我ら、バリへ行く。
6月19日 バリ、東京、青山。
(永田)




旅のピークはどこにあるのでしょうか。
初日でしょうか。最終日でしょうか。
あるいは荷物をパッキングする前夜でしょうか。
戸締まりをして出かけるその瞬間でしょうか。
異国の滑走路にタイヤがギャッと音をたてて
接地するその刹那でしょうか。
夕暮れに、自分がどこにいるのかを忘れる
ぼんやりとした時間のなかでしょうか。
慌てていろんな人へのおみやげを
リストアップするころでしょうか。
それとも、ほんの数日前のことを懐かしく反芻しながら、
最後の風景を目に焼きつける短い集中のなかでしょうか。

バリに行ってきました。
たしかにバリに行ってきました。

夕陽を見てきました。
ウェルカムドリンクを飲んできました。
ガムランの音に耳をかたむけました。
プールサイドで本を読みました。
写真をたくさん撮りました。
ナシゴレンを食べました。
民族衣装を身にまといました。
友だちが禁煙をしました。
シュノーケリングをたのしみました。
ボートの上でミゴレンを食べました。
夜中に目が覚めてバーに行きました。
バーで友だちと懐かしい話をしました。
友だちの禁煙はあっさり破られました。
早起きしてヨガを体験しました。
マッサージを受けました。
なぜかキャッチボールをしました。
ホテルで何度も迷いました。
街へ行こうと誘われましたが、
けっきょく部屋で昼寝しました。
靴下は2回しか履きませんでした。
ジンジャーエールを飲みました。
友だちがドレスアップしていました。
プールに浮かんだロウソクの光に心を奪われました。
竹のガムランをはじめて聴きました。
みんなで輪になって踊りました。
踊るのは恥ずかしいので写真を撮っていました。
少し仕事の話をしました。
仕事以外の話をたくさんしました。
ひさびさにビールを1本、きちんと飲みました。
移動の途中、ビーチにおりて、友だちと海を見ました。
砂浜に、足跡をたくさんつけました。



そしていま、最終日の、最後の陽が暮れていきます。
旅のピークはどこにあるのでしょうか。



チェックアウトをすませた同僚たちは、
そういう取り決めなどしていないのに
プールサイドに集まりはじめます。
なぜなら、そこから最後の夕陽が
もっともよく見えるからです。



僕らを突然バリに導いた社長も
プールサイドへやってきます。



三日目の夜でしたか、
アマンの特別な雰囲気に乗じて
僕は社長に率直な質問をぶつけてみました。
「なんでこんな旅を?」
おそらく、理由はいくつもあるのだと思いますが、
社長はそのときの僕をもっとも簡単に
納得させる理由を選んで言いました。
「こういうことがやりたかったんだよ」と。



アマンダリに泊まっている方が、
『オトナ語の謎。』を片手に社長にサインを求め、
不思議な偶然に場がわきました。
新婚旅行だそうです。お幸せに!



どうやら全員がチェックアウトを終えました。
もう、ほんとうに、旅は終わりです。



鳥が空を渡っていきます。
冗談のような最後の夕陽を、
僕らはそれぞれ胸に刻みます。



旅のピークはどこにあるのでしょうか。
やがて僕らは立ち上がり、
最高のサービスでもてなしてくれた
最高のスタッフたちにお礼を言って
アマンを出て行きます。



空港までの移動はずいぶん速く感じられました。
いろんなものを詰め込んだらしく、
どのトランクもぱんぱんにふくらんでいます。
そのふくらんだトランクをあずけるとき、
もうほんとうに帰るばかりなのだと実感します。

22:00、東京に向けて飛行機が離陸します。
バリの湿った空気ともお別れです。
また来よう、あるいは、また来たい、と
僕らはめいめい強く思うのですが、
その思いが必ず成就されるわけではないことも
またわかっています。
つぎに来るのはいつだろうか、と思いながら、
僕らは離陸の時間を待ちます。
しんみりするのはいやですから、
あえてくだらない話をしたりします。

ありがとう、アマン。ありがとう、バリ。
また来たいと本当に思っています。
さようなら、アマン。さようなら、バリ。

2005年 6月18日 永田‥‥んん?



なにやら、様子がおかしいな。
総務の元木が現地のスタッフと
真剣な話をしています。
どうしたのモッキー、と話しかけようとしたその瞬間、
ひどく恐縮しているスタッフの口から
つぎのようなことばが飛び出したのです。
「出発は‥‥3時になります」

‥‥‥‥え?

「エンジントラブルとのことで、
 出発は5時間遅れです」

ご、ご、ごじかん!
せっかくいましみじみと別れの空気を味わっていたのに、
5時間待ちかよ!



「えっ! 5時間!」
さすがの社長も思わず声をあげます。
だってもう、ほんとうに、
飛び立つばかりだったのですから。



「とりあえずみんなに知らせないと‥‥」
社長はそのように考えます。



「おい、おまえら。かくかくしかじかだ」
「‥‥え?」
「‥‥は?」
「‥‥ご?



