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May2014
子どものブローチ 1

以前、イギリスの永住権を取得するにあたって
イギリスの内務省が必須条件と定めている
この国の歴史や文化にまつわる一般教養の試験を受けた。
試験といっても指定のテキストを1冊真面目に勉強すれば
合格できる内容で、最初は気が重かったが、結果的には
なかなか興味深いトリビアが学べて面白かった。
たとえば、次のようなもの。

「宗教的な理由で頭にターバンを巻いているひとは
 バイクに乗るとき、ヘルメットをかぶらなくてもよい」

「基本的に、飲酒できる年齢は18歳以上だが、
 大人同伴であれば16歳から食事と一緒に
 ビールやワインを飲んでもよい」

どこかイギリスらしい、真面目なのか冗談なのか
わからない柔軟な法律である。

片や、イギリスにおける女性史も頻出問題だった。
このとき私は初めて
「suffragette(サフラジェット)」という言葉を知った。

サフラジェットは、
20世紀のはじめに議会選挙の女性の参政権を求めて
闘争的な運動を行ったひとたちのこと。
厳密には、イギリス人のエメリン・パンカースト婦人と
その娘たちをリーダーに1903年に結成された
女性社会政治同盟のメンバーを指す。

サフラジェットの勇姿はモノクロ写真にたくさん残されている。
裾の長いドレスを着て「VOTES FOR WOMEN」と
大きく書いたプラカードを掲げる
約100年前の女性たちの、まっすぐにカメラを見つめる瞳。

首相官邸の窓ガラスを割り、おさえつけようとする警官を殴り、
投獄されても食べ物を受け付けないハンガーストライキを決行し、
彼女たちの運動は激しさを増していった。
第一次世界大戦という大きな波もやってきたが
1918年ついに30歳以上の女性に普通選挙権が認められ、
1928年には21歳以上に改定された。
1,000人以上が刑務所送りになり、
死者やけが人を出した争いの炎はようやく鎮火したのだ。

今月ご紹介するのは「サフラジェット・ジュエリー」という、
イギリスの女性史をうかがい知れる品である。

サフラジェット・ジュエリーは、瞬時に見分けることができる。
なぜなら、女性社会政治同盟のシンボルカラーの

Green = 希望
White = 清らかさ
Purple = 尊厳

の3色のみがアクセントに使われているからだ。
そして、実はこれら3色には伝説があって
各色の頭文字は、PurpleをVioletと言い換えたとき
GWV = Give Women Votes
という暗号になると言われている。

暗号については事実無根だと主張する人もいて
意見は分かれるところなのだが、
この説を信じているアンティークのディーラーも少なくない。

ちなみに、いずれにしても、3色を反映させた
イギリスのサフラジェット・ジュエリーは、
同盟内でシンボルカラーが考案された1908年から、
念願かなって女性に普通選挙権が認められた1918年までの間に
作られた品、と限定するのが正しい。

もともと、宝石を用いたものは大量に作られていたわけではなく
当時のトレンドが感じられるクオリティの高い品は、
今や希少で、びっくりするほどの高値で取引されている。
私も今回はひと品のみの紹介だ。

このようなブローチを見ると
現代では当たり前のように感じる女性の参政権も、
過去に大勢の誰かが決起した事実があってこそ
存在しているのだな、と我にかえる。

参政権をめぐっての女性たちの大きなムーヴメントは
20世紀末からイギリス以外の国でも盛んになっていたが
The Museum of London(ロンドン博物館)は、
サフラジェット・キャンペーンで使われた旗、
バッジ、メダル、ポスター、そしてジュエリー等を
世界でもっとも多く所蔵している博物館だそうだ。
近いうちに訪れたいと思っている。

 
2014-06-25-WED


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