COOK
調理場という戦場。「コート・ドール」の斉須政雄さんの仕事論。
最新の記事 2006/04/19
 
第10回 チームで、飽きないように

一度しかない人生ですから、自分で
自分を飽きさせないようにするしかありません。

「もうちょっと、
 やりたかったんだろうなぁ、斉須さん」
そういうなかで終われたらいいんです。

抜けがらみたいになって
「いつなにがあってもおかしくないな」
と見捨てられながら生きているより
「まだやっていたんだ。
 つんのめっちゃったけど、
 もうすこしやりたかったんだろうなぁ」
と終わりたい。
できれば、その日まで、
ずっと仕事をつづけたい。

ぼくは五十六歳になりました。
二十代のころは、
五十六歳になっている自分なんて
想像できなかったけど、
青年期のおごりたかぶりの脂肪が
すこしずつ削げおちたし、
かつては
持っていなかった能力も得られました。
萎えたという意識はありません。

なりたかった自分になれたのだから、
ここで目一杯やらない手はないですよ。
ヤニさがってはいられません。
こういう手いれのいきとどいた舞台で
仕事をするために、
十代からこの世界でやってきたのです。

夢にたどりついた途端に
バッタリというのでは、
かつての自分が、
かわいそうじゃないですか。

若い人が、
それぞれ自分なりの成果をおさめたあとに
「自分へのごほうびで来ました」
とお店にきてくださるのはうれしいですよ。

そこには、
若い日の自分が訪ねてきてくれたような、
なつかしい姿に触れたかのような
うれしさがあります。

だから、裏も表もなく、
あっけらかんとして若い人を迎えたい。
Tシャツ一枚で
洗いものをしているときでも
「どうぞ、なかに入ってください」
と見てもらうのです。

実物以上によく見せたり
とりつくろったりする必要もないし、
ものごとがいいところだけで
なりたつなんてことは、ありえませんから。

ぼくも昔は選ばれた料理長やオーナーは
ふつうの人ではないんだと想像していました。
ところが実際そんなことはありえない。
自分はただのおとっつぁんで、
ふつうの人となにも変わりはありません。

煩悩はあります。不安もあります。
百パーセントの全力で
すごしたいと思っていても、
なかなかできるものではありません。
それが、当たり前です。

(次回に、つづきます)


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