「ごじかん?!」
ナイスリアクションに気をよくしましたので、
ここからは「ほぼ日」乗組員の
ビックリ劇場でおたのしみください。

「ごじかん?!」
「ごじかん?!」
「いやぁ〜〜!」
トミタ
「ごじかん?!」
スギエ
「へー。
 そーなんだ(ニヤニヤ)」
弥絵
「ごぅわっ、ぐぁっ、
 ごぉじくゎんっ?!」

弥絵ちゃん、
驚きすぎ、驚きすぎ。
緊急集合! 点呼!
旅行委員のもっきーが
スケジュールの変更を伝えます。
もうすぐ終わり、と
思っていたところに
このトラブル。
がんばれ、もっきー!
5カ国語をあやつる、
なんちゃんこと南郷を通訳に、
現地旅行会社、空港スタッフと
緊急協議!
「3時に出るのは確実?」
「それまではホテルで待機?」
「あずけた荷物は?」
おお、たのもしき、
ほぼ日女子部の面々!
そしてそのころ、男子部は‥‥。
‥‥‥‥。
‥‥え〜、なんか、
ずっと待ってるのもなんだし、
みんなのおみやげチェックでも
してみようかな。
やっぱあれだね、
カゴが多いね、カゴが。
カゴのなかに
カゴが入ってるもんね。
お、モギコの荷物も
カゴinカゴ。
そのカゴのなかには
なにが入ってるの?
カゴinカゴinカゴ‥‥。
開けても開けても
カゴ、カゴ、カゴ‥‥。
こっちは、あやちゃんの荷物。
バッグのなかに、
バッグ、バッグ、バッグ‥‥。
しかし、みんなけっこう、
買ってるもんだね。
おおっ、
こっちは現地のおみやげで
コーディネイトしたな。
派手だねえ。
これ、東京に着いたときに
恥ずかしくない?
ハリー
「いや、これは自前ですわ」
スガノ
「東京から
 この格好やっちゅーねん」
‥‥ものすごい趣味やな、
キミら。
ふたりいっしょにいると
めっちゃ目立つで。
離れとき、離れとき。
「ウブドゥの楽器屋で
 買ったんですよ」
と、経理のナガサカさん。
ああ、なるほど。
そういう手もあるかあ。
ちょっとうらやましい
おみやげだなあ。
スガノ
「楽器なら、あたしも買うたで。
 ほれほれ」
ハリー
「あっ、その笛なら、
 ボクも買いましたよ」
「フヒョロロロ〜〜〜♪」
こらこらこら、
目立ちすぎ、目立ちすぎ!
バカなことやってるうちに、
待機先のホテルが
決まったようです。
とりあえずそこで待て、と。
わー、いったいどこへ
行くんだー。
行き先を把握できないまま、
バスへ導かれます。
とほほ、せっかく
しみじみしてたのに、
あっという間に逆戻りかよ‥‥。
バスのなかは
ちょっとやけくそムード。
「どこ行くの〜?」
「知らなぁ〜い」

わーーー、走り出した!
バス激走!
戻ってきたぜ、バリ!
また会ったな、バリ!
30分ほど走って、
どっかのホテルに到着!
ただいま、バリ!
また来たぜ、バリ!
さっきのサヨナラは冗談だぜ、
バリ!
見知らぬホテルのロビーで
待たされる乗組員たち。
みんな落ち着かない様子‥‥。
しかし!
木村俊介はすでに読書中!
さすが、違う時間軸に生きる男!
木村の1時間は
ふつうの人の5時間に相当する!
木村の奥歯には
加速スイッチがついている!
おっと、ここで、各自に部屋が
割り当てられたようです。
カメラは、西本のあとを
追ってみます。

「ようこそオレの城へ!」
いえいえ、彼はまったく
はじめてのはずです。
「まずはビールですわ!」
開き直って、
飲み始めるにしもっちゃん。
「ま、焦ってもしょーがない」
バターンとベッドに大の字。
まあ、そりゃそうだね。
ホテルのバーで休憩する、
なんちゃん&ゆーないと。
このあたりは順応性が高い。

ぐっさん、西田、
ひーげの3人組も
開き直って食事。
バイキング形式。
「いっただきまぁーーす!!」
うんうん、元気でよろしい。
いっぽうそのころ、西本は‥‥。
爆睡中。
話しかけても起きませんでした。
つけっぱなしのテレビでは、
なぜか
『ボルグ対マッケンロー』という
懐かしの名勝負が
放送されていました。
そして‥‥数時間が経過‥‥。
日本時間で深夜2時!
各自の部屋に
集合を伝える電話が!
わらわらとロビーに集合。
仮眠中に起こされて
ぼんやりしている人も
目立ちます。
社長も到着。
今度こそ、出発かな?
なぜか台車の上で待機中の西本。
起きたばかりらしく、
テンション低め。
お、これはモギちゃんの荷物だ。
中身をたしかめてみましょう。
うんうん、カゴのなかに
カゴが入っていますね。
カゴinカゴinカゴです。
いまカゴの話をしている
場合じゃない!
いったいどうなってるの?
出発?
みんながイライラしそうな
ときこそ、力を抜いて。
この旅ではじめて体験した
ヨガでリラックス!
なかなかいいアイデアです。
とりあえずまたバスに乗車。
空港めざして夜道をひた走る!
空港到着〜!
さあさあ、みんな降りて降りて!
‥‥おや?
なにかおかしな人が
映ってますね。
カメラさん、ちょっと
ズームしてみてください。

