すでに『三位一体モデル』
お読みくださったかたがたに、
いったいどんな感想をお持ちになったか、
おうかがいしてゆくこの連載。
今回は、Mr.Childrenの作品をはじめ、
ジャケットデザイナーとして活躍されている
信藤三雄さんが登場して下さいました。
CDジャケット界の第一人者は、
『三位一体モデル』をどう読んだ?




── デザインにおいて
「言葉にしやすい」というのは
「説明しやすい」ということでしょうか。
信藤 そうですね、
言葉で表現しやすいってこと。

たとえば、いいジャケットって
さっきの『原子心母』にしても、
「あの牛のジャケットがさぁ」って言ったら
わかるじゃないですか。

そうやって、
後世に残る名作というような作品は
言葉にしやすいんだと思います。
言い換えるとそれは、
本質をつかんでるということ。
── じゃ、たとえば
ハイヒールの女性が歩いている‥‥。
信藤 うん、『クール・ストラッティン』でしょ。
ソニー・クラークの、ジャズの名盤。



Sonny Clark『Cool Struttin'』
── あれは、「あのハイヒールのやつ」で。
信藤 それで、話が通じますよね。
それはやはり、
何か本質をとらえているんですよね。
── ああ‥‥なるほど!
ソニー・クラークの音楽の雰囲気を
表現しているようなデザインですよね、
そういわれてみますと。
信藤 もっといえば、
僕、「本質」以外には
あんまり興味がないんだよなぁ(笑)。
── よけいな装飾とか?
信藤 うん、よけいな装飾、よけいな知識。

本質以外の、周辺のことに興味はなくて
そのものごとの本質は何なのか、
ということ考えるのが、一番なんですね。
── それを捕えられたときには、
デザインは「もう、できた!」と。
信藤 そうですね。

「ロックンロールの本質って何?」
みたいなことでいえば、
「ロックンロールって言えば、
 エレキギターじゃない?」(笑)。
── ふん、ふん。
信藤 エレキギターが出現したことによって、
ロックンロールが生まれた。

そういった意味では
「3」という考えかたに、
すごく何か、本質が潜んでるんじゃないかって
思っているから、
「三位一体モデル」という考えかたにも
ひかれるんでしょうね。

── それでは、あらためて、
実際この本をお読みになった感想を
お聞かせいただけますか?
信藤 ええ、そうですね‥‥。

中沢先生の作品はどれも好きだし、
もちろん、
この本もおもしろかったんですけれど‥‥。
正直いって、
あまりよくわかりませんでした。
── ええっ‥‥!?
わからない、とおっしゃいますと‥‥?
信藤 三角形のすごさはわかるし、
「三位一体」という図形自体についても
すっごく興味があるんだけど。
── はい、はい。
信藤 理解したいんですよ、本当に。
でも、「三位一体モデル」の本質を
完全に理解できてるかというと、
かなりあやしいんですよね、やっぱり。
── なるほど、やはり「本質」ですか。
信藤 うん、「父」「子」「聖霊」という、
みっつをあわせて考えることが重要なんだ、
ということは分かるんです。
でも、それじゃ「父」って何?
「子」って何?
なぜ「聖霊」は増殖するんだ? って
考えはじめちゃうと、理解できてないなぁって。
── もちろん、純粋に神学的に言ったら、
それぞれ説明があるんでしょうけれど、
いままでのお話をうかがっていると、
デザイナー・信藤さんにとっての「父」とは
たとえば「起承転結」だったりするのでは、
と思うんですが‥‥。
信藤 でも、「聖霊」が増殖するという前提のもとに
いろいろなケースを考えるといっても、
僕の場合には、そもそも
「増殖するってどういうこと? なんで?」
というところを考えざるを得ないんです。
── 前提となる部分、ですね。
信藤 もちろん、すごく単純な話をすれば、
「音楽」というものの増殖装置が
ジャケットデザインや
ヴィジュアルの広告だとは、
言えるとは思うんですけれどね。
── ジャケ買い、なんて言葉もありますし、
ジャケットデザインの良さで
記憶されている作品もありますが‥‥。
信藤 でも僕は、なぜ「聖霊」が増殖するんだ、
といういうこと自体を知りたい(笑)。
── それには、キリスト教の歴史を
本格的に勉強する必要があるんでしょうね。
信藤 これは、僕が「本質論」にしか
興味がないっていうことと、
どこか関係があるのかもしれません。

もちろん、この『三位一体モデル』では、
まず、そういうことを前提として
さまざまなケースにあてはめてみよう、
ということなんでしょうけどね。
── 本質にたどり着きたい、と。
信藤 ですから、「三位一体モデル」を
もっと深いところで理解するには、
もうすこし考えなければならないな、と。
── その「本質をつかみ出したい」という
考えかた自体が、逆説的ですけれど、
デザイナー・信藤さんの
原理原則になっているようにも思います。
信藤 うーん、そうなんですかね(笑)。

でも、やっぱり
完全には分かっていないながらも、
やっぱり「三位一体」というものに
ひかれるんだよなぁ、なぜか。
── それは、デザイナーとしても、
信藤さん個人としても、ですよね。
信藤 うん、やっぱり
安定していて、揺るぎないからでしょうね。
── 水平・垂直がきちんとしていなければダメ、
ということも、
「起承転結」をつけて
デザインを考えるいうことも、
安定感のある三角形が好き、ということも‥‥。
信藤 ものごとの本質や
絶対的な基準を求めてしまう僕の心と
どこかでつながってるような気がしますね。


<終わります>


2007-03-09-FRI