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ある日の日記(4)

ロンドンで私がよく行くいくつかの蚤の市では、
アンティークやヴィンテージの品物を扱うディーラーたちの年齢は
50〜70歳といったところだ。
そして、新たに加わった若手ディーラーの数より、
もう隠居するからと店をたたみ去っていくベテランのほうが多い。
だから、それぞれの会場の規模は年々小さくなってきている。

 

10年前に私がこの国にやってきたときは、
もっとたくさんのディーラーがいた。
珍しいデザインの古ボタンをストール(出店)に
ぎっしり並べていた老夫婦、
アンティークレースのコレクションが見事だったおばあさん。
いつの間にかいなくなっていた。
あれ、おかしいな。今日はあの人お休みかな、と思い、
数回そんなことが続いて、店を閉めたんだと分かったときの淋しさ。

人が歳をとるのは止められないし、
お気に入りのディーラーが
ビジネスを永遠につづけてくれる保証なんてどこにもない。
けれど、できることならずっと彼らのもとで宝探しをしていたい。
掘り出し物が見つかるのは、やっぱり何十年と品物を探し、
審美眼を鍛えてきたディーラーの、年季の入ったストールなのだ。

上の写真は、5年前に撮った大好きなヴィンテージディーラーと
彼女のストール。
1920-60年くらいに作られたジュエリーや
布小物で素敵な品物が必ず見つかるので、通うのが楽しみだった。
ところが、ある時から彼女も姿を見せなくなり、
今は娘さんがかわりに店を切り盛りしている。品揃えも少し変わった。

仕事以外でのつきあいはなかったけれど、
品物の中からこれとこれを見たいです、とお願いすると、
いつもこんな笑顔で、素材や出どころについて丁寧に説明してくれた。
たくさん勉強させてもらったこと、ちゃんとお礼も言えていない。


娘さんを蚤の市で見かけるたび私は
「お母さんはお元気ですか?」と尋ねる。
「疲れやすいってこぼしてるけどね、元気よ。」などと聞き、
心の中でホッとする。
たまには顔を出してくれないかな、会いたいな、と思いながら、
私はいつもそのストールを後にするのだ。

(九月の更新へ、つづきます)


2013-08-23-FRI

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