すでに『三位一体モデル』
お読みくださったかたがたに、
いったいどんな感想をお持ちになったか、
おうかがいしてゆくこの連載。
今回は、Mr.Childrenの作品をはじめ、
ジャケットデザイナーとして活躍されている
信藤三雄さんが登場して下さいました。
CDジャケット界の第一人者は、
『三位一体モデル』をどう読んだ?



── 信藤さんは以前、ある対談のなかで、
デザインにおいては「起承転結」を考えている、
とおっしゃっていたんと思うんですが、
それもやはり「安定」ということと
つながってくるんでしょうか。
信藤 ああ、そうかもしれないですね。
── 言葉では説明しにくいと思うんですが、
ジャケットのデザインにおいて
どういったことを「安定」と言うんでしょう?
たとえばきっと、信藤さんの
この作品も「安定」してるわけですよね?


Mr.Children『Q』
信藤 見えるところで言うなら、
僕の場合は、
きっちりと水平・垂直が保たれている、
ということですかね。

つまり、地平線は水平じゃなきゃ、
電柱はまっすぐ垂直に立ってなきゃ、
いやなんです。
── 作品を手がけるときも、
そうしたことを
意識されているんですか?
信藤 うん、水平・垂直が
ピシッピシッとなってないと、
なんだか、気持ち悪いんですよ(笑)。

── なるほど。
信藤 カメラマンでも
すごく水平・垂直のピシッとしてる
写真を撮る人と、
そこはあんまり気にしない人と、いますよね。
── たとえば、どなたでしょう?
ピシッピシッとしてらっしゃるのは‥‥。
信藤 ウィリアム・クライン。
あの人の写真は、イイですね(笑)。
すっごくピシッとしてる。
── それは、デザイナー的な視点から見て
美しい、ということなんでしょうか?
信藤 うーん‥‥それもあるけど、
単純に、眺めていて
すごく心が安定するんですよね。

それがちょっとでもゆがんでると、
気持ちが悪い。
── なるほど。
信藤 そういう意味では、
日本の浮世絵なんかは、
水平・垂直がピシッとしてますよね。

ですから、こういう感じかたって
わりと日本的な捉えかたなのかも
しれませんけれど。
── お話をお伺いしていると、
ジャケットデザインを通じて
なにか安定的なものを
追求されているような‥‥。
信藤 結局、自分の心の安定みたいな作業を
やってるのかもしれないですね、
── ジャケットデザインを通じて。
信藤 ええ、いろんなデザインするときに‥‥、
何だろう、世のなかは移ろいやすいし、
今日、最先端だったものが
明日には古びたものに変わってしまったり。

だから、「安定」や絶対的なものを
求めてしまうのかもね。
── ふん、ふん。
信藤 時代の移り変わりによって、
価値観も変化していきますし、
自分自身も、いろんなものに飽きて
新しいものを求めていくから‥‥。

そこで、絶対的なものが
ほしいと思うんじゃないのかな。
真理というか‥‥それを「父」と
呼んでもいいのかもしれませんけれど。

── 信藤さんのデザインの「父」。
信藤 そう、そう。
── 原理原則のようなものですね。
なるほど、なるほど。
信藤 ですから、「起承転結」で
デザインを考えることなんかも、
すべてそのあたりに
帰するような気がしますね。


松任谷由実『VIVA! 6X7』



Flipper's Guiter『ヘッド博士の世界塔』

── 信藤さんの作品を拝見しますと、
同じようなモチーフを
シンメトリーに配置させたり、
カラフルなドットを用いたり、
というデザイン処理に
特徴が出ている気がするのですが‥‥。
信藤 たとえば、色ちがいで
ドットをリピートしたりという、
そういうグラフィカルな表現は、
ま、パッケージデザインでは
わりとよくある表現ですよね。
── 昔からこうしたデザインが
お好きだったんですか?
信藤 というよりも、
CDジャケットという
小さな面積のなかで何が有効か、
ということを
戦略的に考えてるんでしょうね。
── と、いうことは、
LPレコードだった時代とくらべると‥‥。
信藤 うん、CDの時代になってからは
いま言った
「パッケージデザイン」という要素が
強くなってきているんですよ、たぶん。
── なるほど‥‥。
信藤 逆に、LPだった時代には
たとえばいい写真があれば
いいジャケットができた。
いいイラストレーターがいれば
いいジャケットができたけど、
こんなに小さくなると、
それだけでは、成立しませんから。

よりデザイン的な要素が
必要になってくるんじゃないかと思います。

<続きます>

2007-03-05-MON