布のきもち。 アートと手工芸と量産品のあいだ。 [ラオスの布・谷由起子さん篇]布のきもち。 アートと手工芸と量産品のあいだ。 [ラオスの布・谷由起子さん篇]

第2回 やがて消えゆくものかもしれない。


“たまたま”出会ったラオスの布。
運命の糸というものがあるならば、
谷さんの糸は、ラオスのルアンナムターと
つながっていたのかもしれません。
片手間ではなく、本気で、
ラオスの布を紹介する仕事をしようと決めた谷さんは
現地へ移住し、会社を設立します。

社といっても、いつも毎日、会社にやって来て
働くっていうような仕事の仕方ではありません。
糸の素材づくりをしている人も合わせると、
300人ぐらいの人が関わってるんですけど、
村にいながら、お家のいろんな仕事をしながら、
時間のあるときに仕事をする、
っていうようなかたちをとっています。
出産したりすると、ある程度大きくなるまで
仕事をしなかったりもしますし。
わたしが注文を受けてしまうと、
やはり納期ということが問題になる。
村の人たちにはできるだけ
納期というものを設けないでやっていきたいと
思っているので、
「できたときに、できたぶん」という感じです。

ずっと一緒に仕事をしているのは、
クロタイ族、レンテン族、カム族という
主に3つの少数民族の人たちです。
紙づくりなどを入れるともっと多いんですが、
常にやっているのはその3つの民族です。
これがカム族の人たちのものですよ。

巾着のかたちにしたのはうちの方で、
彼らの本来の仕事っていうのは、
こういう葛(くず)という素材から糸を作って、、
魚網といって、これ、交点を
1つ1つ結んでるんですけれど、
現地の人たちはこの素材で、この編み方で、
農作業に使う袋を作って使っている。
だからすごく丈夫である必要がある。
すっごい撚りをかけてるんですね。
手と、すねで。
その撚り具合っていうのはたぶん日本の葛布と
作り方が違うんじゃないかと思うんですが、
葛の蔓の部分から繊維を取り出して
糸を作るというところは一緒だと思います。
葛はね、わりと日本のどこにでもある雑草ですよね。
蔓で、鉄道の沿線とかにわりとよく見かけるんだけど、
おっきな3つの葉っぱで紫色の花が咲く、
そういうものがラオスにもあるんですよ。
カム族の人たちは、その葛の蔓から繊維を取り出して、
糸を作って、こういうものを編んでるんです。
ほんとうに手間がかかっているんですが、
ラオスといえどもどんどん、今、発展してるから、
やっぱりこれはいちばん先に消えていくかもしれません。
消えていかざるをえない。
やっぱり買う側としてはどんなに手間がかかっていても、
値段の問題が出てくるから、
厳しい仕事だろうなと思ってます。

こちらの木綿はレンテン族です。
このレンテン族の人たちっていうのが、
わたしが日々見ている中では、
かなり今でも、自給自足に近い生活をしている、
そんな匂いがまだまだ強く残っている人たちで。
この木綿は、各家庭、各お家の中で、
畑で綿の種を栽培するところから綿花を摘んで、
糸を紡いで、その紡いだ糸でこういう白い反物を織って、
この青とこの黒の部分は藍染めなんですけれども、
この藍染めをする植物ももちろん畑で栽培しますし。
藍染めって石灰が必要なんですけれども、
その石灰も自分たちで作るんです。
石灰に必要な石を山で探して、切り出し、
山の斜面を利用して、穴を掘って窯を作って、
2晩ぐらい薪でその石を焼くんですね。
そうすると、真っ白な粉になる。
そうやって石灰もまだ自分たちで作って、藍染めをして、
手縫いで縫って、これが完成します。
これは、彼らがお金にするための商い、
私が買い取る商品として作っているんですけれども、
彼らはまだ自分たちの衣装も
その布で手縫いで縫って着ているんですね。

けれどもやっぱり、どんどん、時代が変わってきて、
若い人たちなんかはそういうことがどうしても
かっこ悪いとか恥ずかしいとかね、
──ま、それが普通だと思うんですけど──、
どうしても周りの人たちと違うっていうことが、
若い人たちは嫌になってきている。
今、こういう布は、急激に、
若い人から捨てられ始めてるんです。
基本的にはこういうことをついこの間まで、
みんな、やっていた人たちなんですけれどね。

畑を耕し、糸を作るところから、
最後、縫うところまで1人の人がやります。
これとこれでは、お家が違うっていうか、
人が違うんですね。

同じようで実は全部1枚ずつ違うんです。
たとえばこういう黒い布でも、
この黒い布とこの黒い布、
よく見ると違うっていうのはわかるんですけれども、
村の人たちは、たとえばこの黒い布の状態で、
ばーっと集められてね、
レンテン族の人たちが45人いるんですけど、
45枚の同じような黒い布があっても、
自分の家の布はどれなのかすぐわかるんですよね。
わたしは、いったん集めてしまったら
これがワンさんとかいうことがわからないんですけど、
彼らは、あ、これ、私の家で作った布ってすぐわかる。
真っ黒なただの布でも。
で、何でわかるの? ってこう、聞くと、
そんなのわかるに決まってるじゃないか、
っていう答えが返ってくるんですよね。
みんな、それぞれ、畑で糸作るところから
糸の紡ぎ方から何もかも、
織物の道具もお家で作ってるわけだから、
違おうと思って違わせてるわけじゃないけれども、
どうしても違っちゃう。
だからそんなのわかるに決まってるじゃないか、
っていう答えが返ってくるような、
すごい人たちなんですよね。


2011-11-11-FRI


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