糸井 法隆寺宮大工の西岡常一棟梁の
『木のいのち木のこころ』を、
池谷さんが、このあいだ、
すごくよろこんで読んでくださったことは
ぼくにも、おおきな刺激になったんですよ。

池谷さんが、
「脳天から衝撃を受けました」
とおっしゃってくださって、
その後、宮大工と科学者のちがいを
話してくださったところがおもしろかった。

「いわゆる科学者とは正反対なんです。
 多くの科学者は自然を相手にして
 真実を暴いてやろうと対峙するのですが、
 西岡さんは自然に教えていただくという
 姿勢を取っていらっしゃいます……これは
 ただ単に、謙虚なだけでないと思いました。

 西岡師匠にとって木は
 ある意味での『神』なのでしょう。
 発言が自然で、自分に素直で、
 無理もなく、それでいて妥協もない……
 『木のいのち木のこころ』
 すばらしいです。感激しました。
 なかなか、あんな人っていないですよね。
 でも、私は、
 あんな脳科学者になりたいと思いました。
 それがこれからの一流なんだと感じます」

池谷さんの感想に、
ほんとだよなぁと思ったんです。
宮大工の棟梁たちの場合には、
生活や脳のすべてをひとつに向かわせます。
「一緒に暮らす」ということを
徒弟修業ではものすごい重要視するんです。
「暮らさなきゃもう絶対無理だ」とまで言う……。
池谷 そのために、言ってみれば
私生活までも捧げているわけですよね。
糸井 おそらく、
先輩がエロ本買ってこいと言った時に
ティッシュペーパーまで買ってくるやつは
センスがいい、ということもあるだろうし、
生活を通して、
現場で指示を出した時の聞きかたもわかる……
池谷 「場を読める」ということですね。
『海馬』のテーマのひとつもそうでしたよね。

あそこでの「頭のよさ」の定義は、
決して計算や暗記ではかれるものではなく、
「インプットをしっかりした上で、
 状況判断が、的確にできること」
というものだったと思うのですが、
「場を読める」もそういう能力だと思います。

(つづく)

2005-07-07-THU

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