小さい ことばを 歌う場所


(担当編集者、永田のレポート)


いよいよ、残すところは
「糸井重里のことば」を編集するばかりとなりました。
とにかくおまかせあれ、と周囲を無鉄砲に説き伏せ、
ぼくはひとりの作業に取りかかりました。

当初は、「ほぼ日手帳」用に抜き出したことばを
ベースに作業を進めようと思っていたのですが、
掲載するスペースの大きさがまったく異なるため、
けっきょくいちからすべてやり直すことにしました。

具体的には、
2006年の1月1日から12月31日まで、
糸井重里が「今日のダーリン」と「ダーリンコラム」に
書いたことばをすべて読み直し、
そこからことばをどんどん抜き出して、
ふるいにかけ、さらにふるいにかけまくって、
残ったことばを順番に並べていくのです。

それは、うっとりするような作業です。
積極的に時間を忘れてしまうような
どこか別の世界で知らない娯楽を味わい続けるような
神経と筋肉の境界が溶けていくような
非常に、うっとりするような作業です。

とにかくぼくは資質として
ものごとの順番を決めていくことが好きです。
散乱している要素をぐるりと見渡して、
それを、少しずつ、少しずつ、
しかるべき順番に整えていくことが好きなのです。

ときに、拠り所のなさに途方に暮れながら、
ときに、根底を覆す可能性に気づいて身震いしながら、
それでも、正しい順番はひとつしかないと信じて
微調整を果てしなくくり返していきます。
鳥の視点と虫の視点を交互に入れ替えながら、
来た道と行く道を同時に感じながら、
いつかその道を通る大勢の人の姿を想像して
編み、つむぎ、つなぎ、探し、磨き、
グラデーションをかけていきます。

とうとうその放物線ができあがったときには、
残念でなりません。
だって、もう、それが終わってしまうのですから。
本当に、そういう気分になります。

最終的に、ぼくは168のことばを選びました。
先に述べた1年間以外の領域からも
どうしても収録したかったことばをふたつ足しました。
写真は41枚入れました。
きっと、もっと入れてくれと
言う人が多いのだろうな、とも思いましたが、
今回の主役は「ことば」と割り切って
それでも最終的には自信をもって41枚に絞りました。

そのようにして、
「小さいことばを歌う場所」ができあがりました。
著者であり、上司である糸井重里にそれを差し出し、
最終チェックをお願いしました。
修正は、ひとつもありませんでした。

糸井からの返事のメールには
こう添えられていました。



『小さいことばを歌う場所』
ほんとにおもしろかったです。
ぼくが言うのもへんですけれど、
実におもしろかったです。
「この著者とは、気が合いそうだ」
という意味では、最高の本を発見した思いです。
自分のともだち、たとえば、
矢野顕子にプレゼントしようと、
まず、思いました。
ありがとうございました。



「小さいことばを歌う場所」の販売は、
明日、2月20日の午前11時からです。
本屋さんに並ぶ予定はありません。
バーコードも定価も記されていない、
シンプルで小さな本です。
「ベスト・オブ・糸井重里」と
ありがたい表現をしてくださった読者の方がいました。
ぼくもそう思っています。

最後に、心からの思いとして言わせてください。
この本を、どうぞよろしくお願いします。


2007年2月19日 永田泰大


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