いっしょになって、よろこびたい

自分自身のことについて言うと、
読者や、いっしょにはたらくチームの仲間と
よろこびを共有できるってことが、
僕にとっての「大切なこと」なのかもしれません。

仕事をしていてうれしいなぁと感じるのって
たいてい、
「読者の人たちが、よろこんでくれたとき」と
「自分以外の仲間が、
 よろこんではたらいているのを見たとき」だから。

何というか、こころが動くんですよね、
よろこんでいる読者や仲間を見ていると。
その手伝いをできたことが、
もう、うれしくてしょうがなくなるんです。

そういう、いっしょによろこびたいっていう気持ちは、
誰にでもあると思いますし、
そのかけがえのなさや、うれしさって、
ノウハウからは学ぶことができないんですよ。

だから、自分の仕事だけじゃなく、
他のチームのことまで気にかけてはたらいている人って
それだけ、よろこびも大きくなると思うし、
いっしょにはたらきたいと思える人も、
そういう「いっしょによろこべる人」なんです。


うまくやることと、よくやること

だから、誰かと何かをいっしょにやるときには、
たとえば、
見放さないでずっと見ていてくれるような人と
仕事がしたいなって、思います。

そういう人って、やっぱり信用できますし、
何かをうまくやってみせる
要領の良さとか才能なんかとは関係ないんですよね。
やっぱり「こころ」の問題になってきますから。

つまり、何かを「うまくこなす」ためには、
ノウハウや公式を丸暗記したほうが早いんでしょうけど、
何かを「よくやる」ためには、方法論なんて、たぶんない。

「就職」や「はたらく」ということについては
みんな「うまくやるための方法」を、
学ぼう、学ぼうとしてきたんだんだと思うけど、
だれと、どんなことを、どうよろこびたいかって、
そっちを真剣に考えることのほうが、
仕事を「よくやる」ためには、大切じゃないですか。

このあいだ、「ほぼ日」の乗組員が
キムチの漬けかたについて、取材しに行ったんです。

で、唐辛子や塩の敷きかたを教わっているときに、
「なるほど、白菜の厚みがあるところには
 たくさん敷いて、
 薄いところには少なく敷くんですね」って聞いたら、
教えてくれた人が、
「たしかにそうだけど、
 そんなこと、わざわざいう必要ないじゃない」って。

「美味しく食べてほしいと思ったら
 厚いところには、たくさん敷くでしょう」
「美味しく食べてほしいって
 ほんとうに思ってたら、そうするのよ」って。

「おいしく食べてほしい」って気持ちが、
「よくやる」ためには重要で、それはノウハウじゃない。
そして、それは同時に
「大切にしているもの」でもあるんですよね。


あいつ、いいよなぁ

任天堂という会社の社長をやってる岩田聡さんは、
就職活動をしている学生さんに向けて、
自分自身で、会社説明会をやっているんです。

これは、企業側と学生側、
お互いにお互いのことを知らないままで
入社してもらうよりも、
少しでも自分たちの会社のことを知ってから
入社してほしいからなんだそうです。

たぶん、自分たちの「大切にしていること」を
わかってもらえるよう、
できるだけ誤解のないように、
自分自身で、精一杯、伝えているんでしょうね。

だからやっぱり、就職試験の面接のときだって、
その後、ずっとはたらいていくときにだって、
やっぱり「人と人の話」になってくるんだと思うんです

つまり、
「うまく生きる」ためのノウハウじゃなくて、
「よく生きる」ための、なにか。

『はたらきたい。』という本は、
楽しく読めるけれど、特効薬のような本ではありません。

でも、「あいつ、いいなよあ」って、
いっしょに何かをやりたいなと思えるような、
そういう人になるために、
ちょっとアタマを柔らかくする材料みたいな本です。

就職活動をしている学生さんだけでなく、
すでにはたらいている人でも、
「よく生きる」ことについて、なにか知りたくなったら、
ぜひ、読んでもらいたいと思います。

2008-02-29-FRI



(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN /// Photo : Naoki Ishikawa