自転車思想。
チャリンコは、未来そのものの顔をしている。

『自転車はもう駄目』だなんて!
(原さんのお話、その4)


こんにちは。

10月に行われるKETTAフェスティバルの
中心人物、原啓祐さんのお話、第3回です。

フライブルグでの視察を終えた原さんは、
万博の開催地決定の瞬間を見るため、
モナコへと向かいました。
結果はご存知の通り、愛知県に決定。
感動に浸りながら、モナコの街に繰り出します。
そこに、ドイツとは異なる自転車の世界が広がっていました。
世界中のお金持ちが集まる国、
ベンツさえもがカローラクラスに見える国です。
自転車は、ここでは生活の手段ではなく、
一種貴族的なスポーツとして存在していました。
ド派手なカラーリングのイタリア製ロードバイクが、
F1のコースにもなっている所を疾走してました。
スポーツとしての自転車も魅力的だ、
モナコでは、そんなことを知りました。

ヨーロッパでさらに自転車の虜になった原さん、
帰国したその勢いで、行きつけの自転車屋さん
「RINRIN」へと向かいました。
おやじさんも喜ぶだろう、そんなことを考えながら
自分の見たもの、感じたことを伝えていました。
話し疲れた原さんが一息ついたところで、
「RINRIN」のおやじさんは、
寂しそうに微笑みながら、こう言いました。

「実は、店をやめようと思うんだ。」

突然のことに、原さんは大ショック。
確かに、はたで見てても経営は苦しそうでした。
でも、そこまで追い込まれてるとは・・・。

「僕はヨーロッパで確信したんだ、自転車の時代が来るって。
 だから、もう少しがんばろうよ。」

そんな原さんの説得も、おやじさんの、

「自転車は、もう駄目なんだよ。」

という力のない一言を覆すことはできません。
そのまま一週間が過ぎ、「RINRIN」は閉店しました。
かつて名古屋の自転車小僧たちが集まった空間も、
ついに過去のものとなってしまったのです。
おやじさんも街を離れたらしく、
その後、姿を見たという人もいません。

それからしばらくたった頃、
原さんは青年会議所で委員長に任命されました。
『特徴ある名古屋創造委員会』
読んで字のごとく、
名古屋の街を、特色豊かなものに変えていく、
そんな企画を考え、仕掛けることが仕事です。
名古屋の特徴はとは何か、を考えている最中に、
かつておやじさんが語ってくれたことを思い出しました。

「原君、この街は自転車にとって、
 本当にすばらしい地形をしているんだ。
 坂も少ないし、道も広い、
 (名古屋は)自転車天国になりうる
 可能性を秘めた街なんだよ。」

これだ。
原さんが、委員会で企画すべきことは決定しました。
名古屋の特徴を生かしたイベントは自転車しかない。
そう思い立った原さん、2日間で企画書を作成。
持ち込まれた青年会議所幹部たちも、
思わず目を丸くする勢いだったそうです。

自転車に関係することだったら、何でもあり。
かつて「RINRIN」のおやじさんと、
「こうだったらいいのになぁ」と語り合ったことを、
全て企画書に盛り込んでいきました。
たかが自転車とはいえ、
人によって乗り方、考え方は千差万別です。
速い人、遅い人、大事にする人、しない人、
信号無視する人、しない人・・・、などなど。
そんなさまざまな人たちを全て巻き込んでみよう。
そして、自転車の楽しさ、便利さ、必要なリスク、
自転車だけ、自動車だけに固執せず、
両者の長所を生かしたスタイルの提案などを、
多くの人たちに知ってもらおうと考えたのです。

それを聞いて、僕(エノモト)はふとこんなことを思いました。

 自転車って、どこを走っていいかよくわからない。
 ルールもあいまいだし、
 それを教えてくれる所もあまりない。
 (もちろん、法律をあたれば出てるんですけど)
 だからこそ、乗ってる人の持ってる、さまざまな意識が、
 けっこうむき出しになるもんだなぁ。
 それはそれで、自転車の持ってる面白さかもしれない。
 
 もちろん、いつかはいろんなことがハッキリする。
 それは、自転車道の整備かもしれないし、
 交通ルールやマナーの問題かもしれない。
 その結果が、自転車乗りにとっていいものになるか、
 今よりいっそう危険で不自由なものになるのか、
 それすらも今はよくわからない。
 でも、だからこそ今、自転車について考えるのが面白い。
 自転車について考えている人と
 真剣に話し合うのが面白いんだなぁ、と。
 ・・・、ちょっと脱線。

最後に、原さんはこんなことを言いました。

「『RINRIN』のおやじさんには、
 是非ともフェスティバルに来て欲しいと思ってます。
 みんなが笑顔で自転車に乗ってるところを見て欲しい。
 そして、『自転車はもう駄目だ』と言ったことを、
 自転車を諦めたことを撤回して欲しいんです。
 これは、おやじさんのリベンジなんです。」

イベントを成功させるために、
毎日あちらこちらと駆け回っている
原さんのそんな言葉を聞いて、
僕は、何だかとってもまぶしいものを見るような、
そんな感覚を味わっていました。

10月のイベントが今から待ち遠しいな。
KETTAフェスティバルの詳細は、また後日。

Ride Safe!

2002-07-09-TUE

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