坊さん。
57番札所24歳住職7転8起の日々。

第94回 栄福寺、じいちゃんと、ばあちゃんの頃。

ほぼにちは

ミッセイです。

僕が、大学生の頃。

夏休みに、
実家の栄福寺に帰っていた時の話。

老夫婦のお遍路さんが、
運転する車が、
じいちゃんの大事にしていた、
盆栽をたくさん置いてある場所に、
飛び込んだ。

全滅である。

みるも無惨。

真っ先に飛び出した僕に、
その老人は、
落ち着き払って、こう言った。

「大丈夫。全部、弁償します。
 ちゃんと。」

「住職が、長い時間をかけて、
 手をかけていたんです。
 そういう問題じゃ、ないでしょう。」

ここで、じいちゃんが、登場。

(こりゃあ、怒るぜ。)

と、僕は思った、当然。
はっきり言って、
気は長い方じゃない。

「それは、ともかく。

 あなた達は、
 これから、運転して、お遍路できますか?

 それが心配だね。」

その時、はじめて、
お遍路さんは、
おわびの言葉を口にした。

「へー、じいちゃん、ダンディーだなぁ。」

と思った。

畑の緑を観ると、
よく、じいちゃんを、
思い出す。

僕は、
帰省した兄と畑で、
話し込んでいた。

久しぶりに
帰ってきた兄と、
話したくて、仕方がないのが、
ミエミエのじいちゃんが、
僕達と微妙な距離で、
ウロウロしている。

そして、いよいよ、
近寄ってきて、二人に、
トンチ系のパーティージョーク
みたいな話を披露して、
疾風のように去って行く。

「じいちゃん、イギリス紳士みたいだなぁ。」

兄が、半ば呆れて、思わず口にして、
二人で、爆笑した。


じいちゃん、おばあちゃんの頃の、
栄福寺って、
どんな感じ、だったんだろう?



なんとなく知りたくなったので、
ばあちゃんに、色々と聞いてみましたよ。



ばあちゃんには、3人の娘がいて、
じいちゃんは、
昼間、学校で勤めていた。
(世界史の先生でもあった。)

ほとんど、
ばあちゃんだけで、
子守と留守番になります。

でも、春になると、
娘3人を連れて、
たまに「お花見」に、行ってたんだって。

「お遍路さんが、来たらどうするの?
 いつ来るか、わかんないし。」

「えーっとね。
 昔は、お遍路さんが通る道なんて、
 一本道だったから、
 お遍路さんが通ったら、
 自転車で、お遍路さんを、追い抜いて、
 栄福寺に戻って、納経して、
 また、帰ってきてたのよ。」

ということでした。

“ほのぼの”するにも、
ほどがあるっ!

という感じの、話ですね。
すごいなぁ。

「あと、“寺男”(てらおとこ)さん、
 みたいな人にも、
 おもしろい人が多かったなぁ。」

「てらおとこ?」

「うん。
 お遍路の途中で、
 なんとなく栄福寺に、
 住み始めて、
 掃除のお手伝い
 なんかを、したりするの。」

「う〜ん。」

「何年か居て、また、お遍路に出て、
 帰ってきたりね。
 
 一番、長い人は3年ぐらい、いたかなぁ。
 
 その人は、すごい、男前で、
 字なんか、相当うまかったよ。
 元々、役場で働いてたって、言ってた。」

「普段は、なにをしてるの?」

「掃除しない時は、散歩に行ったり、
 近所に托鉢(たくはつ)に行ったり。

 ときどき、お洒落して、ステッキ持って、
 街にも遊びに行ってた。」

「・・! どこ行ってたんだろう?」

「知らんよ。」

「家族とかは、いないのかな?」

「いたよ。子供もいるって言ってた。 
 財産もかなり、あるみたいだったよ。」

「ふ〜ん。なんか、不思議だね。
 お母さんは、
 家族のだんらんの中に、
 そういう人がいて、
 イヤじゃなかった?」

(母親、登場)

「その人は全然。

 すっごい、やさしかったし。
 じいちゃんと、
 その人と、境内を掃きながら、
 いっつも、歌を歌ってくれた。」

「歌?」

「うん。こんな感じ。

 ケイコちゃん!(母親のこと)

 “ながい”の反対っ!

 ・・・“い・が・なっ!!

 チャッ、チャッ、チャ、

 “たかい”の反対!

 ・ ・・い・か・た!」

「・・・。」

「そんでね、
 学校のテストの時、
 “長い”の反対を“短い”
 じゃなくて、
 “いがな”って書いたのね。」

「はははは。」

「3人で、ばあちゃんに、無茶苦茶、怒られた。」

「なんか、ほとんど、家族だね。」

「うん。すぐ、いなくなるんだけどね。
 女の人もいた。九州の人。」

「ふ〜ん。宿坊もやってたんだよね。」

「うん。
 小学校3年生から配膳の手伝いしてた。
 5時起床だった。
 ばあちゃんは4時、起床。」

「で、私は(ばあちゃん)
 子供が寝てから、内職してた。
 編み物。
 みんな貧乏だったなぁ、
 あの頃は。」

「昔って、みんな貧乏だったって、
 イメージあるよねぇ。」

「そうでもないよ。
 ばあちゃんが小学生の頃、
 昭和7、8年。

 あの頃は、なんでも、あった。
 おかし、食べ物、着物。
  
 いい時代だったよ。」

「ふーん。なんか、意外な感じ。
 昔は、全部、貧乏って訳でもないんだね。」

「うん。そう、そう。」

と、いつになく話し込んでしまいました。

じいちゃんの話と、
ばあちゃんの話の
違う所は、

ばあちゃんは同じ話を、
あまりしない所です。

じいちゃんは、
お気に入りの話を、
30回はしたなぁ。



ミッセイ

2003-02-16-SUN

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