糸井 身体性がかきかえられるというのは、
何が「自分」としているのか、脳は
絶えず、書きかえているんですよね。

ぼくも
いちばんジャイアンツファンだったころは、
負けるとほんとにかなしかったんだけども、
今は、だんだん、冷めてきたりもしてるし。
池谷 人間の身体は、数か月経つと
細胞がすっかり入れ替わりますよね。
でも自分としての
アイデンティティは保っていられるわけで、
おもしろいですよね。

人間の指は五本です。
これは悲劇なんじゃないかとぼくは思います。
もし四本なら、たぶん
世の中は八進法になったはずですよね。
十進法ってものすごい弊害があるけど、
八進法は、
数学的にはかなりしっくりくるんです。

人間の指が六本だとして、
十二進法になったとしても、
もちろん十進法よりはずっと有用です。
六の倍数の約数の多さというか、
一日を二十四時間に分けたりとか、
一年を十二か月に分けたりとか、
ほんとに便利なんですよね。

ところが人間の指は、
両手あわせてなぜか十本だったんです。
これが、人間の文明の発達を
かなり遅らせたんじゃないかというか、
今でも弊害になっていると思うんです。
コンピュータは二進法なのに、
人間はどうしても十進法で換算せざるをえない。

一日を二十四時間に分け、
一時間を六十分に分け、
一分を六十秒に分けたのは、
今から考えると
なんでそんなふうに決めたのかな、
と不思議になるようなことですが、
なぜか人間の鼓動は一秒に一回で、
納得してしまうといいますか……。

他の動物の鼓動はもうすこし遅い。
どの動物も一生のあいだに
二十億回の拍動があるらしいとかきくと、
人間がたまたまこの寿命だったから
一秒という時間ができたのかな、
なんて思ったりするんです。
糸井 人間時間なんだね。
池谷 動物にとっても
人間にとっても
時間は同じに流れている、
と思っては
いけないのかもしれませんもんね。

心拍数は
動物によってかなりちがいます。
ネズミは一分間に
四〇〇回もきざんだりするけど、
おもしろいのは、
血圧は象も人もネズミも
だいたいほぼ百ぐらいなんです。
糸井 血液を押しだす圧力は同じなんだ?
池谷 例外はあるんです。
なんだと思いますか?

……キリンです。
キリンは高血圧です。
そうじゃないと、
頭に血がのぼりませんから。
糸井 へぇー。
池谷 首をさげたときには。
首の骨の筋肉が血管を圧迫して
血がいきすぎないように
うまくできているんです。

(つづく)
2005-08-08-MON
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