第1回
ああ、この人は、
お父さんなんだ。
第2回
だから、俺はもう
ケンカはしない
第3回
一度きりの人生だもん。
泣いたり怒ったり
できたほうがいい。
第4回
あのシーンは俺ひとりで
生んだものじゃない
第5回
うまくはないけど、
嘘をつかない演技。
第6回
あいつが、
がんばれなくなるから。





── 「お父さんのバックドロップ」には
いろんな境遇の方が出てきますが。
宇梶 金持ちでもない、保護もされてない、
人間が平等だとも思ってない、
でも、愛されたい、尊敬されたい、
子どもはかわいいって
思ってるやつらですね。
いまよりよくなろう、
向き合おう、
がんばろうと
その3つくらいを思って生きてる。
そんな人たちの映画だから
みんな感じるところがあるんじゃないかな?

その3つの思いは、どんな立場の人でも
持っているものだと思うんです。
殺人者だって「よくなろう」と
思ってると思う。
行動が愚かなだけでね。

誰だって生きていていい。
でも、ただ生かされてるんじゃなくて
自分でひらいていければいい。
そんなメッセージが
この映画の原作に、すでにあるんだと思う。
中島らもという人のつくった原作に。

映画に出演もしている、中島らもさん。
── らもさんが亡くなられたのは、
映画が完成してからのことですね。
宇梶 そうです。らもさんが亡くなって、
監督といっしょにお宅にうかがったんです。
そしたら、奥さんが
「らもは、弱い人や弱いものが
 好きだったんですよ」
と、おっしゃっていました。
らもさんは、若手の劇団員や
食えないミュージシャンを
何年も自分の家に
住まわせていたような人でした。
そういう中島らもという人が書いた世界が
原作にすでに敷いてあったんです。
そこに何年もかけたすばらしい脚本、
芝居でしかアプローチしてこないキャスト、
それから俺が関わらせていただきました。

これは、奇跡みたいな映画だと思います。
やっぱりひとりでも多くの人に、
できればスクリーンで見てほしいです。
── 土日はいつも満席ですね。
男性がよく泣かれるそうですよ。
彼女を連れている手前、
すぐに席を立てない人が
けっこういるらしいです。
宇梶 書いた本人(らもさん)からして、
そうだったもんね。
── らもさん、
映画を見終わって号泣されたらしいですね。
客電をつけないでほしい、
と言われたとか‥‥。
私は、おじいさん役の
南方英二さん(チャンバラトリオ)に
ものすごくやられてしまいました。

南方英二さん。宇梶さん扮する牛之助の父を演じた。
宇梶 よすぎだよね、あの人。
あの人は‥‥すてきだったよ。
── ふだんもああいうペースの方なんですか?
宇梶

もっとやさしい。
もっともっと。
あのくらいの歳になると、
人間の邪気みたいなものが
なくなっていくのかな。
あれは、人間の美しい形だろうねえ
(しみじみ)。
俺なんかだと
500、1000の体験や価値観のなかから
何かひとつを取り出して
こうやってお話してるけど、
あの人は、1万、10万のなかから、
ポッと宝物のようなことを話してくれる。
しかも、あれだけの人だから
もう自分が優位に立とうとして
しゃべってるわけじゃない。
出て来る言葉が、んもう、
アルカリイオン水だよ(笑)。
俺のはまだまだカルキが入ってるな。

── これから宇梶さんは、歳を取っていくのが
とてもたのしみなんじゃないでしょうか。
宇梶 うん、せがれともよく話すんだけど、
「何になろうか」っていうのは、
好きずきもあるし、
思っていてもできないこともあるから、
よくわからない。
でも、せっかくだから
「いい人間になろう」って思うんです。
そういうのを1個持っとくだけで、
いま自分が
やっていることが、
「どうか?」
って、きちんと疑えるから。
自分への疑いは、大人の責任だよ。

だって、人を殺したり戦争を起こすのは、
状況のせいでそうなっている場合も
あるだろうけど、
自分を疑ってないやつだよ。

自分を疑うことができたら、
人なんて殺せないよ、決して。
── 自分を俯瞰して疑っていく視点を
ひとつ持っていると、
これから大人として歳を重ねていくうえで
たいせつなチェックができますね。
貴重なお話を、
どうもありがとうございました。
ところで、今度は牛之助の息子の一雄、
つまり神木隆之介くんが
「ほぼ日」に遊びにきてくれるんですけど、
なにか伝えたいことはありますか?
宇梶 「俺は人生は
 おいしくねえよ。
 おまえは人生、
 うまいか?」

これだけ、言っといてください。
── はっ!
了解しました!
宇梶 わかったって、
わかんなくたっていいや、ハハハハ。

さて神木くんは、この言葉を
どんなふうに捉えるのでしょうか。
次回からは、
息子からの「バックドロップ」をお届けします。
おったのしみにー!


 
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2004-11-12-FRI


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