糸井 見えない暗闇を
埋めてしまうというのは、
人のガンコ化と同じですね。
池谷 はい。
『海馬』で出てきた盲点そのものです。
一部が盲点で見られない時、
まわりの情報で判断した風景が
実際に目に見えてしまうわけです。

そしてまったく見えなくなれば、今度は
もっと内側から何かを生みだすわけですね。
ガンコ化かもしれませんし、もしかしたら、
一種のクリエイティブなのかもしれません。

しかしおもしろいのは、
空白を埋めるにしても、
やはり経験にないものは埋まらないという。
「既にある」からこそ、出るんですよね。
糸井 うん。
池谷 お年寄りのかたというのは、
実は、かなりふつうの人でも、
いろいろなものが見えているらしい、
という話があるんです。

糸井さんとぼくが話しているこの間に、
たとえば、子供が座っているように見える。

でも、
「ほら、ここにいるじゃないの」
と言ってしまうと、
「おばあちゃん、ボケちゃった」
とか思われるだろうから、
けっこう、お年寄りのみなさんは、
見えていても言わないらしいんです。
糸井 すごいですねぇ、そうですか。
池谷 見えないものが見えている人は、
われわれが想像している以上に
いるらしい……という話ですね。
糸井 岡本敏子さんという人は、
岡本太郎が死んだ話をすると、
「死んでないのよ」
といつも即座に返すんですよ。

「太郎さんはぜんぜん死んでないわよ」
「ほら、いるじゃない、そこに」
敏子さんがほんとにうれしそうに言うので、
聞く側もそんな気になったんですけど……。

あれはすごい迫力があったから、
もしかしたら、
もっとリアルに見えていたかもしれないね。
池谷 そうかもしれないですね。

(つづく)
2005-07-27-WED
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