糸井 キリンの話をきいて思い出したんだけど、
ノミって、おおきさの比率から言うと、
人間が東京タワーをこえちゃうぐらいの
ジャンプをするらしいんです。

しかも、
どこに飛んでいくかわからないまま、
つかまるものがあったらつかまるという。
池谷 人の血を吸うノミは、
たとえば人が下を歩いてきたら
落ちてきてくっつくんですけど、
あれは温度とか二酸化炭素とか、
人間が発するものをセンサーで感知して
落ちてくるだけなんですよね。
あとは、落ちてきたあとに刺すという。

ノミはそうやって
プログラムどおりにしか動かないけど、
考えてみるとわれわれ多くの人間も、
けっこうプログラムどおりなんです。
糸井 そうだよね。
謙遜する必要もなく、
自慢する必要もなく、
ただ事実としてそうなんだということが
ほんとに多い。

おじいちゃんやおばあちゃんは、
若い人を見ていると、すぐ、
「そろそろ、ヨメをもらうのがいいかな」
とか、すごく簡単に言うじゃないですか。
若い人は「俺はちがう」とか言うけども。
池谷 そうなんです。
当たり前のように言われて、
イヤだなと思ったとしても、
あとから気づくんですよね。
「やっぱりプログラムどおりにしか
 自分は動いてこなかったんだなぁ」
恋愛している時に、なぜか人は、
「この人以外には考えられない」
と思うわけで……
これは防衛のためかもしれませんね。

ほんとはそんなはずがないんです。
全世界に異性は無数にいるわけで。
そのすべてから吟味して
いちばんいいひとにめぐりあえるなんて、
絶対にありえないわけです。
だとしたら身近な人で満足するしかない。

「絶対にこの人しかありえない」
と恋愛で思いこむことで、
選択肢はほとんど無限にあるという
理不尽な事実を考えずに済むというか。
糸井 うん。
ひとりずつならきらいだろうなぁ、
と思う高校生どうしが、
電車のなかで見つめあっていると、
応援したくなりますよね。

誰かが誰かにめぐりあう。それは
よくできているなぁと思うんです。
実際には、すべての女の子が
木村拓哉くんに
さらわれたりはしていないというか。

(つづく)
2005-08-09-TUE
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