BOXING
私をリングサイドに連れてって。

山口真吾、早すぎた世界挑戦。

ここ最近近所のコンビニエンスストア「サンクス」で
異様にも見える上半身裸の男2名が写った
ポスターが張られていた。
よく見るとそこに
「サンクスに勤務している山口真吾さんが世界挑戦します」
という文字。
メディアからではなく、コンビニのポスターから
世界戦イベントを知るというのも珍しい。
山口真吾というフルネームもそこで初めて認識した。

WBC世界L.フライ級タイトルマッチ
「チェ・ヨサム対山口真吾」の試合は
ディズニーリゾートの中にある
東京ベイNKホールで行われた。
今回の興行はボクシング業界的にはいろいろな意味で
よく言うとチャレンジ、悪く言うと無謀ともいえるだろう。
・NKホールで初の世界タイトル戦。
・午後1時という早い時間からの世界戦開始。
・挑戦者のネームバリューと実績への疑問

駐車場から会場まで歩くと、途中、家族連れが
ディズニーランドをバックに記念撮影している。
ホテルラウンジでコーヒーを飲み時間を潰していると、
隣のテーブルから
「(挑戦者は)5分と持たない」
「秒殺だよ」
といった予想も聞こえてきた。

無理もないかもしれない。
22歳の挑戦者、山口は
世界13位ではあるもののプロ僅か14戦。
それも10回戦になってからの試合を
2回しか経験していない。
唯一の実績といえば昨年末、日本チャンピオン横山に
ノンタイトルで判定勝ちした位である。
会長である渡嘉敷氏の方が圧倒的に有名で
渡嘉敷会長ありきでやっと認知されるくらいである。

対象的にチャンピオン、チェは
韓国王座、東洋太平洋王座を獲得。
クラス最強と目されていた
タイのサマン・ソーチャトロンから
打ち合いで世界タイトルを奪い、リマッチにも勝っている
現在ピークの超攻撃型スタイルの29歳。
不安は1年強のブランクと
トレーナー、マネージャーとのトラブル、
母親の病気という精神面だろうか。

日本有数のリゾート地の空気と青空、
両者の戦力比較ですでに、
今回の世界戦が通常の世界戦の期待感や
痛いような緊張感とは対照的な
不思議で、妙に力が抜けている感覚を覚えた。

両選手が入場しても緊張感は高まらない。
しかしゴングが鳴るとそれまでとは全く違う空気を感じた。
それは危険と言い換えてもいいだろう。
見た感じチェは山口より一回り大きい。
1階級上の選手と試合をしている感じだ。
1R立ち上がり、山口がパンチを出した瞬間に必ず
チェがパンチを返してくる。
世界戦の序盤は相手の実力を見る傾向がある。
相手のパンチの強さ、スピード、キレ、軌道と
自分の感覚を確認するため、
リスクが高い相打ちはほとんど見られない。
しかしチェは1Rから打ち合いに入っていく
展開なのである。
山口を軽く見ているとしか思えない。
実際2Rには左右フック、アッパーと
様々なパンチが山口を襲い、
右フックで早くもぐらつく。

やはりもうだめなのか・・・・。
しかし、あらためてチェは
L.フライ(108lbs=48.97kg)にしては本当にパンチが強い。
コンビネーションもある。
隙もあるが山口にとっては迫力が優っている。
軽量級も進化している。
パワーとスタミナがなければ世界は狙えない。

しかしここから山口が頑張った。
頑張ったという言葉しか見当たらないほど
頑張った。
強打を喰らっても、手数は減らず、
なんとか逆転を狙い続ける。
半分位の入りの会場からも
フルハウスのような「山口コール」が起こる。
この驚異的な山口の頑張り反比例するように
チェのボクシングが粗くなる。
足は揃い、一発を狙うリズムのない
危険なボクシングになった。
しかし山口にそこを衝く経験と強打がなかった。
愚直なまでに正面からの打ち合いに終始し、
終始ダメージを受けた。
ペースを取るというクレバーな流れを
身に付けていなかった。
7R、すでにマクタビッシュレフリーは
山口選手の顔しか見ていない。
それほどダメージが大きく、危険な状態なのだ。
その状態から軽量級随一の強打者を逆転するのは
不可能だった。
9Rに完全なダウンを奪われ、
10Rにレフリーストップで試合は終了した。

試合後山口選手は
「パンチがあんなに強いとは」
「序盤から何回か記憶が飛んだ」と
パンチ力に脱帽し、泣いていた。

今回チェは調子が良くないように見えた。
足が揃い、バランスも悪かった。
世界タイトルを取った試合とは雲泥の差があった。
しかし強打者相手のスタミナ比べの耐久戦ならまだしも
ダメージ覚悟の被弾戦では勝ち目がない。
また調子が悪いなりにもパンチを
当てる技術は高いものがあった。

今回の試合を冷静に判断すれば、惨敗である。
しかしその惨敗の中で、
山口選手の手数とファイティングスピリットを
賞賛する向きもあった。
これからは飛躍的に世界王座を狙うのではなく、
日本王座、東洋太平洋王座を狙い
様々なキャリア積めば、
面白い選手になることは間違いない。
早すぎた世界戦を自己財産に変え、
身近な目標から目指していけば
自然と世界も徐々に近くなってくるはずである。
その成長の過程を見守って行きたい。

WOWOW 小田真幹


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2002-02-26-TUE

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