BOXING
私をリングサイドに連れてって。

西岡、2戦連続ドローに泣く!!


両国国技館で行われた、トリプル世界戦
メインイベントは3度目の対決、
因縁という言葉も陳腐に響く宿敵の対決、
「ウィラポン × 西岡」だった。

12R激戦の末、勝負は判定に持ち越された。
リングアナウンサーのコールが始まる・・・。
「115−115、ドロー」
「114−113、西岡」
そして最後のコールは国技館の観客にとっては、
前回の対戦同様、無情なものとなった。
「116−112、ウィラポン」
3者3様のドロー(引き分け)である。
と同時に難しい判定でもあった。
ボクシングは判定になれば、とたんに採点競技となる。
ジャッジは各ラウンドを
どちらか一方の選手に振り分けなければならず、
10点−9点という優劣をつける
(ダウン1回は10点−8点、2回は10点-7点)。
基準は、ダメージを与える有効な打撃、攻勢点、
リングジェネラルシップ(ラウンド支配)
という要素からなる。

まずは試合展開。
西岡選手はこれまでの彼のスタイルとは違った。
ジャブを出し、積極的に攻めていった。
完璧主義な選手。そして「打たせないで勝つ」。
キレの鋭い目の覚めるようなカウンターで
相手を屠ってきた戦い方は、
ジャブをついてワンツーという
基本的なスタイルとは離れ、
手数は少ないが一瞬で勝負するタイプだった。
特に日本レベルだと極端にいうと
一振り(小さな)で通用していた。
しかしウィラポンという世界王者には通用しなかった。
様子を伺うことなど許されず、隙も無く、
攻めのプレッシャーはあり、
そして右ストレートは世界レベルで、決め手もある。
ゆえに西岡も打倒ウィラポンに向けて
ジャブ、ワンツー、フェイント等さらに進化させた。
それが第一ラウンドから出たのである。
スピードもあり、スロースターターのウィラポンは
テンポが合わず、初回ラウンドを支配した。

しかし、「勝負の大きな行方を左右したのはこれだ」
というシーンが2R顕著になる。
それはウィラポンの右ストレートである。
それも軽く突き刺すようなものであり、
KOパンチでは全くない。
しかし肝心な間合いになると
必ずコツン、コツンと当たる。
このパンチが12Rまで有効的に使われた。

つまり逆の表現をすれば
西岡はこの右をずっと喰い続けたということだ。
顎が上がり、打たれた反動で水しぶきが上がる。
ダメージ以上に印象が悪い。
さらに頭の動きが止まると見事にヒットする。
実際の感覚はどうだったのだろうか。
私は「喰い続けた」のではなく
「気にしていなかった」と見ていた。
つまり軽いから致命傷にはならない、
気にしないで自分の攻めをしよう、
という感覚ではなかったか。


西岡のジャブをブロックするウィラポン

この右ストレートは致命傷は与えられないが、
ウィラポンの絶対的な武器となった。
中間距離は西岡の切れのあるジャブと
ウィラポンのうるさい右ストレートでの
主導権争いとなった。
終盤、中間距離で右を喰って劣勢気味になった西岡は
思い切って接近戦を挑む。
ボディブロー、アッパー、フック系での打ち合い、
これが功を奏し、ペースを巻き返す。
ただしウィラポンもムエタイ出身だけあり、
西岡もそれなりにダメージは被っている。
ムエタイ出身選手は抱きつきや、首相撲や肘打ちなど
接近戦での戦いがあり、ボクシングでも
随所にいやらしい技術を使うことが多い。

終盤、明らかにスタミナが落ちたのは西岡だった。
しかし、パンチが流れ(※1)上体がぶれても
コンビネーションを見舞う。
あのような状態で出るパンチは練習の賜物だ。
しかしウィラポンは「デス・マスク」というあだ名通り
表情を全く変えず応戦する。
ウィラポンは10度防衛という自信とオーラを纏い
打ち合いでも平然とプレッシャーをかける。
その重圧は相当なものだろう。

そして冒頭の判定となった。
初戦は判定負け。
第二戦はドロー。
第三戦もドロー。
12R、2160秒戦って、わずか1ポイントの差が
天と地を分けた。

両者についた、この微妙な差はなんだろうか。
陸上や水泳では0.1秒さえもスロー映像で
勝者と敗者を識別することができる。
しかし採点となると本当に非情だ。

乱暴に解釈しよう。
ウィラポンの攻めのプレッシャー、
そしてリードの右ストレートでの試合運びが支配したのか。
西岡の技術、ジャブ、接近戦が支配したのか。
結果は前者がわずか1ポイント差をつけたということだ。

言葉を換えると、プレッシャーと右リードに負けた。
これはウィラポンのペースである。
しかし「ドロー判定」を聞いたウィラポンは
大喜びしていた。
試合中の「デス・マスク」ぶりが嘘のようであった。
新聞では「8−10ポイント、リードしていたと思う」
とあったが真意は定かで無い。
私はウィラポンも相当苦しかったのではないかと、
推測する。
もしかしたら西岡以上だったかもしれない。
しかしそれをオクビにも出さない見事な精神的強さで
1ポイントをもぎ取ってしまったようにしか
思えないのである。

攻撃、防御、スタミナ、経験、
トータルで相当の水準がなければ
世界チャンピオンにはなることが出来ないのは
誰でも分かる当たり前の話である。
しかし、全てが揃っても勝てない事もあるのが
格闘技であるボクシングである。
劣勢時に頼りになるのは? 反対にリスクを負うのは?
ともに最後は「自分」以外にない。
時には大きな大きなリスクを背負って、
恐怖に立ち向かい、真っ向勝負を仕掛けなければならない。

それが、自分よりも世界戦経験豊富な王者、
そして手の内が分かり合っている3度目の対決となれば、
絶対に必要なものではないか?

西岡は世界トップレベルの素質を持っている。
しかし3度とも勝てなかった。
勝つことができなかった。
いや勝ちに行かなかったといってしまってもいいだろう。
厳しいが、その位言われてもいい実績、実力を持つ選手だ。
あえて「何」が足りないかは言わないが、
その答えはこの文章に込めたつもりである。
ウィラポンが持っていて西岡が持っていなかったもの。
確実にいえるのは、それは、
ボクシングの根底に絶対必要なものであると
確信した試合だった。
西岡が、それを持った時、その時こそ
ウィラポンの呪縛から解き放たれて
世界王者になる時だろう。

※1
パンチが流れる
パンチを打った時、一定の距離で止まらない状態。
疲労時に顕著に見られ、防御に戻れず危険とされる。



ご意見はこちらまで Boxnight@aol.com

2003-10-07-TUE

BOXING
戻る