第2回 ハダカになって唄う。

糸井 だってさ、仮に1万人いたらさ、
1万人に体投げ出してるわけじゃない。
真っ裸になって。
綾戸 そうです。
糸井 そんなものは、家族は見たくないよね、
ある意味ではね。
綾戸 そうです。
かわいそうだもん。
糸井 (ステージでは)みんなのものだし。
綾戸 イサにとっては、
ママとられたようなもんだもん。
糸井 うーん。
綾戸 逆に、家に入って、爪に土つけながら、
ジャガイモの皮とかむいてるでしょ。
そうすると、
「えーっ、なんでー、綾戸さん
 お化粧もしてないで、真っ黒!
 うわー、上下のスエットスーツで!」って。
糸井 (笑)また選んだように、ヒドイ格好してるねえ。
綾戸 うん、そうなの。
お客さんは見たくないよね。
でも、家族はそれで安心する。
糸井 それって、(ステージと家庭と)
どっちが落ち着くわけでも
何でもないんだよねえ。
綾戸 両方ないとダメなの。
シーソーみたい。
糸井 みんな、ほんとはそうなのかもね。
昔さ、荒木経惟さんてカメラマンが
「あらゆる女は女優である」って
タイトルの本を出したんだけど、
女の人って、すっごく芝居するじゃない。
たとえばの話、
隣りに誰が座るのかだけで
足の組み方や声の出し方が違うじゃない。
綾戸 そりゃそうです。
オンナは魔物でっせ〜!
糸井 ぼくは知らないけど、
ジャニス・ジョップリンという人に、
綾戸さん、似てない?
綾戸 うん。
似てると思う。
糸井 ねえ。
自伝みたいなの読んだけど・・・
綾戸 ワタシも読んだ。
糸井 ぼくも綾戸さんを最初の頃に見たとき
ジャニス型の人なんだろうなあ、とは思った。
綾戸 似てる。よく似てる。
糸井 なんていうの、文学少女みたいなヤツで、
小生意気なことずーっと考えてて。
ウンコ、おしっこっていっぱい言う人って
ぜったいそうだよね。
綾戸 うん。
ワタシ、ウンコ、おしっこ多い。
糸井 ねえ。
自分に汚しかけてって、
耐性をつけてるっていうか。
綾戸 もう、ウンコの話、すごい。
スカトロかなとも思うくらい(笑)。
でも人のウンコ嫌いだから、
そういうんじゃないんだけど。
糸井 ホントのウンコじゃなくって
「ウンコ」って言いたいんでしょ。
綾戸 言いたいの!
ウンコって言ってると、
みんなと仲良くなれるそうな気がして(笑)。
糸井 この間、テレビ番組でモーツアルトをやってて、
モーツアルトがそうだったって。
綾戸 うんうん。
そうなのね、彼。
糸井 ふつう、ほんとはそうなんじゃないの。
何が汚くって、何が汚くないとかって
誰がルール決めたかわからないものだから、
やっぱりガマンしてると言いたくなるんじゃないの(笑)。
綾戸 ワタシ、ウンコの例え多いよ。
糸井 今日だけで100回くらい言ってるよね。
綾戸 こんなもんじゃない。
インタビューされても
ウンコの話ばっかするよ。
糸井 犬はさー、それを汚いとも思わないわけよ。
なめたりして。
で、汚いって人間だけじゃない。
で、もう1回考えると、
なんで汚いのかもわからないじゃない。
そういうことを無意識に感じてるんだね、普段。
綾戸 あのねえ、ワタシ、
“汚いでしょう大賞”の話をしたことあるの。
ゴスペル隊の生徒がね、
唄うときにあんまり萎縮するもんだから、
もうちょっと裸でいいって話をしたかったのよ。
「ゲロを食べるくらいのつもりで歌いなさい」
って言ったら、生徒が
「わからない、その意味が」って言うから、
じゃあ説明するって。
第3位が床をなめた人、
第2位がナマで昆虫を食べた人、
で、第1位がぞうきんの汁を飲んだ人だった。
そして、表彰式になって
ぞうきんの汁を飲んだ第1位が
ウエーッってゲロ吐いたの。
そしたら、4位だった男がそれを食べたんで、
そいつが繰り上げ当選になったのよ(笑)。
「それがほんとの『汚い』なのよ」って。
「あんたが、思いっきり唄う自分が
 汚いって思ってるかもしれないけど、
 それほんとは汚くないから。
 そんなに唄うとき固くならないでいい」って。
いっそ、瞬間でゲロを食ったときのような覚悟で
歌を唄いなさいって。
ほんとに食べなくていいからね(笑)、
そのくらいの気分で裸になって唄えば、
もうちょっと楽に唄えると思う、って。
糸井 それ、裸以上だね。
綾戸 ワタシいつもそうやって唄ってるんです。
だから、ワタシ、バンドのメンバーのこと
「みんな大事、大好き大好き!」
って思ってるんだけど、
あんまりそう言うのってイヤらしいからね、
「大好き大好き、だからワタシのウンコ食え!」
みたいな感じで、冗談にするの。
そしたら楽に伝えられる。
糸井 それ伝わってるよね。

2000-06-19-MON

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