好きな人の言葉は、よく聞こえますか。
補聴器って、あるのは知っていたけれど。

心の声を聞くラグビー


ほぼにちは、通天閣あかりです。

いよいよワールドカップ決勝戦間近!
とうとう祭りが終わってしまうんですね!
にわかサッカーファンの私もさみしー。

ところがニュージーランドで
8月にもうひとつ、ワールドカップがあるのを
ご存知ですか?

その名も
「デフラグビーワールドカップ」です。

いやいや今サッカーでお腹いっぱいやから
ラグビーのことはええわ、
って言わずに、まぁ聞いてください!

デフ(Deaf)は「耳が聞こえない」という意味で、
デフラグビーというのは、
聴覚に障害のあるかたがプレーする
ラグビーのことなんです。

このラグビーは、この10年くらいで、
ニュージーランドから世界へ広まり、
急速に育ってきました。
今年の8月には、ニュージーランドのオークランドで、
史上初のデフラグビーワールドカップが
計画されています。

耳が聞こえにくい選手のかたが、
どうやってプレー中に
お互いコミュニケーションをとっているのか、
そこにちょっと「聞くコミュニケーション」のヒントが
あるかもしれないと思い、それを知りたいと思いました。

そこで、デフラグビーの
「イースタン・クワイエットタイフーン」
というチームのキャプテン、臼井さんに
お話を伺ってきました。

臼井さんは、大学時代は講義のときだけ
補聴器を使われていた程度の軽度の難聴者で、
現在は広告代理店にお勤めの42歳の男性です。

取材当日は、スーツ姿でしたが、
体格もがっちり、日焼けもされていて、
いかにもラガーマン、といった風貌のかたでした。

第1回のデフラグビーワールドカップにも
日本代表としてメンバーにも選ばれ、
ニュージーランドに遠征されるということで、
どんな活躍をされるのか、そちらも楽しみです。

それでは、臼井さんのお話を、聞いてください。




勝ちたいから、わかりたい

--デフラグビーについて教えてください!

「クワイエットタイフーン」は、
おそらく日本で初めてのデフラグビーのチームなんです。
東日本(イースタン)と西日本(ウエスタン)に
分かれていて、現在総勢100人くらいいます。

練習は週に1回で、終わったら皆で飲みに行ったりして、
聞こえにくい、っていうこと以外は、普通にやってます。
カラオケは無理なんですけどね。

あらゆるスポーツにおいて、
「Calling」って呼ばれるものがあるくらい
音や声が聞こえることは、
とても大切になってくる要素
なんです。
スポーツの中でも、特にラグビーっていうのは、
自分の後ろにいる人にしかパスが出来ないルール
なので、聞こえることの重要性が高いです。

例えば、反則があってプレーを止める場合、
レフェリーはホイッスルを鳴らしますが、
その音が届かなければ、
試合がめちゃくちゃになりますよね。
それだけでも聞こえることがいかに大切か、
よく分かっていただけると思います。

ですから、ぼくたちのラグビーでは、
ホイッスルを鳴らした後、
レフェリーがプレーヤーに触れたり、
スクラム開始の合図は手で行ったり、
というような独特のルールがあるんです。

プレー中は、壊れる危険性があるので、
補聴器をはずしていますから、
その状態でうまくプレーするには、
まあ、どんなスポーツでもそうですが、
チームメイトとの信頼関係と、練習がすべてなんですね。
ある意味、健聴のかたがプレーするラグビーより
高度な技術が必要かもしれません。
アイコンタクトで以心伝心できるようになるまでには、
かなりの時間がかかりますしね。

でも、相手に声が聞こえないってわかっていても
プレーが盛り上がってくると
ぼくは思わず叫んじゃいます。(笑)
高校の頃からラグビーをやっていたので、
昔からの習慣でね。
ラグビーをやっている気持ちは
健聴のかたと一緒ですからね。

