自転車思想。
チャリンコは、未来そのものの顔をしている。

景ちゃんの自転車 その3

この自転車を再生させるに当たって、
彼女には1つのアイデアがありました。
それは、10年以上前に買った一冊の本、
自転車の写真集に載っていたんです。
1台の自転車の写真があって、
その自転車の後輪には、泥除けがついていました。
そして、泥除けと車輪の軸は、
幾何学的な組み紐でつなげられていたんです。


BE−PAL3月号より転載
撮影:井上六郎氏


これは、とっても可愛い。
でも、可愛いだけでこんな紐が付いているとも思えない。
ロードバイクの繊細なシルエットが、
まるでサラブレッドの足首のごとく、
競技上の必要性から生まれているように、
自転車のデザインの多くは必要性に根ざしている。
彼女がそんなことを思ったかどうかは知りませんが、
とにかく何らかの必然性があると考えたんです。

考えること数日、答えは簡単なところにありました。
街を行くママチャリのオバサンが、答えを持っていたのです。

バタバタバタ、バタバタバタ。

彼女の横を行く自転車は、そんな音を上げていました。
音の正体は、オバサンのロングスカート。
スカートのすそが風を受けて
自転車の後輪に巻き込まれかけていました。

「そっかー!」

わかっちゃえば簡単。
それは、ロングスカートが巻き込まないための工夫でした。

意味はわかったら、今度はどうやって紐の組み方が問題です。
写真を見て、紐がどういう構造になっているのか、
解読しながら紐を編んでいきます。
この工程に1ヶ月半近くかかってしまいました。
制作期間が約2ヶ月ですから、
その大部分を、紐の編み方に費やしてしまいました。
でも、それが今回の自転車の特徴ですから、
まぁ、仕方ないのかもしれません。
とにかく、妥協をせず何度も何度も繰り返した結果、
紐が織り成す模様は、とても美しいものになりました。

自転車ができあがったのは、去年の12月でした。
藤田さんが言いました。

「まるで嫁を出す父親の気分だったよ。」

そう、これは趣味で作った自転車ではなくって、
あくまで商品として作られたものですから、
できあがれば手放さなくてはいけません。

自転車の販売は、すっかり仲良しになった、
服屋のナナさんが請け負ってくれました。
彼女が企画しているブランドのショップが、
原宿のラフォーレにあったので、
そこに置かせてもらえたんです。
お店の名前は『ライブ』。
お店側も、将来的には洋服をリサイクルして
販売するような計画を持っていました。
だから、藤田さんの再生自転車は、
お店のコンセプトともかなり合っていたんですね。

ナナさんとしては、藤田さんの自転車を置くことで、
まるでアジアのマーケットのように、
服屋さんがひしめくラフォーレの中で
『ライブ』というお店の特色も出せるし、
藤田さんとしては、
ラフォーレという、多くの人が行き交う空間で、
自分の作った自転車を展示できる。
お互いにメリットがあったわけです。

でも、もう1つ問題がありました。
値段をどうするか、という問題です。
当初の予定では、3万円程度という価格設定でした。
でも、僕はあえて言いました。
その設定をもっと高くすべきだ、と。
実際、塗料などでかなり元手がかかっていたんです。
もちろん、実費としてかかった金額の問題もありますが、
次の自転車、次の次の自転車ということを考えると、
藤田さんモチベーションを維持させるためにも、
ある程度高めの価格設定にする必要があると思いました。

そんなこともあって、藤田さんの自転車再生計画第1号は、
55,000円という値段になりました。
確かに、自転車の専門店でもないところで販売するには、
若干高い価格設定だと思います。
でも、デザイン面・機能面をとっても十分以上でしたし、
何といっても世界に1台の自転車なのです。

僕は、こんな想像をしました。
この自転車が欲しいと思った人が現れた時、
おそらくその人は、最初少し高いと思うはず。
でも、他のどんな自転車屋さんに行っても、
同じ自転車は見つからない。
似たような自転車は数多くあるでしょう。
それらに満足できない人だったら、
絶対にラフォーレに戻ってくる、と。

2ヶ月ちかい時間がかかりましたが、
それは、その通りになったのです。

続きます。

Ride Safe!

2002-03-19-TUE

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