池谷 実験の現場では
ネズミぐらいのおおきさで
「吐く」動物がほしかったんです。

そこで齋藤教授が見つけたのが
スンクスというモグラなんです。
沖縄や台湾にかけて生息していて
ふつうにいる動物なんですけどね。

そもそも、
スンクスは肝臓が弱くて、
肝硬変とかになったりするんです。

そこで齋藤教授は、
肝硬変のいいモデル動物に
なるだろうということで
スンクスにお酒を飲ませて
肝硬変にならせる実験を
こころみたところ……
吐いてしまったそうなんです。

齋藤教授は
「この動物は吐くんだ」
と驚いたそうですが、
現場にいる人たちは、
「吐きますよ、ふつうですよ」
と言うわけですね。

誰でも見ていた事実だったんです。
ところが、
事実を知っているだけでは
発見にはならないわけです。
事実がいかに重要なのかを
気づかないと、
発見にはならないわけですね。

齋藤教授には
そもそも嘔吐の世界で
こういうモデル動物が必要だ
という問題意識がありました。
それがこの発見につながったというか、
その後、世界的な嘔吐の動物として、
スンクスは使われているという
おおきな動きにつながったんですね。

当たり前のことの重要性を
どれだけ感じられるかが発見といいますか。
糸井 「吐けること」って、
機能として大事ですよねぇ。
池谷 はい。
動物を見ていると
吐くことの重要性はわかります。
吐く能力と呼んでもいいかもしれない。

ネズミは吐けません。
だからあたらしい食べものに出会った時……
たとえばチーズとかが置いてあっても、
知らないものを、
ムシャムシャ食べることはしないんです。

ちょっと食べてみて
部屋の隅のほうにいって、
体に異変はないかなという確認をしてから、
また食べにくるんですね。
これはおおきなロスなんです。
その間に他の動物がきて、
ペロッと持ってっちゃうかもしれないから。
犬なら「毒だった」と吐けばいいわけです。

(つづく)
2005-08-01-MON
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