ズーーーム。
おやおや、おもしろい人が
映っています。
さらにズーーーム。
おやおや、おもしろい顔です。
派手なズボンでおなじみの
ハリーでした。
さあ、気を取り直して、空港へ!
なんか、ちょっとまえにも
来た気がするんだけどなあ。
見てください。この電光掲示板。
22:00発の成田行きが、
まだ表示されたままです。
現在の時刻は、右上の赤い数字。
ええそうです、1:23分です。
深夜です。
ひとけのなくなった空港を移動。
ぞろぞろ、ぞろぞろ‥‥。
各種の手続きを
済ませまして‥‥。
例によって搭乗まえに
待たされたりして‥‥。
iPodと読書とダジャレで
時間を潰す社長。
また、おもしろい足もとを
発見してしまいました。
「慌てて準備して
 飛び出してきたのですが、
 5本指ソックスを
 履いたままでした」
とナカバヤシ。
うわあ、なんか気持ち悪い。
ありえない。
搭乗開始! いま何時?
もうよくわからない‥‥。
機内の様子を1枚だけ。
そして今度こそ
飛行機は飛び立ちます。
東京まで、約7時間ほど‥‥。
眠って、本を読んで、
ニコラス・ケイジ主演の
あまりおもしろくない
映画を観て、また眠って。
窓の外を見ると、
そこには見慣れた風景が。
ああああ、成田だ。
帰ってきちゃったなあ。
ああ、どう考えても成田だ。
成田空港だ。
んん?
これはモギちゃんの荷物‥‥。
よしよし。
ちゃんとカゴのなかに
カゴが入っています。
いくつかのグループに
分かれて移動。
リムジンバス、出発!
わーーーー、着いたぞお。
ただいま、明るいビル!
しかし、我々の旅は
ここで終わりではありません。
最後にひとつ、
大切なイベントが待っています。
青山でひらかれている、
岡本敏子さんのお別れの会に、
社員全員で出席するのです。
ほんとは家に帰ったあと、
各自で青山に集合する
予定だったんですけど、
飛行機が遅れてしまったため、
直接向かうことに。
会社に礼服を置いていた人は、
礼服に着替えます。
あ、べいちゃんも
会社に置いてたのかあ。
‥‥もしもし、ハリー?
まさかその格好でお別れ会へ?
さすがにちょっと
派手じゃないですかね? 
ほかのズボンはないの?
え、あるの?
じゃあ、それにすれば
いいじゃないか。
なんと、もう1本は
紫と白のシマシマ!
まともなズボンはないのか!
無難を重んじることはないのか!
ともかくみんなで
青山スパイラルホールへ。
「岡本敏子と語る広場」
一般の方も自由に参加できる
イベントです。
‥‥けっきょくその格好か。
え? 敏子さんなら
こっちのほうを喜ぶって?
ま、そうかもしれないけどさ。

会場へ。多くは語りません。
やさしくてあたたかい、
不思議な空間でした。

どこにも属していない
天使のような岡本敏子さん。
その向こうには、
TAROの姿も‥‥。
敏子さんへの最後のメッセージを
カードに書き込む糸井重里。
会場には、
スタイリストの伊賀大介さんと、
オリジナル・ラヴの
田島貴男さんの姿も‥‥。
笑顔でお別れを、
というわけには、
やっぱりいきませんでした。
すすり泣きが
ちょっとずつ伝染して、
みんながハンカチを
取り出す場面も‥‥。
光のなかに浮かぶ、
笑顔の敏子さん。
ほんとうに、突然で、
びっくりしました。
どうぞやすらかに。
会場を出ると、
そこは東京、青山。
「じゃあ、解散しましょうか」と
社長が告げて、
不思議な社員旅行は、
こんなところで終わります。

さあ、どたばたしたレポートも、
ここで終わりにしたいと思います。
長々とたいへん失礼いたしました。
またいつか、旅の報告をする機会があれば、
お会いしましょう。

バリは、たのしかったですよ、ほんとうに!
あの場所へ、また行けたらいいなと、強く思います。
あの海や空や風や夕焼けや湿気や光を、
また感じたいと強く思います。
こうして書いている、いまでも。

それでは、失礼いたします。
最終日のレポート担当は、永田でした。

(今週中に、写真好きの乗組員、
 山口がバリで撮った写真を掲載する予定です。
 どうぞおたのしみに‥‥!)


2005-06-19-SUN

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