き刺さります。
言葉は、血肉になって、肉体をかけめぐります。
言葉は、強靱なものです。

言葉を通して
日本人としての魂が
つちかわれたことを実感しています。

言葉からのイメージは誰にも見られません。
空想は自由奔放で
両腕が翼になって空も飛べるのです。

現実は束縛だらけで、
日本との接点は文字しかありませんでした。
わけがわからない
「るつぼ」のような現実にいるとき、
言葉こそがよりどころでした。
仕事が終わってベッドに飛びこんで
読みふける日本語の本が、
どんなにうれしいものだったか。

(次回に、つづきます)


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