好きな人の言葉は、よく聞こえますか。
補聴器って、あるのは知っていたけれど。

ほぼにちわ。

第1部のピーコさんとの対談に引き続き、
天野祐吉さん(69歳)、鳥越俊太郎さん(62歳)、
八谷和彦さん(36歳)、
全国補聴器メーカー協議会の木村修造さん(55歳)、
糸井重里(53歳)という、
ちょっと「高齢者寄り」のメンバーでの、
カジュアルシンポジウムの中身を、
今日からお届けします。



第一回目の今日は、
天野さんと鳥越さんの視覚と聴覚が、
八谷さん発明の「視聴覚交換マシン」によって、
交換されます!

その様子を楽しんでいただく前に、
当日会場に来てくださったから頂いたイベントの感想を
ご紹介しますね。

 今迄の自分の視点とはまったく違った方向から、
 コミュニケーションについて考える
 とてもいい機会になりました。

 私はこれまで、自分の弱さや苦労を他人に見せず
 楽しそうにしている人って
 とても強くてかっこいいな、って思ってきました。
 でも、人に言ってしまったら
 自分にとって不利になってしまう可能性のあることを
 意志をもって他人に伝える強さもあるんだ、
 って気が付きました。
 そうやって人と繋がることの大切さを
 今迄私は見落としていたと思うんです。

 ピーコさんが仰っていた、
 「補聴器イヤリング案(?)」は
 その手もあったじゃん!って、目からウロコでした。
 私は、大学でプロダクトデザインを
 専攻しているせいもあって、
 イベント前は、デザイナーって、どんなふうに
 補聴器づくりに必要とされているのかな?
 なんて考えながら会場に向かいました。
 イメージが先行してしまって、
 表に見えて来ない大事なことって
 たくさんあるんですね。

 「会場の中で、
  補聴器を使っている方いらっしゃいますか」
 っていう質問が出た時、私の斜め前に座っていた方が
 手をもぞもぞと動かしておられたんですが、
 結局、手を挙げられずにいました。
 その方は肌色の補聴器(耳の中に入れるタイプ)を
 付けていました。
 やはり、人によって色々な気持ちで
 補聴器を使っているんだなあ、ということを
 会場で実感しました。

 あと、補聴器の値段の高さには
 本当にびっくりしました。
 darlingの「エンポリオ補聴器」、大賛成です。

 今回のイベントでのお話は
 補聴器以外のことでも通じる部分がとても多く、
 人との関係について考えるいいきっかけになりました。
 今後も注目していきたいです。


 
第2部−1

カジュアルシンポジウム
「聞くコミュニケーションって
 なんだろう」
天野祐吉・鳥越俊太郎・八谷和彦
木村修造・糸井重里


糸井 会場の雰囲気全体を、ピーコさんに、
すっかり持っていかれちゃったっていう
感じになってますが……。

ピーコさんと話しているといつも思うんだけど、
応用のきく話を、いっぱいしますよね。
「キタナイのは大丈夫なのよ!」
って、とてもいい話だなって思う。

ピーコさんが話していたように、
「キタナイ」って言葉で表されているものって、
おそらく「普通じゃない何か」ですよね。

あらゆるハンディキャップもそうだし、
さまざまな境遇もそうだし。
みんなが、
「キタナイ」ところからのスタートだ、
と言おうと思えば、言えるかもしれない。

だから、ピーコさんの話って、
今日のテーマにぴったりだなぁと思って
話を、聞いていたんですけれども。

さて、今日ぼくは、
耳に実際に補聴器をつけてるんですが、
天野さんもつけていらっしゃいましたよね?

天野 普段はつけないんだけど、
今日は、つけてきました。
やっぱりね……世の中がヘンに見える。
糸井 よく聞こえることで、
かえって遠い感じがするんですよね。
天野 買ったのが2、3ヶ月前で、
まだ、全然慣れてないんですよ。
慣れると普通になるんでしょうけれど。

歳とともに、高音が
すごく聞こえにくくなってはいますが、
でも、それもいいんじゃないかというか。

たとえば、
紙をめくる音が、うるさかったりしますけど、
自然っていうのはすごいもので、
歳をとった時に、うるさい音を
聞こえなくしてくれてるんじゃないかって……。

