海馬。
頭は、もっといい感じで使える。

第43回 大脳皮質を研究中!


(※おととい3月2日の「今日のダーリン」で、
  「さっき、『海馬』の池谷さんにメールを書いて、
   ニューヨークに行ってからのようすを
   聞いてみようと思ったのでしたが、
   まちがって消してしまいました。
   池谷さん、もし、これを読んでいたら、
   どんなことしているかとか、教えてくださいな。
   『海馬』と『ほぼ日』の読者も
   きっと知りたいと思うので」
  という記述を掲載したら、池谷さんから、さっそく、
  すごく気合いの入ったメールを、いただきましたよ。
  すばらしい内容なので、みなさんにも、ご紹介します!)





・ほぼにちは。
 ニューヨークの池谷です。
 日本は、今日は、ひな祭りでしょうか?

 いろいろな方々から同時に
 「今日のほぼ日をチェックせよ」と情報が入りまして、
 さっそくメールを差し上げた次第です。
 いやあ「人はつながりだなあ」とつくづく感じます。

 遠く離れたこちらの研究室であくせく働いていても、
 「ほぼ日」と強く繋がっているのだなぁ
 と思うととても心強いです。

 さて、日本よりもちょっぴり寒いニューヨークですが、
 さすがに3月に入ったからでしょうか、
 ほんの少しずつ、あたたかくなってきているようです。
 気温も摂氏0度を超える日が続いています。

 ニューヨークといえば、ヤンキース松井選手。
 こちらでも盛り上がっていますよ!!!

 一昨日の鮮烈なデビューは、速報で報じられました。
 私はこちらの地元の新聞(地方紙)を
 とっているのですが、
 昨日の一面トップはもちろん松井選手!
 スポーツ欄では見開き2ページを使っての大報道でした。
 本当に心強いかぎりです。

 僕の脳の研究の方も、
 ぼちぼち軌道に載り始めています
 12月に渡米した直後に恥ずかしいくらい
 興奮したメールをお送りしてしまいましたが、
 やはりスゴいものはスゴい!
 ほぼ3ヶ月がたった今でも、
 アメリカの研究レベルの高さに
 感動する毎日が続いています。刺激と興奮。
 この新鮮味と高揚感がホントたまりませんね!

 僕は日本にいたときは海馬の専門をしていましたが、
 今は「大脳皮質」と呼ばれる場所を研究しています。
 人の脳はクルミの実の中身のようにしわくちゃですが、
 クルミでいえば、ちょうど
 表面にあたる部分が大脳皮質です。
 そうです。脳をおおう薄い膜のような構造です。

 もちろんその膜の正体は神経細胞なのですが、
 顕微鏡でもっと細かく見てみると、
 その膜はさらに神経細胞が6層になっているのです。
 まるで地層みたいに薄い膜が6つ重なっているのです。

 面白いのはですね、その6層構造は
 ネズミでもイヌでもサルでもヒトでも
 いっしょなんですよ。
 なんだか不思議な感じがしませんか?
 だって、大脳皮質といえば、その動物種を
 決定づける重要な役割をしているんですよ。

 ネズミならネズミ、ヒトならヒトという、
 動物の行動や思考に固有なパターンを決めているのは、
 まさに、大脳皮質なんです。
 その大脳皮質を、細かく分解してみてると、
 どの動物でも同じ構造をしているんですから!!!
 僕にはとっても不思議です。

 じゃあ、動物ごとで何が違うのかって言いますと、
 大脳皮質の「表面積」が違うだけなんです。

 たぶん、僕が想像するに、
 ながーい進化の初めの頃に、
 動物は「大脳皮質の6層構造」という、
 とっても効率的な脳の機能単位を発見したのです。

 その効率さといったら、とっても高性能だったので、
 その後の進化では、
 単に大脳皮質を広くするだけで良かった、
 というわけです。

 たとえば、次のように考えていただければ、
 もっとわかりやすいと思います。
 つまり、人間は文明の発達のあるとき
 「レンガ」の作り方を発明した。
 レンガがあれば、
 あたたかくて頑丈な「家」ができる。
 そして、ひとたびレンガという構造単位ができあがれば、
 「大きな家を造るためには単にレンガを沢山積めばいい」
 というわけです。

 まるで、生命が進化のほんの初期の段階で、
 DNAという物質を発見したら
 今でもそれを遺伝子として
 ひたすら使い続けているのに似ていますね。

 でも、ですね。ここからが重要なんです!

 DNAの構造や役割は、
 いまでは、もう科学的に解明されていますが。
 大脳6層の機能や役割は、
 まだわかっていないんですよ。

 6層構造そのものはとっても単純なのに、
 現代の脳科学は
 まだメスをいれることができていないのです。

 動物の進化の過程を見ても、この6層の構造が
 いかに脳の機能に能率が良くて有効かが
 こんなにも自明なのにもかかわらず、です!
 これを解明するのは、
 まさにやりがいのある仕事!


 ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、
 言いたかったことは、
 「6層の秘密を知りたい!」
 それこそ私がアメリカに渡った理由だってことです。

 私がいまいる研究室には、
 その秘密を探り当てるために利用できる
 世界で最先端の装置があるのです!
 それはそれはもう興奮の毎日ですよ!!!


 これが解明されれば、つまり、動物の脳を貫いている、
 基底の法則がわかるでしょう。

 そしたら、それはきっと、
 意識や精神といった高度なものを
 知るための糸口になるはずです。
 だって、人間の心や感情だって
 「6層」から生まれるのですから!!!

 もちろん、
 期待できる成果は、それだけではありません!
 6層という構造を模倣して
 コンピュータがデザインされれば、
 まったく新しい機械や
 ロボットができるかもしれません。
 きっと新しい未来像が見えてくるでしょう。

 だから、この研究は
 すっごく潜在性を秘めているのです。

 でも、もちろん毎日の実験は簡単ではありません。
 失敗と試行錯誤の連続・・・。

 「6層」という単純な構造にもかからわらず、
 その脳の最小単位の「装置」が織りなす活動は
 私が想像していた以上に奇妙で神秘的です。
 なんだか、私が今やっていることは
 未知文明の言語の文法を
 解き明かしていくのに似ています。

 あまりの困難に
 早くも投げ出したくなったことも何度かあります。
 それでも、あきらめずにアイデアを絞り出して、
 再チャレンジする。
 毎日、寝る間も惜しんで、
 脳に少しでも近づく戦略をあれこれと考えています。

 困難にぶつかったとき
 僕がいつも頭に浮かべるのは「海馬の精神」です。
 「海馬」という本に勇気づけられているのは、
 読者だけではありませんよ。
 僕自身も「海馬」の言葉に
 そして内容に鼓舞されて前進している毎日です。

 だから、その苦労が
 なんとなく、楽しかったりするんですよ。
 まさに、海馬、さまさまです。
 ちいさくてもいいから今日も一歩です。

                  池谷裕二



(※このメールへの、あなたの感想をお待ちしています。
  postman@1101.com
  こちらまで、件名を「脳」としてお送りください。
  いただいたメールは、池谷さんに転送いたしますね。
  このメールを、わたくし「ほぼ日」スタッフ木村は、
  とんでもなくワクワクしながら拝読したんですよー。
  とくに、「やりがい」「チャレンジ」のところ・・・)



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2002-03-04-TUE
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