坊さん。
57番札所24歳住職7転8起の日々。

第230回 不思議なクマがお寺にやって来ました。


こんにちは。
ほんとーに久しぶりになってしまいました。

四国のお寺で坊さんをしているミッセイです。

栄福寺という四国遍路のお寺で、
住職をしている若僧であります。

僕は今も変わらず、
お寺を訪れるたくさんのお遍路さんを迎えたり、
誰かに死が訪れると、
そこへ行って手を合わせる、
役割をしています。
(今日もそうでした。)

栄福寺では、
僕たちにとっては、
大きなプロジェクトが、
動き始めています。

それは、
お寺に住むお坊さんが、
仏教を考え、提案するために働く、
「編集部」のような場所と、
そこで制作したものをお披露目する、
「仏教のお店」のような場所を、
お寺に建築するという計画。

今、現在は、
ややこしい事が重なって、
スムーズに進んでいないのですが、
具体的になっている部分も随分あるので、
何年かかっても実現させるつもりです。

結局、
お寺がそういうシンプルな存在になっていけたら、
坊さんも、受け手も、
「うれしい」の量が大きいのかな、
と考えています。

「まずは、建物の名前をつけてみたら?
 進むんだよ、そうしたら意外と。」

計画に参加してくれている、
昨年、グッドデザイン賞を受賞した、
建築家の兄(白川在)が、
プロジェクトのはじめにそうメールをくれました。

その場所に、
僕は「演仏堂」(えんぶつどう)という名前を、
つけてみました。

「仏教を演ろう、今夜。」

そんな、架空のコピーを頭にめぐらせながら、
上手じゃなくても、
仏教を使って、
ちょっとでも愉快に生活できないかな?
という問いかけを、
続けてみようと思っています。

* **

すでに、
実現したうれしい出来事もありました。

現代彫刻のアーティスト、
三沢厚彦さんが木でつくる動物(「ANIMALS」)を、
栄福寺に呼んでくるという計画です。

僕が、
この彩色された等身大の動物達と、
初めて出会ったのは、
ふくやま美術館での三沢さんの展覧会でした。

その時、僕は、
言葉で説明できないほどの強い感触を、
受け取ったんです。

そこで、
その動物たちをじいっとみていると、

「動物である僕。」

「その中でも人間である私。」

というような感情が、
強烈に僕の心に放射されてきました。

そして、そのことが、
本当に不思議な事に、
その場所を走り出したいぐらいに、
「うれしい」開放的な気持ちなんです。

僕は直感的に、

「これは、深く宗教の心とも繋がってるかもしれないな。
 お寺になんとしても呼んでみたい・・・。
 いや、むしろ、お寺にないと、おかしんじゃないかな?」

と勝手な事を考え始めました。

ちょうどその日は、
福山での展覧会の初日でしたので、
作家自身による制作実演と講演会が開催されました。

その最後の質問コーナーで、
僕は素直な気持ちを三沢さんに伝える事にしたんです。

「僕は四国で僧侶をしています。
 今日、動物達を観てお寺に作品を設置してみたいと、
 強く思いました。
 それについて三沢さんはどう感じますか?」

三沢さんがマイクを持って口を開く前に、
会場を埋め尽くした多くの観客の人達から、
柔らかい拍手が自然にわき上がった事を、
僕は忘れる事が出来ません。

その後、
美術館の学芸員の方が、
とても親切に間に入ってくださり、

再びワークショップの為に、
福山を訪れた三沢さんに、
僕の撮影したお寺の写真や
設置場所の候補を見て頂きました。

そこで話した事も、とても印象的でした。

効率化された都市の中で、
四国や東北という場所の持つ意味。

新作の上を向いて転がったクマの写真を、
僕に見せてくれながら、

「このクマ、完全に目がイッてますよね。
 宇宙遊泳みたい。」

自分の作品を他人事のように笑う三沢さんに、
やはりこの人のつくる、
動物をお寺に連れてこなければ、
と感じました。

その日、
福山から、
しまなみ海道を渡って、
四国の寺に戻ると、

そこもまた、
動物たちで溢れているんです。

お寺の本堂の屋根の上から睨みをきかす、
鷹(タカ)の彫刻。

弘法大師堂を今日も守護する、
十二支の木彫の動物達。

お寺を守り続けてきた
今はいない人達の生の心と、
静かな会話を始められるような、
そんな気分でした。

「もしよかったら遊びにくるつもりで、
 小田原の制作場に来てみませんか?」

そんな言葉に甘えさせて頂いた僕は、
小田原に向かう前に、
東京、日本橋の画廊に連絡をとり、
三沢さんの作品を、
急遽、倉庫から出して頂いて、
いくつかみせてもらうことにしました。

そこで僕は、
一匹の白いクマに出会ったんです。

大きくも小さくもない、
140センチほどのそのクマは、
今まで観たどの三沢作品よりも、
僕を強く惹きつけました。

その視線は、
宇宙を見すえているようで、
僕しか見ていないようで、
僕なんか見ていないようで、

腹が減っているようで、
そもそも飯なんか食わないようで、

その場所に、
じっとたたずんでいました。

僕は動かないはずの、
生命さえ持っていないはずの、
そのクマに何度も強く抱きしめられました。

「すごいですね、このクマ。」

しばらく続いた沈黙の後で、
やっと出てきた言葉は、
そんなありふれた言葉でした。

その日の夕方、
小田原の三沢さんの制作場を見学させて頂き、
ご飯を御一緒しながらも、
僕はそのクマから受け取ったヒリヒリするような感覚を、
感じ続けていました。

駅まで送ってくださった車の中で、

「あのクマ、すごく気に入ったんですか?」

「はい。
 僕にとって、
 “もうひとつの本尊”になるような、
 そんな存在かもしれません。すごいです。」

「そうですか・・。
 あのクマ、いいですよね。

 僕は“おやじ熊”って呼んでるんです・・・。」

「お、おやじ熊ですか!」

大きな声で笑いながら、
僕にとって本当にうれしい時間になりました。

そして今、
このクマは栄福寺に住んでいます。

引っ越しの日は、
クレーン車がやって来ました。

不思議な感覚です。
すごく、うれしいです。

香木であるクスノキの強い香りが、
建物中に充満しています。

最初の計画では、
たくさんの参拝の方にも見て頂けるように、
ブロンズの動物を野外に設置する予定だったのですが、

僕の直感で、
三沢さんとの最初のプロジェクトは、
このクスノキのクマになりました。

なんとなく、
高野山時代に僕が卒業論文を書いて、
大切な出会いのきっかけになった、
希有の人物「南方“熊楠”(クマグス)」の事も、
思い出されました。

お寺の歴史の中でも、
素晴らしい出会いになったと信じています。

今は、
多くの人に観てもらう事は、
難しいのですが、

また、
違う方法でも、
三沢さんの作品を多くの人達に、
感じてもらう事を実現したいと思っています。

そして栄福寺という場所で、
この不思議なクマから、
じっくり始まる事が結構あるんじゃないか、
そんな風に感じてるんですよ。

ミッセイ

 

・ この熊が横浜のそごう美術館での三沢さんの個展に、
  (今年の10月4日から11月16日開催予定)
  栄福寺から出張予定です。
  お近くにお住まいの方は、ぜひ、観に来てくださいね。

・ ソニーのデジタル一眼レフカメラαのCMに登場していました


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2008-07-06-SUN
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