意地張るわけじゃないけど、そう思いますね。
でも、それじゃ困るときもあるから、
補聴器のほうは、使いたい時に、
うまく利用できればなぁと思います。

糸井 鳥越さんは、このイベントのために
オリジナルで型をとって
耳穴式の補聴器をお作りになったんですが
いかがでしょうか。
鳥越 (耳から補聴器を取り出して)
……こんなに小さいんですよ!
この小さななかに、
集音器もマイクも電池もぜんぶ入ってる。

補聴器も、変わりましたよね。
昔はポケットに入れて歩いている人を、
見かけましたから。

僕の場合は、まだ
「使わないといけない」
っていうところまでは、いってないんです。

でも、番組のスタッフと一緒に
居酒屋なんかに行くと、
まわりがワーワーうるさいときに
自分のテーブルの前に座ってる人の話が
聞こえなかったりすることは、ありまして。

日常の中でこの1、2年で
聞こえにくくなったな、と思います。
今は、はずしたりつけたりしてるけど、
これが将来使えるものになるんでしょうね。

天野 さっき、ピーコさんが、
「イヤリングみたいにつけるといい」
って言ってたけど、ぼくなんかは、
やっぱり隠したくなっちゃうねぇ。
糸井 八谷さんは、今日、なぜ
ご自分が呼ばれたかわかりますか。

八谷 ・・・いや、まだよくわからないです。(笑)

ただ、ぼくが一番最初に作った作品で
「視聴覚交換マシン」っていうのがありますが、
それはよく「視覚交換マシン」と間違えられます。
でも、「聴覚」が入ると入らないとでは、
かなり大きな違いがあるんですよ。

視覚だけだと、
拷問のようになってしまう機械なんです。
聴覚も交換されるから、作品としておもしろい。
糸井 今日持ってきてもらってるので、
早速やっていただきましょうか!
八谷 ええ。
糸井 初めての人どうしのほうが面白いと思うんで、
天野さんと鳥越さんにやって頂きましょう。
ちょっと準備する間に説明しますと
自分のつけてる眼鏡に、
相手から見てる自分が映ってるんです。
相手も同じことをしてる。
耳もそうなってるんですよね。

だから、握手しようとするだけで
混乱するんだけど
「相手にこう見えてるってことは?
 相手はどこにいるんだろう?」
って、脳で一生懸命考えてしまうんですよね。
八谷 コミュニケーションするためには
目だけじゃなくて、耳も交換しないと
拷問のような作品になってしまう。
それは制作過程で、わかりました。

実は最初は
補聴器をマシンに組み込もうと
思ったんですが、調べてみたら高かったので、
昔の補聴器に近いものを使っています。
(集音器を取り出す)
これが集音器って言われるものなんですが、
これを使っています。
これは補聴器よりは全然安くて2980円くらいで、
声に合わせた補正はしていないものですけど
音だけ大きくしてくれるこういうものが、
この作品の中に入っています。

やっぱりお互いに
コミュニケーションしようという
気持ちがないと、握手すらできない状態になるんですね。
糸井 ぼくも最初につけたときは
カルチャーショックでした。
会場のみなさんは
笑っちゃうと思うんですけど。

天野 うーん(客席の方に歩き出す)。
糸井 天野さん、そっちじゃないですよ!(笑)
どこかに天野さんがいるし、
どこかに鳥越さんがいます。
八谷 鳥越さんが客席を見ていますので、
いま、天野さんには客席が見えるんです。
天野 (また客席の方に歩き出す)へぇー。

糸井 天野さんあぶないです。行きすぎ。(笑)
つまり、「相手から見てる自分」が、ヒント。
天野 そうか。
だから、こっちに行けばいいんだ。
鳥越さん、もうちょっと下向いてくんないかな。
(鳥越さんが下を向いて天野さんと握手する)

糸井 ……おお!握手ができた。
鳥越 (天野さんをさわりながら)
あ、ここにいた。
……これは?ここに?
天野さん、ここにいるわけね。
なるほどこういうことか。
糸井 (笑)
鳥越 自分がいるところに天野さんがいるんだ!
八谷 見えている自分にどんどん近づいていくと
相手がいるんです。
ぐるぐるまわって、
相手を困らせることもできます。
糸井 鳥越さんの目が
天野さんの目になってるわけですから……。

じゃ、実験はこのへんにしましょう。
どうもありがとうございます。
人は笑いますけど、妙なショックあるでしょ?
天野 ふー。
鳥越 変な感じですね。
八谷 変な体験をさせてしまって、
すいません。(笑)
(つづく)

2002-09-05-THU

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