坊さん。
57番札所24歳住職7転8起の日々。

第123回 ひとり法師

ほぼにちは。

ミッセイです。

京都での、
糸井さんとMAYAMAXXさんの、
授業の翌日、

僕は、法事にでかけた。

7回忌のおばあちゃんと、
150回忌の、
誰も知らない御先祖様。

お経が終わり、
お話で、
トウバに世界を“こめる”
という事と、

「死んだ人を憶えている。」

ことを、いつものように話す。

その後は、
家族と一緒にお墓に行くんだけど、

おじいさんが、
おばあさんのトウバを、
持っていないことに、
気付いた誰かが、
おじいさんに声をかける。

「ほら、ほら、じいちゃん。
 ばあちゃん、
 抱いていって、あげないと。」

微笑みながら、
仏壇に近づき、
何も言わずにトウバを、
つかんで、
玄関からお墓に向かっていく
おじいさんが、
優しく、
いたずらっぽく、
口を開く。

「・・・抱く?
 もう、忘れたよー。」

たったったと、
小走りにその場を離れる、
おじいさんの背中を、
娘さんが笑いながら叩く。

「もう、お父さん。
 お母さん、怒ってるよ。」

お墓から帰って、
みんなで食事をする時に、
おじいさんは、
女性の神様を祀った神社の
不思議な話を、みんなにする。

「この話は、僕の見た、まんま。
 なーんにも、加えとらん。
 そういう雰囲気に、
 みんながなった時に、
 話すことにしてるんよ。

 だから、仏さんも神さんも、
 大事にするの。」

おじいさんが、
亡くなったおばあちゃんを、
「おんな」と呼ぶのも、
なんだか印象に残った。

「おっさん、
 死んで、半月ぐらいは、
 日暮れに散歩で、
 会う人みんなが、
 おんなに見えるの。

 あれー、おんな、
 なんで、あんなトコに、
 おるんだろう。

 なんの疑問もなく、
 そう、思うの。

 おんな、死んでしまったのに、って。」

「おじいさん、
 ばあちゃんが好きやったんですね。」

「・・・、
 かしこい人だったね。
 
 あんな人と一緒になれるなんて、
 思いもしなかった。」

その日は、
僕の小学校の頃の先生も来られていて、

「アユム、あ、えーっと、
 和尚、
 一杯いこうよ。」

と、法事では、
わりと珍しく、お酒を頂いた。


翌日、
じゅずを買いに、
お寺に来た女性の、
母親に対する
荒っぽい声が、
寺務所まで聞こえてくる。

あまりにも、
ひどいので、
出ていって、
納経所に僕が座ると、

「なんぼにするんやっ。」

と、声をかけられる。

「そのまま、ですねー。」

「ひかんのやったら、
 用ないで。
 坊さんは、
 座らんでも、いいで。
 今日、納経ないんや。」

頭がクラクラして、
散歩に出かけた。


そして、特に意味もなく、

「1人だけの自分を見ることのできる人。」

について、
考えてみた。

僕が1人であくびをする時、

僕が1人で願い事をする時、

あなたが1人で涙を流す時、

そこに、いるのは誰だろう。

1人の自分を、
たったひとり、
そのまま、
見ることができるのは、
自分だけなんだな。

今、気付いたな。

と思いました。

2人、3人、4人、
増えていくのも、
うれしいんだけど、

1人だけの自分を、
見ている人がいるというのは、
たぶん、ありがたいね。

そんなことを、
考えてると、
自分の肉体が、

「かりそめの入れ物」

みたいな気がしてきて、
不思議な気分だったよ。


栄福寺に帰って、
夕方のお勤めをして、
最近の日課にしている、
“瞑想”をして、
本堂の施錠をしました。

本堂の中で、
  
「私は、お寺にお嫁に行きたいんです。
 本堂で寝ることが、
 できるんだもの。」

というメールが読者の方から、
来ていたのを思い出して、

ごろーんっと、
出来心で天井を見上げる。

古い天井に、
昔の人が貼った、
自分の名前のシールみたいな物が、
見えました。 

「宗教って、いろんな人の、

 “1人ぼっちの話”
 
 なのかもしれないな。」

と、すこし、思いました。

ひとりぼっちの僕はあなたを愛せるのか。

ひとりぼっちの僕は、
世界に微笑むことができるか。

ひとりぼっちの僕は何をしたいか。

なんで、僕はひとりぼっちなのか。

ひとりぼっちの僕は、
あなたに涙をわけられるか。

ねぇ、みんな、きいて。

そういうもん、なのかな。

その、
ひとりぼっちが、
集まって、
いろんな、ぼっちを、
ひっつけて、離して、つづって、

僕は、今、
お坊さんになってんのかな。

そんな風に思いました。

悪い気分じゃないよ。

ぼっちの僕に、僕が出会える。

ぼっちのあなたを、僕が見てる。

みんな、ぼっちだから、
ぼっちのぼっちを、
見つめたくなる。

なんとなく、いいね。

ここまで書いて、
いま、辞書で、
「ひとりぼっち」って、調べてみたら、
言葉のはじまりは、
“独り法師”だったよ。

「ぼっち」は、「法師」だったんだね。

「ひとりの坊さん」ってことかな。

ふ〜ん。

ミッセイ


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2003-08-03-SUN

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