じぶんで決める、じぶんの仕事。 『アルネ』の大橋歩さんに、糸井重里が聞きました。
60年代の『平凡パンチ』から現在の『アルネ』へと、
新しい世界を切り開きつづける大橋歩さんに、
大橋さんのことをとても尊敬する糸井重里が、
長いいろんなお仕事にまつわるお話を聞きました。

いま、いっしょうけんめい仕事をしている人、
これから、あたらしい仕事をしようという人、
ちょっと、うまくいかないんだよなあという人、
ひとりで仕事をしている人、
仲間と仕事をしている人、
みんなに読んでいただきたいお話です。

*このインタビューは2006年に開かれた大橋歩さんの
イラストレーション展のなかでお客さまを前に行なわれました。


 
 
最終回
普通であること、のたいせつさ。
 


最終回 普通であること、のたいせつさ。

糸井 ではもうひとり、
質問を受けましょうか。
  ---------------------------------------------------------
学生なんですけど、
これから社会に出るにあたって、
お仕事をする上で、
こういう人となら面白い仕事ができるなとか、
どんな人と会って仕事がしたいなって
そういう人間性みたいな部分で、
どんな人を面白いと思っているのかなと
いうのを、糸井さんと大橋さんに、
お聞きしたいです。
---------------------------------------------------------
糸井 僕、友達が年上に多いタイプなんです。
本当にね、もうすぐ死ぬみたいなことを、
自分で平気で言える人たちと
普通に話してるときに、その人がだいたい
僕にいろんなことを聞いてくれるんですよ。
子供みたいに。
たとえば中日の落合っていう人は
どうして人気が出ないのかねえ(笑)。
そんな会話があったわけじゃないですけど、
たとえばね、で、
僕が答えている状況っていうのが結構あって、
「ああ!」って言ってくれるんですよ。
で、同じように僕はその人に対して、
これはどういうことなんですかね、と言うと、
それはあれじゃないですかねって
言うんですよ。
つまり両方とも一番地面のところで喋る。
それは全部面白いですね。
で、若い子と喋ってても同じなんで、
僕はその若い子に対して
言えることまでは言うし、
逆に聞きたいことがあれば聞くし、
っていうので、すっと平らになれる。
で、何かありげな人は、たとえば
カメラの話でもね、
自称カメラマンていう人とかと喋ってるとき、
つまんないのは、
糸井さん、それ、こうするといいんですよ、
てなこと言われると、
そういうことじゃないんだよ! って。
全員 (笑)
糸井 俺はお前がカメラマンで生きてる、
このところよりももっと
こんなに高くて低いことを聞いてるんだよ!
って言いたいんです。
つまり、なまじの高さって
もううざったいんですよ。
一番低いものと一番高いものっていうのは
イコールなんですよ。だから素直に
ほんとに気持ちよく、
何も知らない人同士として喋ってるときは、
どんなにプロと喋っててもおもしろいですよ。
で、半端に知識のあるやつと喋ってるのは
もう全部つまんない。
若い子もゼロの子が全部面白いんです。
大橋 わかります。
糸井 そうですか、
で、大橋さんに渡します。
大橋 自分が何ができるかっていうこと。
若い人は、
勉強して来たから仕事ができると思っている
けれども、実際には
通用するとは言えないような
気がするんです。
だから今、おっしゃったみたいに、
そういうことはちょっと
横に置いておいて。その人の
人間的なもの、普通のところ。
仕事ができるできないとかっていうこととは
全然違う、たとえば、
おいしいご飯食べて、いい友達がいて、
それでお掃除ができてとか、
そういうごく普通のことがまじめにできる人、で
十分じゃないかなと思うんですね。
学校で習ってきて、
それが私にはとてもできるんだ、
と思っている人が多すぎ。
習って来たからできるから、
それを仕事としていきたいと
思ってる方が多いんです。けれども、
それは実はほとんど役にも立たないことが
多いんですよね。
こういうともうしわけないですけど(笑)。
それよりもその人の、普通のところ。
普通の生活ができるかというようなところが
やっぱり一番大事。
そうすれば逆に習ってきたものが、
しばらくしたら役に立っていくんじゃないかな
と思います。
糸井 最高にその通りです、
いや、今日の大橋さんが感謝していた
清水さんという人は、マガジンハウスの、
社長になられた清水達夫さん‥‥ですよね?
大橋 あ、会長になられて、
でも、もうお亡くなりになられた。
糸井 先祖みたいな人ですよね。
大橋 創始者。
糸井 ──ていう人なんですよ。
で、その人がヒントになってるんだけど、
何も言わなかったけど、
「いいね」って言って選んだでしょ。
お客さんと同じことをしたんですよ。
つまり、大橋さんの『平凡パンチ』の絵を
お客さんがいいねと思ったんです。
で、来週も見たいねって思ったんですよ。
で、その清水さんていう、一番偉い人も
大橋さんの絵を見て、
いいね、って思ったんです。
で、それが最大の仕事だったんです。
だからお客さんと
一番偉いさんだった清水さんという創始者は
同じことしてるわけで、
何もしてないとも言えるんですよ。
いいね、っていうのがちゃんと言える、
っていうのはものすごい大仕事なんです。
だからお客さんとして最高のお客さんは
すぐに何かになりますよね。多分。
安心してください。
ということで、終りにしましょう。
大橋さん、今日はどうも、ありがとうございました!
大橋 いえいえ、こちらこそ、
本当にありがとうございました。
 
(おわりです!)
2007-02-14-WED
協力=クリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデン
 
 


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN