アムスでダンス。
J-POPはオランダの夜に流れる

第8回 コーヒーショップと葉っぱ屋さん


『キル・ビル』が話題のタランティーノ監督ですが、
1994年の『パルプ・フィクション』には
まさに世界中の若者たちがそのカッコよさに
打ちのめされたものでした。
メビウスの輪のように張り巡らされたストーリー展開の
間々に登場人物たちが織り成すウィットに富んだ会話を
真似てカッコつけたものでした。
その『パルプ・フィクション』の第二場面で、
ジョン・トラボルタがサミュエル・L・ジャクソンに
アムスの話をするシーンがあります。

ジャクソン
 「OK。もう一回そのアムスのハッシュバーの話をしてくれよ」

トラボルタ
 「何が聞きたい?」

ジャクソン
 「ハッパは合法なんだよな」

トラボルタ
 「ああ、合法なんだけど、100%合法っていうわけじゃない。
  そのへんのレストランに入ってジョイント巻いて
  吸っていいってわけじゃない。
  (彼らは)家で吸ったり、決められた場所で
  吸わせるようにしてるんだ」

ジャクソン
 「それがハッシュバーなんだな」

トラボルタ
 「大体こんな感じだ。買うのも合法、持つのも合法、
  持ち歩いててもいい。ハッシュバーをやっていたら
  売るのも合法だ。ていうか、そんなことよりもね、
  こういったがいいかな。
  アムスの街中で警察に止められるだろ。
  でも警察が身体検査をするのは違法なんだ。
  アムスの警察には身体検査をする権利がないんだ」

ジャクソン
 「オー。メェーーン。行かなきゃな、アムスに」

トラボルタ
 「気に入るよ。きっと。
  んー、ヨーロッパの面白いところはねー、
  ちょっとずつ何かが違うんだよ。
  することはいっしょなんだけどね。
  でも、ほんのちょっとだけやり方が違うんだよね」

ジャクソン
 「例えば?」

――といいながら、オランダではフライドポテトに
ケチャップではなくマヨネーズをかけたりするなどと、
ヨーロッパとアメリカの小さな違いを説明する
機知に富んだ会話が続きます。


アムステルダム事情と聞かれて、おそらく、
あれっ、あれの話しは出ないのか、
と気に掛けておられる方も実はいらっしゃると思いますので、
一回くらいは話しておきます。

はい、大麻マリファナのことですね。

まず、上の二人の会話は凡そ正確です。
オランダではほとんどみんなポテトに
マヨネーズをかけて食べることと同じくらいに。
ちなみにそのマヨネーズはマックでも有料で
小パックを買わなければいけないことと、
上でハッシュバーと呼ばれている
「マリファナが買えて吸えるバー」は、
地元では「コーヒーショップ」と呼ばれていることを
付け加えておけば、特に訂正するところはありません。

そういうコーヒーショップが
アムステルダムだけでも250以上もあります。
ヨーロッパ中のみならず世界中から
それらを目指してやってくる観光客も多く、
もはやコーヒーショップは
アムスの一大観光産業と化しています。
葉っぱ屋さん、つまりそれらの大麻マリファナも売っている
喫茶店というかカフェが街中に普通にあります。


葉っぱ屋さんです。カードOK!

ところでアムステルダムでは
何でもやっていいのかといいますと、
全くそんなことはありません。
実は色んな規制があるんです。
上の会話からも、大麻はどこでも吸っていい、
誰でも売っていいというわけではないという規制や、
令状なしでは警察官は身体検査が出来ない、
という規制が読み取れますが、実はそういうことに限らず、
いろんな規制があるんです。
で、わりとみんな納得すればそのような規則を守ります。

例えば、交通の例を挙げますと、
アムスは自転車の街なのですが、
夜、自転車のライトをつけていないところを
パトロール中の交通警察にみつかると、罰金です。
駐車違反の取り締まりも厳しいですし、
自転車できちんと右側を走っていないと、
一般の人からも怒られます。
マリファナを吸うことより、
夜自転車のライトをつけない方が、
社会的には良くないという
社会的コンセンサスが出来ている(のかな)。

もうひとつ所変われば品変わる例を挙げますと、
リオ吉の働くお寿司屋さんは、
そんなコーヒーショップ達に
挟まれるかたちであるんですが、
回転寿司ですから、あまりが出るんですね。
それで勿体無いんで、その余った寿司を、
隣のコーヒーショップに持っていくと、
頼みもしないのに ジョイント(大麻とタバコを
まぜて巻いたもの)をくれるんです。
はっきりいって寿司の方が価値がある。末端価格が高い。
こそこそやるんじゃないんですよ、
「マリファナ=悪いもの」という概念も感覚も、
んー、ないんですよ、オランダには。
ごくごく普通の人々にも。


葉っぱの種やキノコなんかを売っているお土産やさん。
楽しそうでしょ。


おそらくここまで読まれたところで、
眉を顰めた方もいらっしゃるかもしれません。
麻薬に関して嫌な経験をされた方も
いらっしゃるかもしれませんし。
ですが、最近、あるミュージッシャンの
大麻所持逮捕を報道している日本の民放局ニュースを
目にする機会が久しぶりにあったのですが、
まるで罪人扱いの報道の仕方に、
正直、逆にびっくりしてしまいました。
ま、日本では違法なのですから、
それはそうなんでしょうけど、
もちょっと人間扱いしてあげればいいのにと。

政策的にいうと、オランダは70年代に、
コカインやヘロインなどのハードドラッグと
大麻などのソフトドラッグを分け、
取り締まりはハードドラッグに集中するという実験に
踏み切りました。
その結果、統計的にも感覚的にも
ことさら問題が増えたようには見られないため、
大麻、マリファナに関してのみは、
もはや誰も問題にしなくなっているといった感じです。

他国からのプレッシャーはかかっているんですが、
再度違法に戻した方がいいと考えている人は
オランダではかなり稀なのではないでしょうか。
本当にそんな感じなんです。

吸ったらどうなるのですかって?
アムスに来て、自分の責任で経験してください。
何事も自らの経験により判断するのがベストです。
でも決して日本で吸ってはイケマセン。
いまのところ。
えー、正直且つ率直なアムスリポートでした。

リオ吉

2003-11-20-THU


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