メンバーは、
社会人になってからラグビーを始める人もいたり、
もともとデフの野球の日本代表だった人が
ラグビーのほうに移ってきたり、色々います。

聴覚障害のために
学生時代からスポーツができずにいた人も多いので、
やっぱり健聴のラガーマンに比べて
ガタイは全体的に小さいですね。

--メンバーの皆さん同士は
 どんな風にコミュニケーションをとられてるんですか。


聴力の差も人それぞれなので、
少し大きな声で話す人、口話、手話という風に
コミュニケーションの方法もそれぞれですね。


チームの監督は健聴の人なんですが手話ができますし、
メンバーもほとんど手話ができます。
ぼくは、難聴が軽度で手話ができないから、
みんなが手話で話している間は、孤独ですよー。(笑)
だからチームのミーティングの時は
ホワイトボードで伝えるようにしています。

そんなコミュニケーションの環境であっても、
ラグビーっていう激しいスポーツができるのは、
もちろんラグビーが好きだっていうことと、
「勝ちたい」っていう強い気持ち
みんなの中に共通にあって
聞こうっていう気持ちや、
わかりたいっていう気持ちが
常にみなぎっているからだと思います。
わかるまで、あきらめないからだと思います。

だから、どんな場面であっても、
健聴であっても、なくても、
この人をわかりたい、この人の話を聞きたい、
この人に伝えたいという気持ちを強く持つこと

本当に重要だなと思います。


  家族は私の耳が悪いことを承知していますが、
  承知しているだけに「もういいよ」と
  会話を打ち切ってしまいます。
  とんでもない疎外感です。
  不貞腐れたくなりますが、
  大人気ないので我慢しています。
  (読者からいただいたメールより)



聞こえる人と聞こえない人が話をするとき、
お互いがよくわかろうと心がけることによって、
コミュニケーションをあきらめることが
なくなるといいなと思います。



「聞こえて当然」が溢れてる

--普段の生活で、困られることはどんなことですか。

日本の社会って、聴覚障害者に対して冷たいですよー。
病院に行くと「名前の呼び出し」なので、
呼ばれてもわからない。
バスや電車に乗っても、前はアナウンスだけだったし、
地方ではまだそういうところは多いですよね。
始発の駅で電車が出るっていうときも「音」ですよね。
映画も洋画しか見られません。


  整骨院で受付をしていた頃、
  待合で患者さんたちが世間話している中
  一人のおばあちゃんが、ニコニコしながら
  その光景を眺めていたんです。
  それに気づいたご婦人が、
  彼女にも同じように話しかけてくれたのですが
  ピントはずれの答えばかりするので、
  そのうち誰も彼女に話しかけなくなってしまいました。

  ちょうど帰り際の患者さんが
  「あの婆ちゃん、痴呆か?」と私に小声で尋ねました。
  聞き取りにくい会話を、おばあちゃんは想像しながら
  仲間に入ろうとしていたのに‥‥

  彼女の笑顔は、いつのまにか
  寂しい笑顔に変わっていました。
  コミュニケーションが取れないということが
  孤独を呼ぶのだと、その時思いました。
  歳をとっていれば尚更キツイと思います。

  数十年後は自分の現実問題
  だったりするかもしれないと思いました。
  (読者からいただいたメールより)



世の中には、「聞こえて当然」
溢れていると思います。

日本でこういう動きをしていて思うのは、
海外と違って障害者に対する意識、
見る目が違うなということです。
これは、教育っていう
根本的な部分から直していかないと、
いつまでも変わらないでしょうね。
簡単な問題じゃないです。

日本人はつい、みんな同じってことに安心するけど、
聞こえないことはひとつの個性ですからね。
そういうことが理解される世の中になるといいな
と思います。


トライしてきます!

--デフラグビーワールドカップへ向けての
 意気込みをお願いします!


今年の8月は、ニュージーランドで
第1回デフラグビーワールドカップが開催され、
日本も参加します。
代表メンバーは、生まれつきの聴覚障害者だったり、
事故や病気等で聴力を失った中途失聴者だったりと
さまざまです。

聞こえないというハンデを背負いながらも
ラグビーはできるんだという気持ちと
ラグビーが好きだという気持ちを胸に、
オールブラックスの本拠地聖地である、
イーデンパークでのトライを目指して
頑張ってきますね!

