第8回:愛について

糸井
恋愛面での行動がわかりやすいのは
谷川俊太郎さんですよね。
阿川
ああ、谷川さん。
「僕は詩をずっと書いてきたけれども、
 よくよく顧みると、
 ほとんど女のことしか考えてなかった」
なんてことを、さらっとおっしゃるから
「え?」って(笑)。
糸井
完成してますよね。
阿川
ご本人がおっしゃってましたけども、
なぜ何回も別れを繰り返すのかというと、
相手のほうが嫌になっちゃうらしいんです。
いまここで抱きしめてほしいという気持ちや
いまここであなたは私をどう思ってるか
ということに対して、
わりに淡白な態度をおとりになるらしい。
糸井
谷川さんが?
阿川
谷川さんが。
別にお相手を嫌いなわけじゃなくて。
糸井
後ろ手で鍵かけられない少年の話ですね。
阿川
草食男子系ってこと?
糸井
いや、この場合、草食とは限らなくて、
たとえばの話、
阿川さんが詩を大好きな少女だとして、
谷川先生とお話して、
詩の話を雲の上でずっとやりとりしてるときに、
鍵のことを出しちゃダメじゃないですか。
阿川
別にかまわないけど、私は(笑)。
糸井
「詩のままでいたい」と。
阿川
だとしたら、どのタイミングで
鍵を閉めていらっしゃるのか、
そこがよくわからないですね。
糸井
鍵閉めだらけかも(笑)。
阿川
(笑)閉めだらけ。
糸井
あの人は、ワルぶるかわりに、
「僕はとても恋多き人です」という宣言を
しているんじゃないかな。
鍵閉めやすい状況を自ら作ってる気がする。
‥‥って、これ、谷川さんが読むのかなぁ(笑)。
谷川さん、このへんまで
しゃべって大丈夫ですよね?
阿川
「ちょっと違うんだけど」って
ここで出てきたらおかしいのにね。
糸井
こういう話、芸能の人なんかだと、
もっと生々しくてややこしいけど、
谷川さんだと平気なのは、なんなんだろう?
一緒にこういう話ができそうですね。
阿川
なんなんでしょうね。
危険オーラを出しつつも、
でも、寄り添っていたいと思える男の人って
素敵だなと思うんです。
糸井
それは谷川さんの素敵なところですね。
阿川
鍵閉められてもいいか、みたいな(笑)。
糸井
愛とかエロチシズムのなかで、人が
「いい気持ちに感じる」ようなことは
やっぱり文化が作ったものだと思うんです。
阿川
いい気持ちを?
糸井
うん。いい気持ちの中に、
「その制度は文化ですよね」というのが多分あります。
それは、50万年前にさかのぼったら
見つけられない
なにかがあるはずなんです。
阿川
あ、はいはい。
ただ押し倒すだけじゃない
なにかがある。
糸井
つまり、
「元客室乗務員でした」みたいなセリフが
どういうふうに関係あるかみたいな‥‥。
阿川
(真顔で)
なんで客室乗務員が好きなんですか、男は。
糸井
いや、例です、例。
例に出すのにすごく都合がよかったんですよ。
僕は知らないですよ、客室乗務員のことは(笑)。
阿川
(笑)
糸井
純度100%の愛、というのがあって、
物語はそこを表現したくて
成り立ってるような気がするんです。
だから、恋愛ドラマでも
そうじゃない不純物をあえて出すことによって、
こちらには純がありますよ、という例を出します。
たとえば「悪い女がいて遺産目当てで」とかいうのを
散々描く。
でも、逆に言うと、
遺産目当ての人の純愛を
描くのもありだと思うんです。
阿川
かえって純度が増しそうですもんね。
糸井
石油王とかが84歳ぐらいになってから、
すごく若い人と結婚したりするじゃないですか。
あれをみんな笑うんです。
「あれは遺産目当てに決まってる」とか、
「見るに見かねるね、あのネエちゃんの存在は」
みたいなことを言う。
そうやって利口ぶってる男の人はみんな、
半端にしか物を考えてないと思います。
阿川
ステレオタイプにしか考えてない。
糸井
うん。いくらつぎ込んだとしても、
なにもかもを捧げて、
その子に好かれたいと思ってるんです。
84歳の小金持ちは全うしたんですよ。
だから、遺産目当てだと人が吹き込んでも、
いいじゃん、遺産なんか。
遺産目当てだとしても、
俺は金要らないもん、と思ってるにちがいない。
「この子は僕に親切にしてくれてね、
 このあいだも、たのしかったんだよー」
みたいに思ってる人を
批判してる人は負けてるんですよ。
阿川
なんか後妻業推進委員会の
会長みたいな話になってきた(笑)。
昔、布団訪問販売の人が、
おばあちゃんを騙して捕まったという
実際の話があって。
犯人をつかまえたあと、
警察の人が、そのおばあちゃんに、
「ひどい目に遭いましたねえ」って言うと
「あの人は本当にいい人だった。
 あの人ほど私に親切な人はいなかった。
 どれほどお金を貢いでも、
 そんなのなにも損したとか思わなかった」
と、こたえたそうです。
そのおばあちゃんの証言に、
世の中はたいへんな衝撃を受けたんですが、
でも、それ、わかりますよね。
糸井
わかるよね。
阿川
わかる。息子や娘はこんなに
話を聞いてくれなかったっていうことでしょう、きっと。
糸井
心からうれしいと思えたら、
それをほかの価値で、
「財産取られたんですよね」
って言われても‥‥。
阿川
そうそうそうそう。
本人が幸せなら。
糸井
みんな、ああだこうだ言って、
どっちが利口かの話をしてるんです。
でも、どっちが利口かなんていうのは、
たかが知れてるわけで。
阿川
カップルを見て、釣合いがいいとか
不釣合いだとか、
なんであの人、あんな人を選んだんだろうとか、
勝手にあれこれ批判するけど、
シアワセな二人には関係ないっすよね。
糸井
うん。やっぱりいろいろ浮名を流した人が
最後に結婚するのは
マネージャーだったりするんですよね。
ほかにも、ファンクラブ会長とか、
丸々認めてくれたり叱ってくれたりする
お母さんみたいな人で。
阿川
ああ‥‥。
糸井
なんて言うのかな、
人が、「これは愛でこれは愛じゃない」なんて
分けていろんなことを言ってるけど、
そんなこと誰が決めるんだよ、って思います。
本人が言うことでしょう。
阿川
ああ、本当にそうですね。
でも、他人の愛については
とやかく言いたくなるんですよね、つい。

(つづきます)

2015-02-18-WED