池谷 神経細胞をのぞいている瞬間は、
ぼくにとっては
けっこういい時間なんです。

たとえ
すごくつらいことがあっても、
顕微鏡をのぞくと
シャーレのなかで、何の迷いもなく、
神経細胞はすくすく育っているわけです。

そんなとき、
ぼくは心でふと思うんです。
自分はこんなに悩んでいるのに、
なんでおまえはそんなに元気なんだよと。

だけど、よくよく考えると、
ぼくがこんなにつらい思いをしている
その感情を作りだしているのも、
「すくすく育つ神経細胞」なんですね。
そう思うと、急にラクになるんですよ。
ぼくはこれで何度か救われていますね。

糸井さんは自分の脳を
ごらんになったことがありますか?
糸井 あります。
池谷 あれも不思議な感覚になりますよね。
糸井 あまり見ないようにしています。
見ちゃいけないような気がして……。
「ここが、ふくらんでいますね」
とか言われたらコワイですから。
池谷 ぼく、けっこう
まじまじと見ちゃうんです。
自分の脳の写真も持っているんです。

「この脳というものを通して
 自分は考えたり意識を持ったり、
 心とかを生みだしているんだな」
と思いながら眺めてるそのときが、
不思議な感覚というか……。

前に『海馬』の感想で
裸でいることよりも、
脳の中身を見られるほうが
はずかしいかもしれません、
という女性の意見があった気がするんですが、
やはり脳の中身というものは、
見てはいけないものというか。

もちろん、脳はシステムだし、
システムが動いてナンボの世界であるかぎり、
脳を物体として見ていてもまちがいですけど、
それにしても、
脳の写真を眺めると不思議な気持ちになります。

(つづく)
2005-08-03-WED
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