KOBAYASHI
新しい本屋さんの考え。
bk-1の安藤店長と話しました。

第4回 書店員として表現できることは?


糸井 安藤さんとお話してると、楽しいわ。
なんか、発想が似てるんですよね。
「サバイバル型」と言いますか、
何もない所からはじめようという考えかたを、
されているじゃないですか。

bk1がはじまった時、多くの人にとっては、
親会社が割と堅いという印象が強かったようで、
あまりいい意見は聞かなかったんですよ。
安藤 ええ。
糸井 でも、ページを見ると、
表面に見えているものは、おもしろいじゃない?
ぼくはそういう立場だったんです。
朝日新聞でオススメした時も、
みんなが抱いたよくなさそうなイメージを
逆転してくれると、いいなあと思っていました。
安藤 ぼくはbk1をはじめても、
IT企業に行った気はしてなかったんです。
リアルとバーチャルの違いだけで
ぼくの中では、本屋のままでした。
「町の本屋の復興」「棚の文脈作り」
「すべての本には本籍と現住所がある」
などの仮説はまったく一緒ですから。

新しいことをはじめると、
パブリシティが先行しちゃいますし、
世間的に見れば、そうした報道から
イメージを作られる傾向があるんですけど。

ただ、それをどうひっくりかえせるかの、
そこのおもしろさは、逆に感じています。
糸井 世間のイメージをひっくりかえせない、
と決めちゃっていた時代が、
今じゃあ、懐かしいですよね?
今は、ひっくりかえせますから。
安藤 はい。
そういう意味では、それこそネットは、
見られてはじめての勝負ですから、
ページさえちゃんと作れば、必ず支持されます。

だから、bk1の若い連中には、
「権威は関係ないんだよ。
 書店員として表現できることがなくなったら、
 このページを、読者は見なくなる。
 本が早く届くとかいうことは、
 そのうちに当たり前のことになるから、
 そうじゃない表現で自分を磨いてほしい」
というように、言っています。
糸井 そうですよね。
例えば検索で言えば、
アマゾンの優秀さって、
ものすごいじゃないですか。

でも、そこを例えばbk1が追いつくとしたら、
安藤さん本人のやることじゃないですよね。
そこは安藤さんと違う文脈の人が、
「俺がやる!」って飛びこんでくれば、
やれるし、変われるんですよね。

アマゾンは、すでにアメリカにあるものを
持ってきてるわけで、確かにそこには
すごい開発費がかかっているわけです。
安藤 何年もかけてね。
糸井 でも「一回出来ちゃったもの」って、
もう、あとからすぐできちゃうんです。
だから、一人いればほんとはできるんですよ
できあがったブツで学んでWEBで実験して、
新しいブツをつくって・・・その循環は、
ぼくは最近、できるようになってきました。

ブツというか、ものを触るって、
人間が仕事をするうえで、
ものすごく重要ですよね。
安藤 実はbk1では、毎日、スタッフに
新刊を一回、触らせるようにしてるんですよ。
糸井 へえー。
安藤 最初はそういうことをしなかったですが、
それじゃ、駄目だなあと思って、
入荷した「今日の新刊」を倉庫に入れる前に
一日事務所に寝かせて、
全部見られるようにしたんです。
そうすれば、みんな見るじゃないですか。
手にとって「おもしろそうな表紙だな」とか。
糸井 それは、いいなあ。
安藤 この本もこうやって中にウレタンが入ってね。
ぼくは持った瞬間
「あ、これは売れるな」と思いましたよ。
糸井 (笑)
安藤 この「ふんわり感」って、今までなかった。
何となくこのふんわり感に、メッセージが
あるんだろうなっていうのが分かったし・・・。
触感で、そう思いましたよ。
糸井 このウレタン加工は、講談社に
我慢してコストかけてもらったんですよ(笑)。
安藤 絶対、正解ですよ。
糸井 ありがとー。
安藤 あったかみがあると言うか。
店頭で手に取ったお客さんも、
きっと、そう感じるでしょう。
そういうことって、
データだけじゃ、分からないですから。
糸井 今まで何回言っても駄目だったことが、
これからどんどん、
「あれ?できちゃった」
みたいなことに、なっていくんだろうねえ。
安藤 それがクリエイティブのおもしろさかなぁ。
糸井 そうですねぇ・・・。
なんかさー。
bk1の話をしてるんだか
ほぼ日の話をしてるんだか、
途中から、わからなくなってきましたよ。
安藤 はい(笑)。
常々、bk1が競争相手に勝つには、
そういうところしかないなあと思っています。

すでにある評価軸で判断するよりは、
やっぱり本によるコミュニティを作るとか、
いかに信頼やシンパシーを得るかとか、
お互いに一緒にいい本を売っていきましょうとか、
そちらのほうを、重要だと思っているんです。
糸井 bk1って、特殊な本を売った例が、
もう、結構あるでしょう?
こりゃ普通売れないよ、みたいなものを。
安藤 1985年に出た
『ゲーデル・エッシャー・バッハ』という本、
あれは5500円もする分厚い本なんですけど、
あれをコンピュータのコーナーで売ったんです。
初日で20部売れました。
あの本をいまどき平積みして20冊売る本屋は、
たぶん、ないと思いますね。
糸井 そうだよなぁ。
安藤 買ってくださったかたは、
島に住んでいらっしゃったり。

その本を見たことがなければ、
その人にとっては、新刊なんです。
いつ出版されたかなんて、関係ないんですね。
紹介された本が、自分の生活や好みに合えば、
買いたいと思うわけであって・・・。

そういう気持ちを、うまく
ひきだせた例だと、思っています。
糸井 売れる住所を作ったことでもありますね。
安藤 本来ならあの本は、
人文やサイエンスに置かれますが、bk1は、
「コンピュータ使う人は読んだほうが、いいよ」
というメッセージを出しました。
糸井 植物から動物への進化の過程みたいですね。
つまり、
「本の本籍を変えずにとどめる」
というのは植物としてなら基本なんだけど、
そこの場所で風媒花みたいに撒くよりは、
本を、別の場所に、歩かせたほうが、
いいという。
安藤 そうですね。
糸井 そうしたことって、
本に筋肉をつけさせるんだね。
安藤 本の運動能力を。
糸井 それは、いろいろなものに当てはまる。
役に立つなぁ、この対談は。


(つづきます)

2001-06-07-THU

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