デフラグビーについて、もっと詳しく
お知りになりたいかたはこちらへどうぞ




好きだ。
知りたい。
わかりたい。

その思いが強ければ強いほど
聞こえる力が湧いてくるのでは?

聞こえない人も聞こえる人も
そんな気持ちを持ち続けることが、
よく聞くことにつながるのかなと思わされるお話でした。

補聴器は、そんなコミュニケーションの
サポートグッズのひとつなんだと思います。



聴力の単位、
dB(デシベル)のことを
よく知りたい


言語聴覚士のかたに聞いてみました。


20歳からの難聴者ですが、
いまだにdB(デシベル)という単位が
理解できておりません。
最近聴力検査をしたら
右側83.75dB、左側95dBと判定されました。
このdBがたとえば1dB違うと
聴こえ具合はどの程度かわってくるのか?
dBをどう理解したらよいか、教えてください。


●デシベルとは
ある基準値を定めて、
それに対する対象の比率をあらわすときに使われる
表記単位のことです。
もともとは、エネルギー(パワー)の比率の値の
常用対数をとったものを「ベル」といい、
それを10倍したものを、
10倍を表す「デシ」を頭につけて、
デシベルと言ったのが語源です。

電圧や音圧のような単位の比率の場合、
エネルギーの単位に変換するための演算(2乗の演算)
の影響のために、
電圧比や音圧比の常用対数をとったものを20倍します。

デシベル表記がプラスの値のときは、
基準値よりも大きいことを示し、
マイナスの値の時には、
基準値よりも小さいことを示しています。
0デシベルは、基準値と同じということになります。

●聴力レベルとは
健聴者の最小可聴値(=聞くことができる最小の音圧)
を基準値として、対象となる人の最小可聴値との比率を
デシベル表記したものが聴力レベルです。
聴力が低下すると、
聞くことができる最小の音圧値が大きくなるので、
デシベル表記である聴力レベルはプラスの値になります。

健聴者の最小可聴値と比べたとき

0デシベル−>同じ音圧で聞こえるようになる
      (つまり、健聴者と同じ)。
1デシベル  1.12倍大きい音圧で聞こえるようになる。
6デシベル  2倍大きい音圧で聞こえるようになる。
10デシベル 3.16倍大きい音圧で聞こえるようになる。
20デシベル 10倍大きい音圧で聞こえるようになる。
40デシベル 100倍大きい音圧で聞こえるようになる。
60デシベル 1000倍大きい音圧で聞こえるようになる。
80デシベル 10000倍大きい音圧で聞こえるようになる。

聴力レベルが1デシベル違うということは、
前の聴力よりも1.12倍大きい音圧で
聞こえるようになることを表します。

●聞こえの具合と聴力レベルについて
聴力レベルのデシベル値は、
物理量としての音圧の比率であって、
心理量である音の聞こえの感覚(具合)とは
単純には対応づけができないので注意が必要です。

聞こえの感じ方(具合)は、音の大きさの感覚や
言葉の聞き取りとして表れますが
聴力レベルと聞こえの具合との関係は単純ではないです。
たとえば、
聴力レベル80デシベルから90デシベルへの
聴力の低下は、
聴力レベル60デシベルから70デシベルへの
聴力の低下よりも、
聞こえの感じ方の低下は大きいことが多いです。

●聞きとりの対象となる音の音圧と聞こえの具合について
聞き取りの対象となる音の音圧と
聞こえの具合との関係も単純ではありません。
耳の具合によっては、音を徐々に大きくしていくと、
急に音が大きく聞こえて
うるさくなってしまう場合があり、
補聴器などの音量調節に工夫が必要なこともあります。



このコーナーでは、
補聴器や聞くことに関する質問を受け付けています。
件名に「質問」と書いてaid@1101.comまで
お送りくださいね。

その他、ご意見などもお待ちしています!

2002-06-27-THU

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