自転車思想。
チャリンコは、未来そのものの顔をしている。

第8回
自転車泥棒


こんにちは。

今、これを読んでいる方の中で
自転車を盗まれた経験のある人は…、
けっこういるんじゃないかと思います。

カギはかけてましたか?
ダイヤル錠の場合、全ての桁の数字を動かしましたか?
ワイヤーは、ワイヤーカッターで切断できないくらい
太いものを使用していましたか?
自転車を何かと固定していましたか?
それでも、盗られる時は盗られます。残念ながら。

そういう憎たらしい自転車泥棒の話です。

僕は幸いなことに、
自転車そのものを盗られたことはありません。
でも、去年の夏にサンフランシスコで
自転車の後輪だけを持って行かれたことがあります。
忘れもしない、郵便局に切手を買いに行った時のことです。

現地の自転車乗りがカギをかけるやり方をならって、
自転車のフレームと前輪を、
歩道脇の街灯の柱にしっかりと固定したにも関らずです。
僕が約10分くらいで戻ってきたら、
後輪の無い、無残な自転車になってました。
もう、腹が立つやら悔しいやら……。

僕の自転車の後輪が盗まれたことを知った、
向こうの友人が僕に一言、
"Welcome to America!"
だって。
よく言うよ、って感じですけどね〜。

日本でも自転車の盗難は頻繁に起きますが、
海外、とくにアメリカの現状は、
想像も絶するくらい深刻なものです。
“ちょっと拝借”的な自転車泥棒が多い日本と異なり、
向こうはあくまでプロフェッショナル。
まるで映画の『60セカンズ』ですね。

サンフランシスコの大通りを自転車で走っている時、
いかつい黒人に呼びとめられたことがありました。
手にはピカピカ光る自転車のパーツ、
それもけっこう高級なものでした。
どうやって入手したかは、言わずもがな。
盗難自転車のマーケットがしっかりと存在しているのです。

アメリカの都市で駐輪する場合、
必ず、自転車を何かと固定しなくては意味がありません。
例えばこんな具合です。



自転車だけにカギをかけたとしても、
クルマでやってくる自転車泥棒には関係無し。
あっさりと持っていってくれます。
また、タイヤだけを固定した場合も、
泥棒は決して容赦してくれません。
外せるところは全て持って行ってしまい、
タイヤだけが取り残されていることになります。

自転車を固定できる鉄柱や鉄柵が見つかっても油断は禁物。
実はそれ自体がすっぽ抜けるという危険性もあります。
手でゆすってグラグラしないかどうかチェックが必要です。
例えすっぽ抜けないにしても、グラついていると
テコの原理でカギを破壊することが可能だったりもします。

当然、カギにもそれ相応のコストが必要です。
自転車を買った時に付いてくるようなカギでは、
全くといっていいほど役に立ちません。
この辺り安全にお金を払うのは当たり前という、
グローバルスタンダードな常識を痛感させられます。
(ちなみに、僕が海外で使うU字ロックは$59、
 日本円で約¥6300しました。)

あと、新品の自転車と古い自転車では、
当然新しい方が狙われます。
だから、自転車を買って、あえて汚しを入れる人もいます。
シカゴの友人、デイブ・グロワッツの著書、
"Urbanbikers' Trick & Tips"という本の目次には、
ご丁寧にも"How to Uglify Your Bike"
(自転車の汚しかた)というページが作られていました。
ステッカーや、油性マジックを使って、
とにかく自転車を汚くしてしまえば、
泥棒もめったに目をつけない、というわけです。

でも、それすらも甘いと思わせるのが、
世界で一番自転車泥棒が活躍する街、ニューヨーク。
一応、僕の持っているU字型のロックには、
$2000の盗難補償が付いているのですが、
まことしやかなウワサでは“マンハッタンは除く”と
保証書に書いてあるとのことです。



この街で働くメッセンジャーの必須アイテムがこれです。
その重量2.77キロ、
値段も約$90ですから、1万円弱です。
僕がニューヨークに行った時も、
会うメッセンジャーがみんな一様に、
「このチェーンを使わないとダメだよ。」
と言ってましたね。
それはもう、うるさいくらいに忠告してくれました。

(ちなみに、このチェーンを製造している
 クリプトナイト社のキャッチコピーは
 "Tough World, Tough Locks"だそうです。
 ムムゥ。何だか納得させられます。)

ニューヨークの自転車泥棒は、
どんな新しい形式のカギが現れても、
3〜6ヶ月あれば破る方法を発見してしまうそうです。
例えば、頑丈この上ないように見えるU字ロックですら、
冷却材を使って瞬間的に凍らせてしまうと、
金属の持つ粘りがなくなって、
ハンマーで一気に破壊できてしまうそうです。
よくもまぁ、そんなこと考えつくものですねぇ。

ただし、破壊するのに5分以上かかる場合は、
さすがの泥棒たちも敬遠するとのこと。
そうなると問題は
“カギが破られないこと”ではなく、
“破るのにかかる時間の長さ”が重要なのです。
つまり、上の極太チェーンは
単純に切るのに時間がかかるから、
“比較的”狙われにくいのです。
実際、この手のチェーンを切断されたという
体験談の持ち主にも会いました。

自転車に対する社会的な認識と、
それに応えるだけに利用者の意識など、
欧米から見習うべき点はたくさんありますが、
この自転車泥棒事情だけは、勘弁して欲しいですね。
とはいえ、犯罪の国際化・凶悪化も
防ぎがたい流れですから、
日本もそういう時が来ないとも限りません。
もし、今までカギに無頓着だったら、
ちょっと気をつけてみて下さい。

それでは、また。

Ride safe!
and,
Park safe!

2000-10-20-FRI

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