BOXING
私をリングサイドに連れてって。

亀田興毅というボクサーとは。


最近TVや雑誌で亀田三兄弟を知っている人は多いだろう。
90年代の辰吉丈一郎を彷彿とさせる、破天荒な言動。
さらに三兄弟揃い、父親が独自トレーニングで
息子達を鍛えるという誰もが気を引かれ、
個人というよりはキャラクター集団として
男性アスリートの中でも注目度は随一。

これまでのボクシング界の常識を越え、
何から何まで異例である。
プロ9戦目のノンタイトルながら
スペシャル枠でのTV中継、
2万人弱キャパのさいたまスーパーアリーナでの興行、
世界戦並の入場演出、スポンサー契約、そして報道陣の数。

私が彼を目にしたのは、3年ほど前くらいだろうか、
TVの企画だった。
スパルタ父親に幼さが残る興毅と子供のような2人の弟が
激しいトレーニングをしている映像だった。
取材時のコメントも過激だったが、
当時の私には当然ビックマウスにしか聞こえない。
いわゆる街の鼻っ柱の強いお兄ちゃん程度の認識だった。
何しろボクサーはそのくらいでないと大成しないのだ。
その後プロデビューを果たしても、
ボクシングの世界は甘くはないよ、と思っていた。

「浪速の闘犬」と名乗り、試合前から相手にメンチ、
罵詈雑言で攻撃する亀田スタイルは
スポーツマンとして決して褒められた行為ではない。
しかしその自信満々の奔放な言動を楽しむような亀田の姿は
絵になり、それが一般人から見れば異端と
注目されるのは当然の事ではある。

しかし私のボクサー亀田興毅への見方は
前回の東洋太平洋挑戦と、今回の試合で完全に変わった。
見た目キャラクターとは裏腹の実力派として
注目に値するボクサーと変わったのだ。

今日の相手は元WBA世界ミニマム級チャンピオン、
ノエル・アランブレッド。
今回は王者時代から2階級上の
フライ級112lbs(50.8kg)での試合となり、
もともとフライ級の亀田戦は体格的には不利。
しかし日本の誇る星野、新井田の
世界チャンピオン達との試合では
南米系の独特なリズムとフットワークで常に的を絞らせず、
常に接戦を演出した防御に長けた技術は世界トップレベル。

専門的にみるとかなり骨の在る選手を選んだことになる。
試合はアランブレッドペースで始まった。
正面勝負、喧嘩ボクシングの亀田を幻惑するように
微妙なリズムとフットワーク、クリンチ、
頭突きや足踏みなど
反則すれすれのテクニックを細かく使う。
プロわずか9戦目。大観衆。
それも世界レベルとは初めての対戦。
そんな中でも亀田に焦りは見えない。
クリーンヒットを奪えなくても
的確にプレッシャーをかけて、
基本のボディブローを狙う落ち着いたボクシングで
中盤まで試合を作った。
そして7R一気のラッシュで
元世界チャンピオンを追い込み、戦意喪失させた。

さいたまスーパーアリーナで1万弱の観衆、
19歳、キャリア9戦目、世界レベルの相手、
通常レベルの選手にとっては非常に高いハードルを
ベテランチャンピオンのようにクリアした。
勝利直後こそ感極まった表情だったが、
その後のインタビューでは今後への課題、目標が出てくる。
勢いだけではなく即座に自分を
見つめられる冷静さも兼ね備えている。

ボクサーとしての亀田興毅を形容するならば
非常に真面目なボクサー。
意外だろうがそれ以外にはない。
実はその破天荒な言動全てが
努力と頂上を極める意志に裏打ちされている。
ファンがよろこぶKO勝ちを常に公言して
自分を追い込み、結果に出す。まさに有言実行。
現代の天才アスリートの中でも
特に亀田が人々を惹きつけるのは、
努力に裏打ちされたパフォーマンスと
正反対にある破天荒さ、
画面から伝わる印象ではパフォーマンスの中にも
正直な人間性が見えるのも大きな魅力である。

亀田は間違いなく世界チャンピオンを狙える
逸材に成長した。
現在WBAチャンピオンは
テクニシャンのロレンゾ・パーラ、
WBCチャンピオンは強打のサウスポー、ポンサクレック。
勝ち負けは時の運もあるし、今後この2名のチャンピオンが
陥落することも充分に考えられる。

今年実質的に引退したマイク・タイソンも
「あの厳しいトレーニングを続ける気になれない」と
言っていたようにボクシングは厳しいスポーツだ。
先日、川嶋に勝ち再び世界王者となった徳山も
次戦で引退をほのめかしている。
憧れのチャンピオンになった瞬間から
世界中から研究され追われ、
毎回自分を限界まで追い込んで防衛しなければならない
精神的重圧も戦いの一部となる。
昨今、格闘技ブームだがボクシングとの決定的な違いは
一敗の重さである。
ボクシングは一度負けるとファンの期待度は
憎しみにさえ向くことさえある。
さらに内容も問われる。
負けてもマッチメークと試合数の妙で
仕組みが保たれる総合格闘技と違い、
メイン選手一人にその全てがのしかかるといってもいい。
だからこそ世界チャンピオンと尊敬される。
しかし亀田はそれに耐えうる素質があるように見える。
生まれ持ったときからの運命かもしれない。
我々が今見ているのは亀田ロードのまだ道半ば。
いずれ、実力とキャラクターが逆転する日がくるのを
楽しみにしていたい。

2005-11-29-TUE

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